『数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実』で遊ぶ

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いやぁ,昨年の発売直後に買った(というか予約してた)のに,仕事が忙しかったりプライベートでも色々あってなかなか読み進められなかった。 ようやく読み終わったですよ。

「数学ガールの秘密ノート」シリーズは「読む(read)」というより「遊ぶ(play)」という言葉がふさわしいと思う。 読んでて自然と手が動く。 紙と鉛筆が必須の本(笑)

今回はミルカさん回かなぁ。 ミルカさんって「才女」という設定で言動もクールなんだけど,今回に限っては「飼い主を引っ張り回す散歩中のワンコ」みたいで面白かった。 「僕」はミルカさんについていけるけど,テトラちゃんは引っ張り回されて大慌てな感じがまた可愛らしい。 そしてユーリちゃんはいつものようにマイペース。

さて。

今回は「丸い三角関数」の続編と言えるかもしれない。 「丸い三角関数」で書いた感想は以下のとおり。

この時も書いたが,三角関数は空間をイメージしながら考えると楽に理解できる。 「ベクトル」はそういった空間をイメージするのに最適な題材である。 いわゆる実数は1次元空間として理解できるし,実数を1次元空間として理解できれば複素数は平面(2次元)で考えればいいのだから楽勝である。 こうして考えていけば3次元,4次元, …と図には書けなくなっても数式でイメージできるようになる。 これは人類の素晴らしい叡智のひとつである。

「ベクトルの真実」を読むと分かるとおり,ベクトルを表すには最低でも次数の数だけパラメータが必要である。 1次元ならひとつ $(x)$,2次元ならふたつ $(x,y)$,3次元なら3つ $(x,y,z)$ といった具合に。 また「向きと大きさ」が分かればいいのだから,2次元ベクトルであれば「$x$ 軸に対する角度」と「大きさ」の2つのパラメータで表すこともできる1。 いずれにしろ次数の数だけパラメータが必要だ。 しかし例外もある。 星の位置である。

初等天文学では「天球」という概念を導入する。 「天球」の定義は「観測者を中心とした無限遠の球」である2。 夜空の星々はこの「天球」上に存在すると見なすわけだ。 大きさが「無限遠」である点がポイント。 大きさを「無限遠」とすることで,3次元空間にあるはずの天体を2つのパラメータで表せるようになる。 これが赤経と赤緯である。

私はこの説明を聞いたとき小躍りしたよ。 「無限遠の球」なんて概念が日常生活の中にあるなんて!

もちろん,実際には天体までの距離は有限である。 それを「天球」に投影3 することで太陽系天体の天球上での軌道や恒星観測時の年周視差や光行差4 とかいった奇天烈なものが見えてくる。 そしてそういったものが観測された時に「それは何故か?」と考えることが科学の始まりである。

てな感じで,物語を追いかけながら脳みその別の部分で宇宙空間に思いを馳せたりしていた。 いやぁ,楽しい楽しい。

毎度のことながら。 「数学ガールの秘密ノート」シリーズは数学成分多めで中学生以上を対象にしているが,小学生高学年なら頑張れば理解できるはず。 てか,是非挑戦して欲しい。 前にも書いたが,私が小学生なら「数学ガールの秘密ノート」シリーズは絶好の「夏休みの自由研究」ネタだよ(笑)

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数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実
結城 浩 (著)
SBクリエイティブ 2015-11-17 (Release 2015-12-03)
Kindle版
B018VE46YW (ASIN)
評価     

図形(具象)と数式(抽象)の往復は楽しい。

reviewed by Spiegel on 2016-03-04 (powered by PA-APIv5)


  1. これを「極座標系」と呼ぶ。また座標軸に対する角度を「偏角」,大きさを「動径」と呼ぶ。「ベクトルの真実」ではこれらの名前は出てこなかったが,極座標系の考え方はあちこちに書かれている。 ↩︎

  2. ちなみに神話的には神々は「天球」外側に存在すると考えられている。中世の星座絵が反転してるのは「神の視点」を意識しているからである。3次元の「無限遠の球」の外側に神が居るとか面白すぎる! ↩︎

  3. そういえば「ベクトルの真実」でも「ベクトルの影」という言い回しをしてたな。 ↩︎

  4. 光行差が発見されたのは18世紀である。光行差が発見できるほど観測技術が進歩したということでもある。 ↩︎