「「私は数式アレルギーの文系でして」とへらへら笑う大人に耳を貸すな」は正しい

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(「アレルギー」ってドイツ語なのね)

何を怒っているかというと「私は数式アレルギーでして(てへ)」といってる(自称)大人に怒るのだ。勉強不足を恥じろよ。若者を自分のレベルまで落とそうとするなよ。文系ですからなんていうなよ。きょうび文系でもしっかり数式はよむぜ!若者を自分のレベルまでおとしめようとするのに腹が立つのだ。

学生時代,友人(文学部・考古学専攻)に微分方程式の検算を頼まれたことがある。 卒論で調査した遺跡を統計処理するためらしい。 理系だろうが文系だろうが数学ができないのはちっとも自慢にならない。 ちなみに当時理学部にいた私たちは「数学科は文系クラス」と認識していた。

あるいは,近年は見なくなったが,昔は「私はプログラムは分からないので」などと公言する SE1 がいっぱいいた。 プログラムは「動いてるコード」のみが正解である。 コードが読めなくてどうやってプロジェクトを管理するのかと思ったが,やはりそういう人間に限って管理できていなかった。 コードを VCS (Version Control System) で管理するようになれば,なおさらコードが読めなければ仕事にならない(のでそういう人は排除されてしまったんだろう)。

苦手な分野があるのは分かる。 私は子供の頃から英語が壊滅的で今でも大変苦労している。 しかし学生時代なら多少学業成績が悪くても「てへぺろ」と笑って済ませられるが,社会人になったら「分からない」ことは言い訳にならない2。 ましてや分からないことを「アレルギー」などと詐称して分からないまま放置して平気というのは明確に恥である3。 英語ができないからといって英語の論文や技術文書を読まなくて済む法はない4。 プロアスリートだって海外の最新論文から学んだりするのである。

これは大きな声で言っていいと思うが,学生時代より社会人になってからのほうが百倍は勉強している5。 だからこそ大人は言うのである。 学生 (ヒマ) なうちに勉強しておけ,と。

前にも書いた

ちなみに「人工知能」の台頭を意識しているのなら,なおさら「プログラミング教育」は不要である。 なぜなら「問題を解決する仕事」はこれからどんどん機械が奪っていくから。 そうなった時に望まれる人材は「問題を解決できる人」ではなく「正しい問いを立てられる人」である。 親や学校教師に言われた通りのことしかできない子どもは,大人社会の中では機械以下の底辺でしか生きられなくなる。

「正しい問いを立てられる」ことはこれからの人にとって必須スキルになる。 「正しい問いを立てられる」ようになるには数学をきちんと修めることである(「掛け算は順序が大事」などは問題外)。 学術分野に進まなくても「数学的なものの考え方」は将来の貴方の役に立つはずである。

外国語にせよ数式にせよプログラミング言語にせよ,自身とは異質な「言語」を学ぶというのは背後にある学問体系や思想や哲学といったものを丸ごと学ぶのに等しい。 それは人の「想像力の地平線」を拡大する数少ない手段のひとつである。

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参考文献

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数学ガールの誕生 理想の数学対話を求めて
結城 浩 (著)
SBクリエイティブ 2013-09-13 (Release 2014-09-13)
Kindle版
B00NAQA33A (ASIN)
評価     

結城浩さんの講演集。こういう場所に立ち会える今の学生さんは羨ましい。

reviewed by Spiegel on 2013-09-21 (powered by PA-APIv5)

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いかにして問題をとくか
G. ポリア (著), Polya,G. (原著), 賢信, 柿内 (翻訳)
丸善 1975-04-01
単行本
4621045938 (ASIN), 9784621045930 (EAN), 4621045938 (ISBN)
評価     

数学書。というか問いの立てかたやものの考え方についての指南書。のようなものかな。

reviewed by Spiegel on 2014-09-26 (powered by PA-APIv5)


  1. SE (System Engineer) という言葉がもう古語かもしれないが。 ↩︎

  2. 学校教師のように怒られることはないだろうが,懇切丁寧に教えてくれることもない。ただ「能力が低い」と見なされるだけである。 ↩︎

  3. ただし人には向き不向きというものがある。向いてないものに貴重なリソースを割くのは賢明でないこともある。もしかしたら自らの無能を「アレルギー」と称しているのは深い複合感情(complex)から来るものなのかもしれない。 ↩︎

  4. 幸いというか,技術文書は英語力がなくてもある程度は読める。いやホンマに助かる。 ↩︎

  5. ずい分前に書いたが,私は企業の新人研修で専門学校2年分のカリキュラムを3ヶ月でやらされた。なので「学校で習うプログラミング」に対する評価が低い。 ↩︎