帰ってきた「しっぽのさきっちょ」

しっぽのさきっちょ: 2016-10-20 付 (2016-10-23 更新)

「PHOTO METI PROJECT」の利用規約が変わっていた

no extension

先月書いた「経産省は CC Licenses を知らない?」は微妙に反響があったようで恐縮です。

「規約」にまつわるこの手のミスは昔からある話だし,経産省ともあろうところがこんな頭の悪いミスをいつまでも放置するとは思えなかったので,私としては書くだけ書いて知らんぷりしてたのだが,この前 PHOTO METI PROJECT のサイトを覗いたら利用規約が変わってたのでひと安心である。

どう変わったかは「経産省は CC Licenses を知らない?」の追記部分を見ていただくとして,ここでは一点だけ「禁止事項」について言及しておく。 利用規約の「禁止事項」は以下の6項目になっている。

  1. 軍事目的での使用
  2. 公序良俗に反する目的での使用
  3. 日本国、他国または第三者の名誉または信用を毀損する目的での使用
  4. 写真素材の撮影者の名誉又は声望を害する方法での使用
  5. 犯罪的行為目的での使用
  6. 本サービスの円滑な提供を妨げる目的での使用

まず「自由のライセンス」においては利用目的や利用者自身を差別してはならないという大原則がある。 それがたとえ悪意によるものであっても。

たとえば数多ある「オープンソース」を定義する OSD (Open Source Definition) では

  • 個人やグループに対する差別の禁止
  • 利用する分野(fields of endeavor)に対する差別の禁止

が掲げられている1。 CC Licenses でも(特に Free Culture License に分類される CC0, BY, BY-SA では)この考え方は尊重されている。 「表現」「創作」に関する問題ではないことを著作権で制限しようというのは「弾圧」と同義である。

先の禁止事項で言うと「軍事目的での使用」「日本国、他国または第三者の名誉または信用を毀損する目的での使用」は明らかに外交問題あるいは軍事問題であり,著作権ライセンスの出る幕ではない。 これは経産省ではなく外務省や防衛省のお仕事である。 「公序良俗に反する目的での使用」「犯罪的行為目的での使用」「本サービスの円滑な提供を妨げる目的での使用」も同様で,これは警察のお仕事である。

犯罪が行われることと犯罪のために某かの「表現が利用される」ことは全く別の問題なのである。 そもそも犯罪者に「あなたがたがそのコンテンツを利用するのは利用規約に反するので止めなさい」と言ったところで何の意味があるというのだろう。 ケーサツは罪状が増えて喜ぶかもしれないが抑止力にはならない。

問題は「写真素材の撮影者の名誉又は声望を害する方法での使用」の部分。 これは恐らく著作者人格権を指しているものと思われる。

実は CC Licenses の Version 3 までは,ある程度は著作者人格権を認める傾向にあった。 たとえば Version 2.1 日本版では

原著作者及び実演家の名誉又は声望を害する方法で原著作物を改作、変形もしくは翻案して生じる著作物は、この利用許諾の目的においては、二次的著作物に含まれない。
via クリエイティブ・コモンズ リーガル・コード — 表示-継承 2.1 日本版

とあり,原著作者の名誉・声望を害する改変は二次的著作物に含めない,としている。 また 3.0 Unported でも同様に

Except as otherwise agreed in writing by the Licensor or as may be otherwise permitted by applicable law, if You Reproduce, Distribute or Publicly Perform the Work either by itself or as part of any Adaptations or Collections, You must not distort, mutilate, modify or take other derogatory action in relation to the Work which would be prejudicial to the Original Author's honor or reputation.
via Creative Commons Legal Code — Attribution-ShareAlike 3.0 Unported

となっている2

これが Version 4.0 International では

同一性保持の権利のような著作者人格権は、本パブリック・ライセンスのもとではライセンスされません。パブリシティ権、プライバシー権、および/または他の類似した人格権も同様です。ただし、可能なかぎり、許諾者は、あなたがライセンスされた権利を行使するために必要とされる範囲内で、また、その範囲内でのみ、許諾者の保持する、いかなるそのような権利を放棄し、および/または主張しないことに同意します。
via クリエイティブ・コモンズ (Creative Commons) — 表示-継承 4.0 国際

と記述が変わっていて「原著作者の名誉・声望」の部分が抜け落ちている。 私はこの辺の議論の詳細を知らないのだが(英語不得手なので大まかにしか追ってない)

The 4.0 license suite uniformly and explicitly waives moral rights held by the licensor where possible to the limited extent necessary to enable reuse of the content in the manner intended by the license. Publicity, privacy, and personality rights held by the licensor are expressly waived to the same limited extent. While many understand these rights to be waived when held by the licensor in 3.0 and earlier versions, version 4.0’s treatment makes the intended outcome clear.
via What's New in 4.0 - Creative Commons

とあるので意図的に記述から外しているのかもしれない3

ただし「可能なかぎり」という部分がポイントで,実際に訴訟問題になった場合にどのような司法判断になるのかは分からない(邪推だが経産省が写真素材の著作者に CC Licenses についてきちんと説明しないで「名誉・声望を害する利用については規約で禁止してますから」とか言ってるかもしれない)。

もちろんそれが本当に著作者の名誉・声望を害するものであるなら,ライセンス云々に関係なく,「名誉毀損」に該当する事案だし,その過程で名誉回復のために該当する写真を含むコンテンツが削除されることもあると思う。


  1. 何故このようなことになっているかについては歴史的経緯とか色々あるのだが,私はうまく言語化して説明できないので八田真行さんあたりに質問するといいかもしれない。 [return]
  2. CC Licenses 3.0 では著作者人格権に関する議論が国際的にも行われたようだ。くわしくは「著作者人格権(同一性保持権)に関する議論」が参考になる。 [return]
  3. CCjp の FAQ にはこの辺の微妙な文言の違いについて記述がない。まぁ CCjp (つか commonsphere)にしてみれば 2.1 日本版が大事で国際版や Free Culture など「知ったこっちゃない」のかもしれないが。 [return]