帰ってきた「しっぽのさきっちょ」

しっぽのさきっちょ: 2017-01-23 付

孵卵器の中のインターネット

no extension

ヒッピー文化に関するまともな議論はその筋の方々に譲るとして,私の中でヒッピー文化のイメージは子どものときに読んだ『カモメのジョナサン』であり,初期のインターネットも『カモメのジョナサン』の延長線上にあると理解している。 なので「インターネットの黄金時代」という言葉には酷く宗教臭いものを感じる1

アニメの「攻殻機動隊」 SAC シリーズに「世の中に不満があるなら自分を変えろ」という名台詞があるが2,「カモメのジョナサン」は自分を変えようとして変える「手段」に耽溺し「社会」から逸脱してしまった存在である。 そうして技術を獲得して「社会」に戻った時,彼我の違いに愕然とすることになるが,それでもなお「手段」に耽溺し続ける(何故ならそれこそが彼のアイデンティティだから)。

「インターネットの黄金時代」というのは,喩えるなら孵卵器の中の「夢見る卵」だ。 ハッカーは「技術によって社会は変わる」と信じていて,孵卵器の中のインターネットはその夢を体現する存在だった。 しかし実際に孵卵器から出て社会と接続した際に分かったのは,インターネットは道具・手段に過ぎず,市場に対してはインパクトはあったものの,社会は成り行きのまま変わることなく不満と不正と格差が加速・増幅されただけ,ということだった。

たとえば第二次大戦中に核兵器開発に協力した科学者は,実際に米国が日本に原爆を落としたのを知り愕然としたらしい3。 インターネットが社会に対して実際にもたらしたものを知った当時のハッカーはどう思うのか。

“noblesse oblige” という言葉があるそうだ。 たとえば,お金持ちならそのお金を以って何を成すかがとても重要。 大統領になったならその権力を以って何を成すか。 そして優れたエンジニア(ハッカーとは限らない)ならその技術を以って何を成すか,である。

人の社会を変えることができるのは社会の構成要素である人である。 お金も権力も技術も(必要条件かもしれないが)十分条件ではない。 どんなに技術を駆使してもインターネットそのものは「ライ麦畑のつかまえ役」にはなれない。

私たちはもう後戻りはできない。 「インターネットの黄金時代」にもそれ以前にも戻れないのである。 ならば現実を受け入れ,そこからどう変えていくかを考えていくしかない。

「それがぼくには楽しかったから」だけでは済まされない。 思春期は終わったのだ。

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かもめのジョナサン【完成版】(新潮文庫)
リチャード・バック 五木 寛之
新潮社 2015-07-01

Jonathan Livingston Seagull: A story シンクロニシティ[増補改訂版] ― 未来をつくるリーダーシップ 星の王子さま (岩波少年文庫) 黒冷水 (河出文庫) アルケミスト 夢を旅した少年 (角川文庫) 手塚治虫のまんが専科 Jonathan Livingston Seagull: The New Complete Edition (English Edition) 老人と海(新潮文庫) 異端の人間学 (幻冬舎新書) 五木寛之自選文庫〈エッセイシリーズ〉 風に吹かれて<五木寛之自選文庫〈エッセイシリーズ〉> (角川文庫)

「まぼろしの4章」を加えた完成版。でもなぁ,この歳であまり読む気にはならないんだよなぁ。

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それがぼくには楽しかったから 全世界を巻き込んだリナックス革命の真実 (小プロ・ブックス)
リーナス トーバルズ デビッド ダイヤモンド 風見 潤
小学館プロダクション 2001-05-10

UNIXという考え方―その設計思想と哲学 ハッカーズ 文庫 思考する機械コンピュータ (草思社文庫) プログラミング作法 マスタリングTCP/IP 入門編 第5版 情熱プログラマー ソフトウェア開発者の幸せな生き方 スーパーエンジニアへの道―技術リーダーシップの人間学 最速の仕事術はプログラマーが知っている CPUの創りかた プリンシプル オブ プログラミング3年目までに身につけたい一生役立つ101の原理原則

Linux の作者 Linus Torvalds の自伝的作品。

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ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)
J.D.サリンジャー 野崎 孝
白水社 1984-05-20

ナイン・ストーリーズ (新潮文庫) ライ麦畑でつかまえて―The catcher in the rye  (講談社英語文庫) (Kodansha English library) アルジャーノンに花束を〔新版〕(ハヤカワ文庫NV) キャッチャー・イン・ザ・ライ (ペーパーバック・エディション) 大工よ、屋根の梁を高く上げよ/シーモア-序章 (新潮文庫) グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー) 変身 (新潮文庫) フラニーとズーイ (新潮文庫) グレート・ギャツビー (新潮文庫) アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))

多分どっかの図書館で読んだはずだがあんまり憶えてない。今更買うのもなぁ...

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  1. そういえば『カモメのジョナサン』の評価で「禅の影響を受けてる」とかいうのを見かけることがあるが,当時はともかく今の時点から見ればこの作品は極めて「厨二」的な内容(褒め言葉)で,仏教をなめるなと思ってしまう(笑) [return]
  2. 「攻殻機動隊」の原作は読んでない。ゴメンペコン。 SAC シリーズの冒頭に出てくるテロリストへのこの台詞の後には「それが嫌なら耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らせ。それも嫌なら…」と続き,シリーズを通してキーワードになっている J. D. サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』へと接続していく。『ライ麦畑でつかまえて』ではホールデンの世の中に対する二律背反な感情(「唖(おし)でつんぼの人間のふり」をするのか,それとも「ライ麦畑のつかまえ役」になるのか)が見え隠れしていて,それがアニメ作品とうまくマッチしているのが秀逸だと思う。ちなみに「世の中に不満があるなら自分を変えろ」という言葉は一般的には「不条理な世の中に適応しろ(≒大人になれよ)」的なニュアンスだと解説されているようだが(多分これが正解)私は別の意味で捕えている。その辺の話はまたいつかどこかで。 [return]
  3. 当時の米国の核兵器開発(マンハッタン計画)は既に開発競争で先んじていたとされるナチス・ドイツに対する抑止力として行われた側面が強いようだ。平和主義者で知られるアインシュタインは当時の米国大統領に核兵器開発を進言したし(その時は実現性の問題で見送られたけど),実際の開発でも多くのユダヤ人科学者が協力したと言われている。その後ナチス・ドイツは敗戦したが米国の核兵器開発は続き(米国だけじゃないけど),その弾頭は日本に向けられることになった。これに関しては開発に関与した多くの科学者が日本への核兵器の使用を思いとどまるよう進言したとの話もある。 [return]