帰ってきた「しっぽのさきっちょ」

しっぽのさきっちょ: 2017-03-08 付 (2017-10-15 更新)

フェイクニュースを排除することはフェイクニュース問題の解決にならない

no extension

トランプ爺さんの大放言

ドナルド・トランプ(Donald John Trump)氏の特に Twitter での放言はもはや「虚言癖」の域まで達している。 これは決してフェイクニュース(fake news)などではない。

彼はもう70歳になるおじいちゃんだそうだが1,「虚言癖」を発症するに至った状況をこそ憂慮すべきなんじゃないのか。 このままだと取り返しがつかなくなるぞ。 まぁ例の「盗聴」の件でトランプ政権は(ただでさえ対ロシア関係で微妙なことになってるのに)国内の警察・諜報機関を敵に回してしまった気がするので2,もしかしたらもう取り返しがつかないかもしれないけど。

一方で「トランプ政権」全体としては発足直後の混乱から揺り戻して安定しつつあるように見える。

全体の方針としても「ジャクソン主義」的なカラーで外交を執り行うものと考えられる。

フェイクニュースを排除することはフェイクニュース問題の解決にならない

いや,横道にそれすぎた。

では「フェイクニュース問題って何?」ということである。 実際には「フェイクニュース問題」は昨日今日始まったことじゃない。 それこそ大昔の新聞の時代にもあった話である。 現代はそれが「過視化」されているに過ぎないとも言える。

拙いのはこの「フェイクニュース問題」を検閲によって解決しようとしている点である。 そして検閲派の急先鋒が Facebook だ。

フェイスブックは疑わしい投稿をスノープスやポリティファクト、ABCニュース、FactCheck.orgといった事実確認団体に依頼し、真偽を分析してもらっている。依頼先の2社以上が投稿の事実性に異を唱えると「事実確認団体による審議中」と表示され、あとはユーザーの判断に任される。
via MIT Tech Review: グーグルがねつ造ニュース対策でフェイスブックより及び腰の理由

これはかつて大批判にさらされた Web ページのフィルタリングや弊害が大きかったブラックリスト型の spam メールフィルタと全く同じ構造である。

ユーザ自身でコントロールできないフィルタリングは目的の如何に関わらず全て「検閲」であると断言してよい。 Facebook は昨年の大統領選で「フィルターバブル」の批判を受けたが,それを受けて行ったのは別の「フィルターバブル」を掛けたということだったわけだ。

また「フィルターバブル」の有無にかかわらず自らの言論に引きこもっている人がそこから抜け出すのは容易ではない。

というわけで単に「臭いものには蓋をする」だけでは解決しないということが分かるだろう。

「うそはうそであると見抜ける人でないと(ニュースを見るのは)難しい」

かつて「うそはうそであると見抜ける人でないと難しい」という発言がネット上の名言としてもてはやされたが,十数年経った今でもこの言葉は有効なようだ。

しかし,「トランプ爺さんの大放言」みたいな分かりやすいものならともかく,メディアの報道については当事者もしくは当事者に近い立場でもない限り「うそはうそであると見抜ける」かどうかはかなり難しい。 しかもフェイクニュースの特徴として読み手の認知バイアスを悪用するものが多いため,余計にややこしいことになっている。

それでも「うそはうそであると見抜ける」なら,それは別の情報を読み手にもたらす。 その嘘は誰がついたのか。 誰に向けて嘘をついたのか。 嘘をつくことによって何がもたらされた(またはもたらされることを意図した)のか。 等々。 これらは対象を読み解くのに重要な情報となる。 まさに「メディア・リテラシー(media literacy)」である。

結局私たちは自分自身で,虚と実を併せ飲み,知見を積み上げ,知識を掘り下げていくしかないのだ。 その意味で機械は技術は何もしてくれない。 何故なら

技術は善でも悪でもない。中立でもない(p.254)
via フィルターバブル

のだから。

ブックマーク

参考図書

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フィルターバブル──インターネットが隠していること (ハヤカワ文庫NF)
イーライ・パリサー 井口耕二
早川書房 2016-03-09
評価

インターネット的 (PHP文庫) ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで (NHKブックス No.1207) 情報の文明学 (中公文庫) ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書) 五〇億年の孤独:宇宙に生命を探す天文学者たち

ネットにおいて私たちは自由ではなく,それと知らず「フィルターバブル」に捕らわれている。

reviewed by Spiegel on 2016-05-07 (powered by G-Tools)

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信頼と裏切りの社会
ブルース・シュナイアー 山形 浩生
エヌティティ出版 2013-12-24
評価

殺人ザルはいかにして経済に目覚めたか?―― ヒトの進化からみた経済学 限界費用ゼロ社会―<モノのインターネット>と共有型経済の台頭 第五の権力---Googleには見えている未来 リスク 不確実性の中での意思決定 (サイエンス・パレット) ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ (中公新書)

社会における「信頼」とは。

reviewed by Spiegel on 2016-01-23 (powered by G-Tools)


  1. トランプ氏は1946年生まれだそうなので,日本で言えば団塊(第一次ベビーブーム)世代のひとつ上。日本の世代分類は意味がないだろうけど。 [return]
  2. もしかしたら大統領選挙期間中に各候補者に対して何らかの諜報活動を行っていたのかもしれない。大統領が非合法的にそれを命じるのは(警察・諜報機関に弱みを握られてしまうという点で)あまり考えられないが,傍から見てありえないと断言することはできない。しかしこうした憶測や実際の事実に関係なく,現職大統領が疑いを公に口にするということ自体,言われた方からすれば喧嘩を売ってるも同然である。 [return]