帰ってきた「しっぽのさきっちょ」

しっぽのさきっちょ: 2017-07-30 付

さよなら iPod

no extension

(これは Facebook のタイムラインに書いた記事を加筆修正したものです)

iPod は縁がなかったなぁ。 他人が持ってるのを見て「いいなぁ」と思ったことはあるけど,そもそも移動中に音楽を聴く習慣がついたのはここ3年くらいだし。

今世紀に入って音楽がどのように変わったかについては言うまでもないだろう。

iPodの人気に火が付いたのは、ちょうどナップスターの熱狂のあとだった。違法コピーのスリルが、アップルのガジェットや大容量のHDDと組み合わさって、突如として音楽が「解放された」のである。
via iPodは「音楽」に何をもたらしたか──その功績を、販売終了を機に振り返る

まぁ続きが気になる方は『デジタル音楽の行方』辺りを読むといいだろう。 音楽に限らず世の中は「消費は美徳」な時代から「体験を共有する」時代1 へと変わっており,そういう意味で当時の iPod は「ソーシャルシフト」する時代の先駆けだったと言えるかもしれない。

ステファンズ氏は言う。「何を買い、どこでお金を落とし、どのように消費するのか。消費者は、以前よりも厳しい目で判断している」
特筆すべきは、消費者が「モノ」よりも「体験」を購入している点だ。
この傾向は特にアパレル小売業者に打撃を与えており、その背景にはソーシャルメディアの台頭があると同氏は指摘する。
「『モノ』よりも『体験』の方が、ソーシャルメディア上で話題になりやすい」
via アマゾンではなかった…… アメリカの小売業を低迷させた2つの元凶

一方,個人的に当時の iPod が驚愕だったのはタッチセンサを「あんなもの」に組み込んだことにあった。

もちろんタッチデバイス自体はそれ以前からあったけど,どちらかというとペンタブレットのような高機能または高付加価値に重きを置いていて,単機能デバイスにわざわざタッチセンサを使うという発想がなかった。 だって物理ボタンのほうが安上がりでしょ。 大量生産品は1円のコスト減にしのぎを削っているのにあり得ないぢゃん(笑)

当時 iPod に刺激を受けたタッチデバイスの試作品開発に関わったことを思い出す。 タッチセンサへの置き換えは単純に物理ボタンのエミュレーションというだけではなく様々な指の動き「アクション」とか「ジェスチャ」とか呼ばれているものに機能を割り当てることができるというもので,つまりは「HMI (Human Machine Interface) の拡張・解放」にあったわけだ。

その究極が,今は当たり前になっている,全面タッチパネルの携帯端末だ。 最初に挙げた記事では現在の iPod を「簡易版のiPhone」と評しているが,私に言わせれば iPhone は,「賢い電話」なんかじゃなく,「電話機能付きの iPod」であり,電話をアプリケーションのひとつに落とし込んでいる点が秀逸だったのである2

ユーザの音楽への関わり方も含めて, iPod は時代の変化にきちんと適応しているのだ。 少なくともこれまでは。

今の Apple に当時の勢いはない。 クラウドや AI については他社の後塵を拝すかたちになってるし, HMI についても Amazon の DASH ボタンや Echo3 に比べれば停滞感は否めない。

Echo については AI というバズワードばかり先行しているが,音声を HMI として高い精度で実装できているのが画期的なのだ。 これは中核技術である Alexa が自動車のダッシュボードの HMI として採用されつつある点から見ても分かるだろう。 高い精度は要求されず,見かけ上「賢い人工無脳」に過ぎない Apple の Siri や Google の Allo などとは一線を画すわけだ4

正直に言って,5年後10年後に Amazon や Google というか Alphabet は生き残ってそうだけど Apple が生き残ってる未来が見えない。 「さよなら iPod」がそのまま「さよなら Apple」にならなきゃいいけど5。 まぁ,たとえそうなっても私は困らないが(笑)

ブックマーク

参考文献

photo
デジタル音楽の行方
David Kusek Gerd Leonhard yomoyomo
翔泳社 2005-12-06

音楽は死なない!―音楽業界の裏側 誰がJ-POPを救えるか?  マスコミが語れない業界盛衰記 ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ 音楽業界で起こっていること 音楽産業 再成長のための組織戦略 拡散する音楽文化をどうとらえるか (双書音楽文化の現在) 新時代ミュージックビジネス最終講義 新しい地図を手に、音楽とテクノロジーの蜜月時代を生きる! 図解入門業界研究最新音楽業界の動向とカラクリがよ~くわかる本[第3版] (How‐nual Industry Trend Guide Book) 次世代ミュージシャンのためのセルフマネージメント・バイブル 自分を作る・売る・守る! よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編 4th Edition

読んでない。絶賛絶版中? もはや読む価値があるのかどうかさえ不明。「デジタル」とタイトルに冠されているにも関わらず Kindle 化さえされてないことに出版側のやる気を感じる(笑)

reviewed by Spiegel on 2017-07-30 (powered by G-Tools)


  1. 故にコレクション魂を炸裂させ孤高の道を進むが共有する相手のいない「真のキモオタ」には辛い時代である(笑) [return]
  2. 電話をメインに使う人はガラケー・オンリーかスマホとガラケーの2台持ちが普通だったりするしね。そういえば機械音痴でスマホが使えない友人にスマホでの電話のかけ方を教えたら,電話アプリを起動しないと電話をかけられないことに驚愕していた。 [return]
  3. Echo は日本では年内発売との噂があったのだがどうなったのだろう。 [return]
  4. もちろん Google というか Alphabet 傘下の AI 技術開発の真価は Allo ではない。 Alphabet 傘下の各グループは明らかに5年10年先を見据えて開発を行っていて,現在の(広告中心の)収益構造を変えることを目論んでいる筈である。 [return]
  5. 自慢じゃないが私の予言はよく外れるので真に受けないように(若い頃は20世紀内に Mac は滅びると思っていた)。冗談にクレームは受け付けません(笑) [return]
  6. まぁ,今時 Amazon のことをネット書店とかEコマースサイトだとか思ってる人はいないだろう。ただ「クラウド」や「仮想化」だけで稼げる季節はとうの昔に過ぎていて,その上に何を乗せるかが重要になっている。例えば Alphabet は AI 基盤をクラウド化することで次代の収益の柱を狙っているように見える。しかし Amazon にはそういったものが見えづらい。ただ Google が「すべての情報をグラフ化する」のなら Amazon は「全てのモノと情報の流通を押さえる」ことにあるように見える。つまり社是が違うということなのだろう。 [return]