『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』を読む(ボーナストラック以外)

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『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』(以後「続・情報共有の未来」と略称する)をよーやく読み終わったですよ。

買ったのも2018年の5月に入ってからだし,私的事情で積ん読期間が結構あったということもあるけど,50章は(長いとか多いとかじゃなくて)デカい! 読み終わった直後はクラクラしたですよ(笑) ちなみに2018年9月時点で v1.0.1 がリリースされている(追記:2019年3月に v1.1.1 が出た )。

今回も Dynalist でメモを取りながら読んだ。 最初に目次を拾ってコピペし,章ごとに思ったことをメモったり,気になるフレーズを引用したりする。 「技術的保護手段」で縛られた本ではできない芸当であり,ホンマ,達人出版会様グッジョブ! って感じである。

Dynalist に残したメモを眺めると,思ったより量が多くて,これを全部記事に盛り込んでたら文字数が膨大になりそう。 なので具体的な話はせず与太話をいくつか書くに留めておくことにする。

なお,ボーナストラックの感想は書かない(多分)。 こちらは一言「泣ける!」とだけ記しておこう。

「情報力」をめぐるゲーム

他の記事でも書いているが,SF作家(?)の野尻抱介さん曰く「黄色矮星人は2人いれば力比べを始める」のだそうだ。 「情報共有の未来」とは「情報力」という power をめぐるゲームだと考えれば分かりやすい。 これは白田秀彰さんの「グリゴリの捕縛」を読み直すことで腑に落ちた。

ゲームであればルールが必要である。 つまりルール(=法)メイキングがとても重要ということだ。

インターネットは基本的にコピーの連鎖でできている。 コピーによってデータと情報を血液のように循環させるわけだ。 したがってコピーを支配する「もの」がインターネットにおける勝者になれる。 国際的な著作権ルールがアクセス・コントロールの独占へと野放図に向かっているのもそれ故だろう。

ぼくがかんがえたさいきょうのいんたねっと史

私が考えるに,インターネット・ユーザに要求される唯一のルールは「インターネットに参加する」ことであり,そこに付随するコストとリスクと責任を(手の届く範囲で)引き受けることである。 インターネットは(コンビニとかでw)買うものではなく,作る(make)ものだ。

本来インターネットに接続するマシンは,網または網間を繋ぐ「ノード」として機能する。 しかしノードを構築・維持するには相応のコストがかかる。 回線だって安くないし,そもそもカセットテープやフロッピー・ディスクで運用しているマイコンやパソコンなんか全くお呼びではなかった。 でも,この「参入障壁」こそが初期インターネットを守っていたのである。

これが崩れたのが1990年代のインターネット商用化で,多くのユーザは ISP にぶら下がる「奴隷端末」になることと引き換えに「インターネットに参加する」ことなくインターネットに接続してデータや情報を得ることが可能になった。

この状況を更に後押しするのがクラウドと SNS を含む XaaS である。 ゼロ年代以降に台頭した各種 XaaS は「独占的なマスター・ノードとそれにぶら下がる数多の奴隷端末」という構造を強化したわけだ。

市場原理に基づいて駆動するインターネットは「情報力」を背景とした新たな階級を生み出し「支配なき統制」とも言うべき構造を構築した。 たとえば Bitcoin/Blockchain は最初こそ脱中央集権的な通貨システムとして期待されたが,結局は新たな階級社会を駆動するシステムとなった。

私を含む多くのユーザはクラウドや XaaS を通じてインターネットに「参加」しているつもりかも知れないが,本当はそれをただ「使用」しているに過ぎないかも知れない。 テレビ・リモコンの4色ボタンを押すだけではテレビというシステムに参加しているとは言わない。

エンジニアこそ「狂狷の徒」たれ

はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語』にこんな一節がある。

理学は、真理の探究であり、工学は善の実現である。そして、藝術は美の表現である--これで所謂「真美善」が揃う

何を以って「善」とするかは非常に難しいところだが,少なくとも職業エンジニアとしての私はこれを自らの矜持として行動してきたつもりである。

情報共有の未来』も,その続編たる『続・情報共有の未来』も generativity をキーワードにしている。 もし generativity を「善」と位置付けるなら,如何にしてそれを実装するか試行錯誤するのが「狂狷の徒」たるエンジニアがインターネットに「参加」する条件だろう。

書籍として『続・情報共有の未来』を読み通して最初に感じたのは「私ってインターネットを信用していないんだなぁ」ということだった。

私から見て初期インターネットの背景にはヒッピー文化があると思うが,結果としてその文化は市場経済に塗りつぶされた。 でも初期インターネットを夢想する「老害」たちは当時の「黄金時代」を忘れられず,かといって「ネットのテレビ化」も止められないという状況に陥っている。

これがこの本を読んで感じたインターネットに対する印象だ。 もしインターネットが「幼年期」を抜けて generativity に象徴される「成年期」に向かおうというのなら「開かれたウェブ」が「もうすぐ絶滅する」というのは,ひょっとしたら(痛みは伴うとしても)歓迎すべき事態なのかも知れない。

まぁ,そのとき私はもうネットにいないかも知れないが。

参考になる(かもしれない)ページ

以下に『続・情報共有の未来』の Web 連載時に反応した記事や関連しそうな記事を挙げてみた。 参考になれば(私が)ラッキーということで。

ブックマーク

参考図書

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もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来
yomoyomo (著)
達人出版会 2017-12-25 (Release 2019-03-02)
デジタル書籍
infoshare2 (tatsu-zine.com)
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WirelessWire News 連載の書籍化。感想はこちら。祝 Kindle 化

reviewed by Spiegel on 2018-12-31

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情報共有の未来
yomoyomo (著)
達人出版会 2011-12-30 (Release 2012-02-19)
デジタル書籍
infoshare (tatsu-zine.com)
評価     

同名ブログの書籍化。感想はこちら

reviewed by Spiegel on 2012-11-03

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はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語 (幻冬舎新書)
吉田 武 (著)
幻冬舎 2006-11-01
新書
4344980158 (ASIN), 9784344980150 (EAN), 4344980158 (ISBN)
評価     

宇宙研(ISAS)の歴史とともに日本の宇宙開発について解説する。

reviewed by Spiegel on 2014-09-27 (powered by PA-APIv5)

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反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―(新潮選書)
森本 あんり (著)
新潮社 2015-02-20 (Release 2015-08-14)
Kindle版
B012VRLPRG (ASIN)
評価     

アメリカの近代思想史または宗教史といった位置付けだろうか。

reviewed by Spiegel on 2016-09-03 (powered by PA-APIv5)

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信頼と裏切りの社会
ブルース・シュナイアー (著), 山形 浩生 (翻訳)
NTT出版 2013-12-24
単行本(ソフトカバー)
4757143044 (ASIN), 9784757143043 (EAN), 4757143044 (ISBN)
評価     

社会における「信頼」とは。

reviewed by Spiegel on 2015-11-28 (powered by PA-APIv5)

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フィルターバブル──インターネットが隠していること (ハヤカワ文庫NF)
イーライ・パリサー (著), 井口耕二 (翻訳)
早川書房 2016-03-09
文庫
4150504598 (ASIN), 9784150504595 (EAN), 4150504598 (ISBN), 9784150504595 (ISBN)
評価     

ネットにおいて私たちは自由ではなく,それと知らず「フィルターバブル」に捕らわれている。

reviewed by Spiegel on 2016-05-07 (powered by PA-APIv5)

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つながりっぱなしの日常を生きる:ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの
ダナ・ボイド (著), 野中 モモ (翻訳)
草思社 2014-10-09 (Release 2015-07-21)
Kindle版
B0125TZSZ0 (ASIN)
評価     

読むのに1年半以上かかってしまった。ネット,特に SNS 上で自身のアイデンティティやプライバシーを保つにはどうすればいいか。豊富な事例を交えて考察する。

reviewed by Spiegel on 2016-05-10 (powered by PA-APIv5)

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社会は情報化の夢を見る (河出文庫)
佐藤俊樹 (著)
河出書房新社 2010-09-03 (Release 2016-07-29)
Kindle版
B01J1I8PRQ (ASIN)
評価     

1996年に出版された『ノイマンの夢・近代の欲望―情報化社会を解体する』の改訂新装版。しかし内容はこれまでと変わりなく,繰り返し語られる技術決定論を前提とする安易な未来予測を「情報化」社会論だとして批判する。

reviewed by Spiegel on 2015-09-15 (powered by PA-APIv5)

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イノベーション 悪意なき嘘 (双書 時代のカルテ)
名和 小太郎 (著)
岩波書店 2007-01-11
単行本
4000280872 (ASIN), 9784000280877 (EAN), 4000280872 (ISBN)
評価     

「両用技術とはどのようなものか。その核心には「矛と楯の論理」がある」(まえがき「予断・診断・独断 そんなばかな」より)

reviewed by Spiegel on 2015-12-19 (powered by PA-APIv5)

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グリゴリの捕縛
白田 秀彰
2001-11-26 (Release 2014-09-17)
青空文庫
4307 (図書カードNo.)
評価     

白田秀彰さんの「グリゴリの捕縛」が青空文庫に収録されていた。 内容は 怪獣大決戦 おっと憲法(基本法)についてのお話。 古代社会 → 中世社会 → 近代社会 → 現代社会 と順を追って法と慣習そして力(power)との関係について解説し,その中で憲法(基本法)がどのように望まれ実装されていったか指摘してる。 その後,現代社会の次のパラダイムに顕現する「情報力」と社会との関係に言及していくわけだ。

reviewed by Spiegel on 2019-03-30 (powered by aozorahack)