ようやく『反知性主義』を読んだ
これ買ったのは昨年の10月なので読み終わるのに11ヶ月もかかったことになる。 もっとも途中で色々あって中断した時期が長かったのだが。
もともとこの本を読もうと思ったのは「反知性主義(anti-intellectualism)」について基礎的な知識を得たかったから。 まぁ,ぶっちゃけ興味本位(笑)
- 反知性主義1: ホフスタッター『アメリカの反知性主義』 知識人とは何かを切実に考えた名著 - 山形浩生の「経済のトリセツ」
- 反知性主義2:森本『反知性主義』:ホフスタッターの当事者意識や切実さはないが概説書としてはOK - 山形浩生の「経済のトリセツ」
- 反知性主義3 Part 1: 内田編『日本の反知性主義』は編者のオレ様節が痛々しく浮いた、よじれた本。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」
- 反知性主義3 Part 2: 内田編『日本の反知性主義』:白井聡の文は、無内容な同義反復。他の文は主に形ばかりのおつきあい。 - 山形浩生の「経済のトリセツ」
本来はホフスタッターを読むべきなんだろうけど興味本位で読むには少々お値段が張るしページも多い(449ページ)のでパスした。
途中まで読んでて気がついたが,これは反知性主義の本というより米国の思想史・宗教史について書かれた本のようだ。 で,反知性主義をその切り口にしているわけだ。
よく言われるように反知性主義は「知性(intellect)」そのものに対する反感ではない。 どちらかというと「エリート(主義)」という名の(知性と癒着する)権威・権力に対する反感と言えそうだ。 もちろんそれが結果的に知性に向かうこともあるということらしい1。
面白いのは知性も反知性主義も宗教と密接に結びついている点。 というか,世界全体を見ればこれが普通で日本の状況のほうが特殊といえるかもしれない。
近代日本の宗教は明治維新と戦後の2回に渡って破壊されている。 『反知性主義』では日本で米国のような「ヒーロー」がいないのを憂いているようにも読めるが,日本には所謂「宗教メーカー」の存在が希薄である。 したがって「宗教メーカー」と「ヒーロー」が結びつくことはないのだ2。 宗教という鎧がなければ,それはただの敏腕セールスマンか詐欺師である。
知性と権威・権力との関係は常にアップデートされる。 米国の反知性主義はそのための装置といえる3。 でもアップデートされたものも結局は同じ道をたどる(ヒーローはエリートに包摂される)。 これは輪廻という名の呪いである。
- 反知性主義―アメリカが生んだ「熱病」の正体―(新潮選書)
- 森本 あんり (著)
- 新潮社 2015-02-20 (Release 2015-08-14)
- Kindle版
- B012VRLPRG (ASIN)
- 評価
アメリカの近代思想史または宗教史といった位置付けだろうか。
- 神道入門 日本人にとって神とは何か (平凡社新書)
- 井上 順孝 (著)
- 平凡社 2006-01-12 (Release 2013-08-01)
- Kindle版
- B00EUVZHX0 (ASIN)
- 評価
Kindle 版登場。日本の神道の系譜が網羅的に書かれている。
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『反知性主義』ではビリー・サンデーの以下の言葉を挙げている。「ドイツは、聖書の高等批評を広めたり、進化論という異端思想を広めたりして、真正な信仰を汚している。神は、連合軍によってドイツを罰しているのかもしれないのだ」。進化論の批判は敵国ドイツへの批判でもあったわけだ。念のために言っておくが進化論はドイツの理論というわけではない。ダーウィンはイギリス人である。ビリー・サンデーはこうした政治宣伝に利用されていった側面があるが,たとえば今年の共和党候補の某氏などはビリー・サンデーの劣化コピーにすぎないことが分かる。 ↩︎
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宗教や信仰がないわけではない。当然だが。また,カルトでは強力な「宗教メーカー」が存在する。つか,カルトの場合は急速に「教化」と「布教」を進めなければならないので「宗教メーカー」は不可欠だし,同時にそれは信者にとっての「ヒーロー」でなければならない。しかし既存の神道や仏教(こういう分け方も明治維新以降のものだが)等では「宗教メーカー」としての機能は希薄といえる。 ↩︎
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たぶん米国以外では反知性主義ではなく新興宗派が既存の宗派をアップデートするという形をとるのだろう。そもそもキリスト教や仏教はそういう性質のものだし,日本でも浄土真宗や近代では天理教(天理教は神道系新宗教に分類される)のような例がある。そう考えると反知性主義はかなりユニークなシステムに思える。しかし,どちらにしても権威・権力に取り込まれていったものはアップデート前のものと同じ道を辿るし,そうならなかったものは権威・権力によって排除される,という点ではさして違わない。 ↩︎