“The Shadow Web” (再掲載)
この記事は本家サイトで2012年に公開した「“The Shadow Web”」を加筆・修正して再掲載したものです。 なお,本文中で紹介している記事「介入されないもうひとつのウェブ」は今年出た別冊日経サイエンス『サイバーセキュリティ』に再録されています。 興味のある方は是非どうぞ。
『日経サイエンス』2012年6月号の「介入されないもうひとつのウェブ」が面白そうだったので買ってみた。 原題は “The Shadow Web” (SCIENTIFIC AMERICAN March 2012)で著者はサイエンスライターの Julian Dibbell 氏。
インターネットはもともと障害や(国家などによる)検閲に強いシステムとして開発されてきた。 「インターネットは検閲をダメージであると解釈し,それを回避する」(John Gilmore)のである。 しかし現状のインターネットはこのようには機能していない。 昨年(2011年)1月末。市民運動で揺れるエジプトではたった5本の電話で8000万人のインターネット・アクセスが遮断された。 中国ではもう長いこと「グレート・ファイアウォール」が稼働している。 日本でだって無線通信業者がユーザ端末に勝手に ID を付与したりユーザの行動を追跡したり特定のサービスをブロックしたりしている。
こうした問題に対処するために「無線メッシュネットワーク」の利用が進んでいる。 「無線メッシュネットワーク」ではユーザのノードは「ターミナル・ノード」ではなく中継ノードとして機能する。 このノードが増えれば増えるほどネットワークは自律的に機能し,遮断や検閲を回避できるようになる。
どうも日本ではメッシュネットワークはスマートグリッドの文脈で語られることが多いようである。 しかし,メッシュネットワークの本領は,少数の ISP による中央集権型ネットワークを補完する手段,まさに “The Shadow Web” として機能しうる点にあるように思える。
メッシュネットワークがうまくいくかどうかは参加するユーザの規模にかかっている。 メッシュネットワークが社会的に効果のあるレベルまで普及するには市場の15%を大幅に超える浸透率が必要になるそうだ。 しかし実際にそこまで行くかどうかは疑問らしい。 いっぽう為政者から見れば,現状でさえインターネットのコントロールを握ろうと躍起になってるのに,それをチャラにしてしまうような仕組みに対していい顔はしないだろう。 少なくともメッシュネットワークの構築について何らかの介入をしてくる可能性はある。 となれば市民運動レベルで普及を図っていくしかないということになるだろう。
個人的には,日本で考えた場合,メッシュネットワークがどの程度効果的なのかよく分からない。 例えば災害時にネットワークを早く再構築するためにメッシュネットワークを使うというのはあるだろう(海外では既に事例がある)。 しかし “The Shadow Web” としてのメッシュネットワークがうまくいくのかどうかは疑問がある。 この辺は今後も情報を追いかけていきたいと思う。
参考図書
- サイバーセキュリティ (別冊日経サイエンス)
- 日経サイエンス編集部 (編集)
- 日本経済新聞出版社 2016-04-22 (Release 2016-04-22)
- ムック
- 4532512123 (ASIN), 9784532512125 (EAN), 4532512123 (ISBN)
- 評価
『日経サイエンス』2012年6月号の「介入されないもうひとつのウェブ」が収録されている。その他にも2010年代前半におけるセキュリティ問題についてよくまとめられている。