「インターネットと発酵」
ドミニク・チェン(Dominick Chen)さんへのインタビュー記事が面白い(note も良質な記事を吐き出すようになったねぇ)。
- ドミニク・チェンが語る「千夜千冊とインターネットと発酵」〈前編〉|千夜千冊 編集部|note
- ドミニク・チェンが語る「千夜千冊とインターネットと発酵」〈中編〉|千夜千冊 編集部|note
- ドミニク・チェンが語る「千夜千冊とインターネットと発酵」〈後編〉|千夜千冊 編集部|note
この方が理事をやっておられるのになんで CCjp や commonsphere はあんな有様なんだろう。 まぁ御家の話は外部からは伺いようもないが。
それはともかく,この中に出てくる「発酵」の話。 実は2005年頃に既に essa さんを中心として話題にのぼってるのよ。 上の対談記事を読んでて思い出した。
プチプチとリンク切れを起こしてるので当時の全てを追うことはできないが,せっかくなので当時の私の戯れ言を少し引いてみる。
確かに今の日本酒は「制御発酵」だ。しかしそれだけではない。日本酒の初期の段階で圧倒的な多様性を生んだのは酵母任せの「自然発酵」だった。しかし日本酒の場合は第二次大戦でそれが一度破壊され,立ち直る暇もなく「高度成長期」がやってきた。それでも破壊された後に残ったのはジャンクだけではなかった。今の日本酒は「自然発酵」時代ほどの多様性は生まないかもしれない。しかし長い時間をかけて培われた確かな理論と技術力がある。
[…] コンピュータ・ソフトウェアの分野, 特に「ハッカー」とか「ギーク」とか「オープンソース」とか呼ばれているあたりの周辺はもう第二ステージに入ってるんじゃないのだろうか。 上の比喩で言うなら「自然発酵」から「制御発酵」へ位相が変わっているのだ。
今や「オープンソース」といえば Linux だが, Linux はまさに「自然発酵」時代が生んだ特異な製品だと思う。同じことはおそらくもう二度と起こらないのではないだろうか。その代わり GNU からオープンソースへ繋がる貴重な経験を手にした。その経験は理論と技術に昇華される。
ちなみに私は日本酒の杜氏は本物のハッカーだと思っている。 だから上の発言になるわけだ。
「制御発酵」を比喩としてとらえ,インターネット(当時は Web 2.0 と呼んでいたがやっぱりバズワードのまま終わったね)に重ねあわせるのは,今にして思えば,案外うまいやり方だったかもしれない。
対談記事でもうひとつ思い出したのは東浩紀さんの『ゲーム的リアリズムの誕生』だ。
私自身はもう彼の文章を全く参照しないし,現時点では『ゲーム的リアリズムの誕生』を推すこともないのだが,当時の私にとっては頭の整理にちょうどよい本だった。 これも当時の私の戯れ言から少し引いてみよう。
ただ「初音ミク」や今年流行った PPAP の周辺を見ていると,もう「コンテンツ志向メディア」「コミュニケーション志向メディア」という区別は意味を成さなくなりつつあるように感じる。 その代わり対談では generativity というキーワードを挙げている。
Generativity といえば yomoyomo さんの「情報共有の未来」かな。
Generativity は造語なので訳すのが難しいっぽいのだがドミニク・チェンさんは「継承性」と訳されているようだ。 「継承性」は生物の繁殖と密接な関係がある。 仔を生み育てていく時期を社会的に当てはめたのが generativity の語源である。 だからこそ「発酵」という比喩が出てきたのだと思う。
一方でネットはすごく「テレビ的」になっている。
これは昔から(それこそ「ぱど厨」の頃から)そうなんだけど,結局みんなネットでは「どの様に繋がっているか」ではなく「どの程度繋がっているか」に価値をおいているってことだよね1。 量や強度が重要なのであれば互いに ACK (acknowledgement)2 を返し合っていればいいのであって,それなら手段にこだわる必要もない。
今回読んだ対談記事では出てこなかったが,現在ネットでもっとも「継承性」が高い(もしくは発酵している)のは git/GitHub 周辺だと思う3。 Git/GitHub が作り出すコミュニティでは「まずコードをアウトプットする」ことが求められる。 そしてアウトプットされたコードを巡ってユーザ同士のやり取りが始まるわけだ。
身内だけの ACK の応酬にとどまらず「他者」に対して何らかのアウトプットを行うことがすごく重要で,それが「継承性」へのスタートラインに立つことだと思う。 という,ありがちなオチになってしまった。
あー。 今回は懐かしい記事をいっぱい引用(リンク)した。 まさに「ブログは引用の束」だね(笑)
ブックマーク
参考図書
- フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環
- ドミニク・チェン (著)
- フィルムアート社 2012-05-25
- 単行本
- 4845911744 (ASIN), 9784845911745 (EAN), 4845911744 (ISBN)
- 評価
国内における Free Culture の事例が豊富。取っ掛かりとしてはちょうどよい本。
- 情報共有の未来
- yomoyomo (著)
- 達人出版会 2011-12-30 (Release 2012-02-19)
- デジタル書籍
- infoshare (tatsu-zine.com)
- 評価
同名ブログの書籍化。感想はこちら。
reviewed by Spiegel on 2012-11-03
- メタファーとしての発酵 (Make: Japan Books)
- Sandor Ellix Katz (著), ドミニク・チェン (監修), 水原 文 (翻訳)
- オライリージャパン 2021-09-15
- 単行本(ソフトカバー)
- 4873119634 (ASIN), 9784873119632 (EAN), 4873119634 (ISBN)
版元でデジタル版も買える。てか,私は PDF で買っている。見事に積読状態。