JASRAC が音楽教室からも「著作権(みかじめ)料」をまきあげる話
きっかけはこれ。
この記事によると
だそうだ。 当然ながら「音楽教室」側は反発する。
なんと,「音楽教育を守る会」なるものができたらしい。
ってな感じで一気にキナ臭い話になってきたわけだ。 訴訟へと展開していくのかな(訴訟になればいいのに)。
まぁ JASRAC が叩かれるのは毎度のことで個人的にも JASRAC を擁護する気は全くないのだが1,しかしこれは JASRAC だけが悪いわけではない。 何故なら「音楽業界」は長い間,この利権構造によって潤ってきたのだから。 「音楽業界」も JASRAC も同じ既得権益者であり,両者は共依存の関係にある。 搾取の矛先が自分たちに向いたからといって,いまさら「そんなの嫌だ!」と駄々をこねたところで「筋が通らない(ヤクザ風味)」だろう。 本当にそれが認められないというのなら,今までの自分たちの行いも含めてきちんと「総括」していただきたいものである(笑)
まっ,その辺の「大人の事情」についてはこの記事では横に置いておくとして,今回のケースについて以下の記事を参考にしながら著作権法から見た問題点を簡単に紹介してみる。
- JASRAC、音楽教室から「著作権料」徴収へ…なぜレッスンで使うだけでもダメ? - 弁護士ドットコム
- JASRACが音楽教室からも著作権使用料を徴収しようとする法的根拠は何か?(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース
- JASRACを気にせずに音楽を演奏できるのはどのような場合か(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース
- 公衆とJASRAC: 壇弁護士の事務室
- JASRAC vs 音楽教室:法廷で争った場合の論点を考える(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース
演奏権と公衆
まず,今回問題になっているのは著作財産権のうちの「演奏権」とよばれるものである。 「演奏権」は著作権法第二十二条で定義されている。
ここでの注目点は「公衆に直接聞かせることを目的」としたものであること。 たとえば「公衆」ではない相手に対する演奏には「演奏権」は及ばない。 また何とはなしに「聞こえてくる」ものも除外される。
では音楽教室で先生や生徒が演奏することは「演奏権」に抵触するのか。 これは著作権法において「公衆」がどう定義されているかがポイントである。
一般に「公衆」とは「不特定かつ多数」であると認識されていると思う。 法律の世界でも概ねそのような解釈らしい。 しかし著作権法第二条の5では
と明記されている。 したがって「特定かつ少数」以外は全部「公衆」と見なされるわけだ2。 つまり音楽教室での演奏が「演奏権」に抵触するかは,その音楽教室が「特定かつ少数」で構成されているか否かにかかっている。 ちなみに,過去の判例3 から,誰でも入会できるサービスの場合にはユーザは「不特定」と見なされるらしい。
著作権の制限
もうひとつ。 著作権法の第三十条から第五十条にかけて「著作権の制限」が定義されている。 これは目的や手段に応じて著作権の行使が制限される条件を記したものだ。 この中に「営利を目的としない上演等」という条件がある。
音楽教室での演奏が「演奏権」に抵触するとしても「営利を目的としない上演等」であれば「演奏権」は制限される。
ちなみに「著作権の制限」では教育目的の場合でもいくつかの制限がかかるが,残念ながら「演奏権」に関しては当てはまらない。 「演奏権」に制限がかかるのはあくまでも非営利の場合に限られる4。 ボランティアなら分からないが背後に大きな企業が控える音楽教室での演奏が非営利にあたるかどうかはかなり難しいんじゃないだろうか。
ちなみに海外の例だが
ということで日本の状況だけが特殊と言うわけでもないようだ。
包括契約について
もし音楽教室での演奏が「演奏権」に抵触すると判断された場合,
これについて JASRAC 側はどうも
もし包括契約をしないのであれば各教室ごとに1曲ずつ請求することになるだろうが,著作権管理団体側にも音楽教室側にも負担の大きい作業になる。
別の観点でみると音楽教室で演奏する楽曲に各著作権管理団体が管理するものがどのくらい含まれるかという問題もある。 著作権期限の切れた古い民謡やクラシック音楽を教える教室であればもとより「演奏権」は関係ない。 CC Licenses のようにあらかじめ公衆への演奏が許諾されている場合も対象外である。
更に,講師が生徒に向かって模範演奏する場合はともかく,生徒が練習として演奏するのは「演奏権」に抵触するのかという問題もある。これも「演奏権」に抵触するとなると話は音楽教室だけでは済まなくなる気もするのだが…
いっそのこと音楽教室用に「自由な楽曲」を創作するのも面白いかもねぇ6。
ブックマーク
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(釣り)むちゃくちゃな理由でJASRACを勝たせた判例ベスト10(前半) : 著作権絡みの(迷?)判例集。タイトルは釣りらしい(笑)
参考図書
- 著作権2.0 ウェブ時代の文化発展をめざして (NTT出版ライブラリー―レゾナント)
- 名和 小太郎 (著)
- NTT出版 2010-06-24
- 単行本(ソフトカバー)
- 4757102852 (ASIN), 9784757102859 (EAN), 4757102852 (ISBN)
- 評価
名著です。今すぐ買うべきです。
- フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環
- ドミニク・チェン (著)
- フィルムアート社 2012-05-25
- 単行本
- 4845911744 (ASIN), 9784845911745 (EAN), 4845911744 (ISBN)
- 評価
国内における Free Culture の事例が豊富。取っ掛かりとしてはちょうどよい本。
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知らない人はいないと思うが JASRAC は音楽ユーザからはすこぶる評判が悪い: JASRACが音楽教室からも著作権料を徴収で大炎上! 不当裁判、裏金、天下り、独禁法違反…その強欲の歴史|LITERA/リテラ ↩︎
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対象が不特定なら多数でも少数でも「公衆」と見なされるらしい。私にはイマイチそのロジックが分からないのだが。 ↩︎
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「社交ダンス教室に対する判決 」より。この中で「ダンス教師の人数及び本件各施設の規模という人的,物的条件が許容する限り,何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れることができ,このような受講生に対する社交ダンス指導に不可欠な音楽著作物の再生は,組織的,継続的に行われるものであるから,社会通念上,不特定かつ多数の者に対するもの,すなわち,公衆に対するものと評価するのが相当である」と述べられている。 ↩︎
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学校教育(私立学校を含む)の音楽の授業での演奏は非営利と見なされるらしい。文化祭での演奏もお金を取らないのであれば非営利。 ↩︎
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公取委からの改善命令に対し JASRAC が不服を申し立て一度は命令が取り消されたもののイーライセンス(現 NexTone)が取り消しを不服として提訴し最高裁までもつれた。結果として JASRAC は2016年9月に不服申し立てを取り下げ改善命令を受け入れた。 ↩︎
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音楽ではないが自由に利用できる数学教材というのは存在する: フリー教材開発コミュニティ FTEXT ↩︎