「荒れた農場の掘ったて小屋でがなりたてる、いかさま師の集団」へ

no extension

ときには著作権法すら捻じ曲げ,あらゆる手段を以って「独占」し続けた作り手側がが今更「失われていくデジタル作品をどうアーカイブすべきか?」だと? 笑かすなよ。 やりたけりゃ Google 先生か国会図書館にでも頭を下げろ!1

ちうわけで,以前に本家サイトで書いた記事を思い出したので再掲載してみる。 これはホルヘ・ルイス・ボルヘスの『砂の本』に収録されている短編「会議」の読書感想文である。 ネタバレに注意 …しなくても大丈夫かな?


ある人物の死によりメンバの最後の生き残りとなってしまった男が「会議(コングレソ)」と呼ばれる結社について語りだす。 「会議」の議長(スポンサーでもある)は「あらゆる国のあらゆる人間を代表する世界会議」を組織することを思い立ち,その準備をすすめていた。 「会議」の方向性が怪しくなってきたのは,世界中のあらゆる書物や書簡等の収集を(「会議」にはそれが不可欠であるという理由で)はじめてからだ。 そして資金が完全に底をついたときに議長はようやく悟ることになる。

わしらの企てた計画は、とてつもなく広大なもので、 ――いまのわしにはそれがわかるが―― 全世界を包含するほかないことになる。それは、荒れた農場の掘ったて小屋でがなりたてる、いかさま師の集団じゃない。世界会議は、世界の最初の瞬間と同時にはじまって、わしらが塵に帰ったときもなおつづいてゆくのだ。
『砂の本』より「会議」より

20年前の私ならこの文章に哲学っぽい思いを馳せるのだろが,今の私は「荒れた農場の掘ったて小屋でがなりたてる、いかさま師の集団」についてある具体的な対象を連想する。 それは Google だ。 Google は「世界中のあらゆる情報をグラフ化」しようと目論む組織2 で,そのための莫大な資金を持っている。 彼等が「会議」の中核的な位置を占めるのか,それともただの「いかさま師の集団」なのか,それは多分これから分かる。

ブックマーク

参考図書

photo
ラテンアメリカの文学 砂の本 (集英社文庫)
ホルへ・ルイス・ボルヘス (著), 篠田 一士 (翻訳)
集英社 2011-06-28 (Release 2011-06-28)
文庫
4087606244 (ASIN), 9784087606249 (EAN), 4087606244 (ISBN)
評価     

ボルヘスの作品群で個人的に一番好きな作品。13編からなる短編集。その中の1編である「会議」の感想はこちら

reviewed by Spiegel on 2017-09-17 (powered by PA-APIv5)


  1. Google Books の Google Print 計画が始まったのは2003年12月である。つまり,今更アーカイブがどうとか10年以上も周回遅れの話である。当時はデジタル・アーカイブやそれに伴う著作権処理について世界中の「作家」を巻き込んでの大論争と大訴訟が起こったが日本ではまるで認知されてないのかね。あるいはかつて「私的録音録画補償金制度」に関連して議論された,特定の DRM や再生機器に依存することの危険性について結局は誰も何も気にしていなかったということなのか。記録や記憶は(ものによってタイムスケールの違いはあれ)必ず風化する。君たちは風化して「なくなった」ものを「なかったことにする」つもりなのか。つくづく日本は「クール」じゃないよなぁ。 ↩︎

  2. 今では AI 技術すら駆使して目論見の実現に邁進している。 ↩︎