TeX の思ひ出

no extension

$\mathrm{\TeX}$ について調べ物をしていて,何気なく Wikipedia のページを見たら, $\mathrm{\TeX}$ の最初のバージョンって1978年なのか。 それってもうすぐ40周年ぢゃん!

私は学生時代はロクに勉強もしない不良学生だったので $\mathrm{\TeX}$ とは無縁だったのだが,バブルの恩恵でたまたま潜り込んだシステムハウスで某社製レーザープリンタ用の $\mathrm{\TeX}$ ドライバと出会い,それが $\mathrm{\TeX}$ というか $\mathrm{\LaTeX}$ にハマるきっかけになった。

大昔の話だし,この程度の内容なら時効だよな,もう。


当時は LIPS (LBP Image Processing System) 制御の某企業のレーザープリンターが市場を席巻していた頃で,その中で件のレーザープリンタは比較的低価格1 ながら PostScript を内蔵してるってんで「なら $\mathrm{\TeX}$ ドライバと抱き合わせで売ったらいんじゃね?」というかなり打算的な考えだったような気がする。 勤めていた会社が大学方面のコネクションが弱かったので繋ぎを付けたかったというのもあったような。 実際,このプリンタは $\mathrm{\TeX}$ ドライバとセットでそこそこ売れたらしい。

その $\mathrm{\TeX}$ ドライバは Pascal で書かれてたんだけど,オリジナルの作者の方は所有権を既に手放していて2,技術サポートとして私にお鉢が回ってきたのだった。

いや,私, Pascal なんて(仕事では)やったことないんだってば!3

幸いなことにソフトウェアに関しては完成度が非常に高く,私自身は内部の深いところまでは触らずに済んだのだが,技術サポートの人がソフトウェアを触ったことがないなんてありえないので,私自身も $\mathrm{\TeX}$ に手を出すことになってしまった。

しかも当時は DOS で 日本語 $\mathrm{Micro\TeX}$ である。 フロッピーディスクでは運用できず(当時はまだ高かった)ハードディスクを専用に買ってもらったっけ。 しかし,件のプリンタと $\mathrm{\TeX}$ ドライバによる出力結果は素晴らしいの一言で,ワープロ4 なんか目じゃない仕上がりに一目惚れしてしまったのだ。

そこからはホントにどハマリしたね。 フォーマット・フリーの社内文書はほとんど $\mathrm{\LaTeX}$ で書いた。 議事録すら $\mathrm{\LaTeX}$ で書いたことがあって,お客さんに「どこの論文かと思った」と皮肉を言われたのも今は良い思い出である(笑) ちなみに今でも履歴書は $\mathrm{\LaTeX}$ で書いている

当時に社内で書いた文書の一部は本家サイトや GitHub リポジトリでも公開している。

その後,証券会社が倒産するほどの不況のずんどこが訪れ,勤務先もその煽りでプリンタ販売業務を止めてしまったが,私は $\mathrm{\TeX}$ で遊び続けた。 最初の頃のバイブルだった『てくてく$\mathrm{\TeX}$』とか『$\mathrm{\LaTeX}$入門』とかいまだに本棚に並んでるですよ5

私はコレで TeX を覚えましたw

そういや昔は,テープを物理的に「回覧」して配布してたんだよねぇ。 私はテープを扱えるデバイスを(私的には)持ってなかったので回覧に参加できなかったんだけど。

そのうち FTP や HTTP で大量にダウンロードできる環境が整って(ADSL 万歳!),長いあいだ一番お世話になったのはいわゆる「角藤版」だった(今でも成果については大変恩恵を受けてますが)。

TeX Live を利用するようになったのは2013年から。 いや,めっさ簡単になったものだよ。

しかし,最近いちばん衝撃を受けたのは LuaTeX-ja か。 だって日本語環境でもようやく直接 PDF/A を吐ける処理系が登場したんだよ。

これによってようやく日本語の $\mathrm{\TeX}$ 処理系でストレスなく PDF/A 形式のデジタル文書を作れるようになったわけだ。


まぁでも $\mathrm{\TeX}$ 処理系は使わなくなったね。 理由は簡単で,デジタル文書が「紙」の制約から離れ始めたから。 それでも過去の成果は継承されていくし MathJax のように形を変えて残っていくものもあるんだけど。

昔は「完成図書」をどうやって作成・維持するかが重要だった。 だから最終出力が「紙」である(または「紙」を意識する)ことに意味があったわけだ。

でも今は違う。 そもそも「完成図書」など存在し得ない。 何故なら,プログラムと同様に,文書もまた常に更新される(ベータ版だ)から。 デジタル以前は更新コストが高かっただけで,もともと完全な文書など存在しないのだ(「コーディング」が紙テープやパンチカードから端末上での直接編集に変わって「コーダー」という職業が消滅したのと相似形かもしれない)。

しかも更新履歴は git などのバージョン管理ツールで自動化できる。 つまり(プログラムコードもそうだけど)今や文書ってのは「時間」というベクトルを加えた存在になりつつある。 文書が「「紙」の制約から離れ」るってのはそういうことなのだ。

ひとつのソフトウェア・システムが40年も継続して存在するというのは凄いことだ。 「文書」の意味が変わりつつある中で,これからの40年で $\mathrm{\TeX}$ がどう変わっていくのか。 それとも無くなってしまうのか。

ブックマーク

参考図書

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[改訂第8版]LaTeX2ε美文書作成入門
奥村晴彦 (著), 黒木裕介 (著)
技術評論社 2020-11-14
大型本
4297117126 (ASIN), 9784297117122 (EAN), 4297117126 (ISBN)
評価     

2020年末に第8版が出てたのに気付かなかったよ。可能なら紙の本も買って常に側に置いておくのが吉。版元には PDF 版もある。

reviewed by Spiegel on 2021-09-05 (powered by PA-APIv5)


  1. つっても当時のレーザープリンタは個人では買えないくらい高かったが。しかも PostScript プリンタは目玉が飛び出るくらい高かった。まぁ,まだバブルの名残が残ってたしねぇ。 ↩︎

  2. プログラム・コードにも著作権があることを認める国際条約 WCT 以前の話なのでご容赦を。 ↩︎

  3. ちなみに私が Delphi で遊びだしたのは後のことである。 ↩︎

  4. 当時の日本語ワープロといえば圧倒的に「一太郎」だったが (Windows 95 が登場してからは Microsoft Word も健闘してたけど当時の Word はとにかく日本語処理が下手くそだった),紙への出力に関しては私のような素人が見てもカスみたいな品質だった。 ↩︎

  5. 先日,納戸にしまった本を発掘してたら $\mathrm{\TeX}$ 関連の本やらパッケージが大量に出てきて我ながら笑ってしまった。どんだけ好きだったんだろう(笑) ↩︎