インターネットで「死ぬ」ということ
(この記事は Facebook の TL に書き散らしたものを再構成して追記してお送りしています)
この手の話をする場合には「そもそも『死ぬ』とは何か」から始めなくてはならなくて,それは「『生物』あるいは『生きている』とはどういうことか」と同程度の難問であることは重々承知している。 なので,ここは私の独断と偏見で
「死」とは,ある時点以降にその人の「主観」が消失すること
と定義する。 つまり「貴方は私の中で永遠に生き続ける」とか「天国」とか「地獄」とか「転生したら剣でした」とかいうのとは話のチャネルが異なるので,そういうのを期待されている方はゴメンペコン。
この手の記事は昔から時々見受けるものだが,ゼロ年代が終わるくらいから増えてきているように感じるのは(世代交代により)インターネットがようやく「幼年期」を脱しつつある証だと思う。
私個人に引きつけて言うと,2003年に大学時代の先輩が亡くなられたんだけど,先輩の Web ページがあっという間に削除されていくのを目の当たりにして初めてネットにおける「死」を実感することになった。
ちなみに,当時のコンテンツ(の一部)は遺族の方に申し出て私の個人サイトで公開を続けている。
でも,これだって私がこのサイトを維持できなくなれば(私自身のコンテンツごと)消失してしまうのである。
考えてみれば,リアルの世界だってある人が死ねばその人の記憶も記録もやがては風化していくのが当然なのに,どうしてネットの記録は永遠に残り続けるなどと思い込んでしまったのだろう。 それってやっぱ「ピーターパン症候群」の一種なのだろうか。
ネット上の活動は永続的ではなく,必ず「死」を迎える。 この絶対の事実に少しでも抗いたいなら,「何か」が引き継いでくれることを期待して,記憶や記録をいつでも「持ち出し可能」な状態にしておくしかない。 これは何十億年と続く地球上の生物の基本戦略である。 記憶するまたは記録するというのは静的な事象ではなく,常に動的な活動の中にある,ということだ。
記憶や記録を「引き継ぐ」ためには特定のサービスに帰属してはならない。 サービスに帰属する記憶や記録は,そのサービスのライフサイクルの中でしか生きられないからだ。
たとえば2003年末に,当時の HotWired Japan で「日本の「クリエイティブ・コモンズ」の可能性 ── 創造的な著作物の共有地を広げよう」という特集記事が組まれたんだけど,その記事群は HotWired Japan のサイトごと消失してしまってるのよ(Internet Archive に痕跡が残っている)。 私は当時の編集長さんにお願いして寄稿文の草稿版を自サイトで公開することを許可してもらっていた1。
結果としてどうなったかというと, Creative Commons の founder でもあるローレンス・レッシグ教授やその他の識者方の貴重な記事は消失し,私みたいな(専門家でもクリエイターでもない)場末のプログラマごときの駄文が残ってしまったわけだ。
私が私の記事をアーカイブしているのは,自身の収集癖によるものであって「このコンテンツは後世に残しておかなきゃ」なんて使命感みたいなものがあったわけじゃない。 もし私にそんなものがあったなら,自分の記事じゃなくてレッシグ教授のインタビュー記事を収集してたはずである。
そもそも!
死んだら消失してしまう Web 上のコンテンツを保持っておく意味なんかあるのか?
私は私が運用しているコンテンツに微塵も未練はない。 私が死んだら私の主観はこの世から消失するのだから。 私が個人サイトやこのブログを運営しているのは,あくまで今の私のためである。
でも,みんながそう考えるのなら最終的にネットには何も残らないことになる。 これってインターネットの存在理由に関わる重大な命題だと思わない?
ブックマーク
参考図書
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ふっふっふ。少年画報社版も持ってるぜ!
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- 評価
フランちゃんが可愛い。特に尻尾が。あと師匠のカレーが食べたい。
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寄稿文自体は CC License の by で公開してるんだけどメディアとしての露出タイミングとかもあったので,特集記事の公開後半年以降ならということで快諾を頂いた。ちなみに草稿版のあとがきで件の先輩のことに少し言及している。 ↩︎