冬至に関する与太話
Facebook の TL に書き散らしたものを再構成してお送りする。 たまにはこんな与太話も。 つか,ここのブログって基本的に与太話なんだが(笑)
現在の冬至の定義は「太陽が黄道上の黄経 $270\tcdegree$ の位置を通過する日」である1。
天球2 上の「天の赤道」と「黄道」が交差する位置が春分点3 と秋分点で,春分点は赤経 $0\tcdegree$ で黄経 $0\tcdegree$ となる。 「天の赤道」とは地球の赤道を天球に延長したようなもので,地球の自転軸を基準にしたもの。 「黄道」は天球上の太陽の(見かけの)軌道で,要するに地球の公転面を示すものである。
以上の説明からお分かりのように,現代天文学では天球上の位置(「天球座標」と呼ぶ)は春分点が原点になっていて,そこから計算される暦も春分点が基準になっていると言っていい。
しかし,古代中国では冬至が暦の基準になっていて,冬至を決定することが天文学者(=占星術師4)の最大の使命だったと言っていいだろう5。 冬至を観測する一番簡単な方法は日時計などで太陽の南中高度を観測すること。 南中高度がもっとも低い(日時計の影が最も長い)日が冬至である(北半球の場合ね)。
大昔の人は冬至から次の冬至までの日数を数え上げて「年」を規定し6,そこに月などの天体の運行を加味して暦を作り上げたわけだ。
現在,世界で主流の太陽暦(グレゴリオ暦)の年初は歴史的経緯というか宗教的経緯で決められたもので,天文学的に意味のある日ではないが,それでも冬至が年末付近にあるというのは,多少は影響があったのかも知れない。
ブックマーク
参考図書
- 天体の位置計算
- 長沢 工 (著)
- 地人書館 1985-09-01
- 単行本
- 4805202254 (ASIN), 9784805202258 (EAN), 4805202254 (ISBN)
- 評価
B1950.0 分点から J2000.0 分点への過渡期に書かれた本なので情報が古いものもあるが,基本的な内容は位置天文学の教科書として充分通用する。
- 天体物理学
- Arnab Rai Choudhuri (著), 森 正樹 (翻訳)
- 森北出版 2019-05-28
- 単行本
- 4627275110 (ASIN), 9784627275119 (EAN), 4627275110 (ISBN)
- 評価
興味本位で買うにはちょっとビビる値段なので図書館で借りて読んでいたが,やっぱり手元に置いておきたいのでエイヤで買った。まえがきによると,この手のタイプの教科書はあまりないらしい。内容は非常に堅実で分かりやすい。理系の学部生レベルなら問題なく読めるかな。
-
天文ファンの方々には経度は24時制のほうがしっくりくるかと思うが,今回はこれで統一する。 $270\tcdegree = 21^{\mathrm{h}}$ という感じで脳内変換していただければ。 ↩︎
-
「天球」とは地球を中心とした無限遠の仮想球面である。「無限遠」というのは具体的な長さを指すものではない。3次元空間上の座標を表すには通常は3つのパラメータが必要だが(方位・高度・距離 など),天球を想定することで地球と天体との「距離」のパラメータを省くことができる。これにより天球上の天体を2つのパラメータ(方位と高度あるいは赤経と赤緯)のみで表すことが可能になる。つまり天球は地球から見た天体の2次元写像であると見なすこともできる。もちろんこれは地球と天体との距離が(人間の肉眼レベルでは)十分遠いが故に可能な想定である。しかし現代天文学においてアインシュタインの業績や観測技術の飛躍的な向上により「天体までの距離」が重要な意味を持つようになったのは,皆さんご承知のとおりである。 ↩︎
-
ちなみに星座で言うと春分点はうお座辺りにある。秋の星座は明るい星が少なく春分点付近に位置する明るい星はない。 ↩︎
-
古代の話ですよ。現代の天文学者を指差して「占星術師」などと言うとごっつ怒られるので,ご注意を。 ↩︎
-
古代から中国の暦を利用してきた日本でも,当然ながら冬至の観測は重要だった。現代のいわゆる旧暦でも閏月を決定する際には冬至が起点になっている。 ↩︎
-
「年紀を刻む」というのは暦の成立過程の中でとても重要なポイント。何故なら,それによって人または人の社会は初めて「歴史」を持つことができるから。 ↩︎