『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』を読んで子供の頃を思い出す
(脚注に若干のネタバレあり)
私が学校で行列を習ったのっていつだっけ? 高校生かな? 大昔のことで忘れてしまったよ(笑) 今はどうなんだろう1。 『行列が描くもの』本編を読む限り今だに高校で習うっぽいけど。
学校教育の「行列」って「三角関数」と並んで躓きやすいところだよね。 私はこの辺りから公式集が手放せなくなった。 数学の公式って「思考のショートカット」だよね。 でも思考のショートカットって「それ」について考え続けてないと廃れちゃう。 廃れないようにするには「それ」に関する情報を常に浴び続ける必要がある。 学生当時のある教官はこれを「情報浴」と呼んでいた。
ところで今回の『行列が描くもの』は,私には微妙に違和感があるものだった。 たとえば2章で「僕」が行列の積を定義していくが,それに対してユーリちゃんが「どーしてそれを行列の積に使うのかわからない」と訊いたのに答えを先送りしてしまっている2。
この違和感については何となく思い当たることがある。 つまり私にとって「数学」は道具または手段に過ぎず「それがあると何が嬉しいか」という方向に思考を寄せてしまうのだろう。
私の中で「秘密ノート」シリーズは
という感じに連接している。 これは私個人が三角関数やベクトルや行列を(独学で)習うきっかけになったのが位置天文学だったからだ。 天体の位置を表すのにベクトルが必要で,天体の運動を計算するには(最低でも)三角関数が必須で,それらを扱う便利な道具が行列なのである3。
故に,いきなり行列の四則演算を定義していくより「数の積から行列の積を作る話」のほうが,導入として,よほどしっくり感じたのだった。 やっぱブートストラップをどう設定するかで印象って変わるんだねぇ。
つか,『行列が描くもの』の話の進め方ってオブジェクト指向だよね4(笑) まぁ「集合」を扱うようになると,どうしてもオブジェクト指向にならざるを得ないんだろうけど(いや因果が逆か5)。
ちうわけで,今回はリサちゃんがたくさん登場して嬉しかったり6。 そしてミルカさんは変わらずちまりまわるつ。 懐かしい複素数が出ましたねぇ。
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参考図書
- 数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの
- 結城 浩 (著)
- SBクリエイティブ 2018-10-16 (Release 2018-10-17)
- Kindle版
- B07JB2MSQT (ASIN)
- 評価
三角関数,ベクトルときたら次は行列だよね。リサちゃん大活躍で嬉しい。
- 数学ガールの秘密ノート/丸い三角関数
- 結城 浩 (著)
- SBクリエイティブ 2014-04-23 (Release 2015-04-18)
- Kindle版
- B00W6NCLJM (ASIN)
- 評価
丸と三角の楽しい関係。頑張れば小学生高学年でも大丈夫。
- 数学ガールの秘密ノート/ベクトルの真実
- 結城 浩 (著)
- SBクリエイティブ 2015-11-17 (Release 2015-12-03)
- Kindle版
- B018VE46YW (ASIN)
- 評価
図形(具象)と数式(抽象)の往復は楽しい。
- 数学ガール
- 結城 浩 (著)
- SBクリエイティブ 2007-06-26 (Release 2014-03-12)
- Kindle版
- B00EYXMA9I (ASIN)
- 評価
ミルカさんとの衝撃の encounter。数学ガールがワルツを踊る。
- いかにして問題をとくか
- G. ポリア (著), Polya,G. (原著), 賢信, 柿内 (翻訳)
- 丸善 1975-04-01
- 単行本
- 4621045938 (ASIN), 9784621045930 (EAN), 4621045938 (ISBN)
- 評価
数学書。というか問いの立てかたやものの考え方についての指南書。のようなものかな。
- 天体の位置計算
- 長沢 工 (著)
- 地人書館 1985-09-01
- 単行本
- 4805202254 (ASIN), 9784805202258 (EAN), 4805202254 (ISBN)
- 評価
B1950.0 分点から J2000.0 分点への過渡期に書かれた本なので情報が古いものもあるが,基本的な内容は位置天文学の教科書として充分通用する。
- 数学公式集 (共立全書 (138))
- 幹雄, 小林 (Unknown)
- 共立出版 1959-06-01
- 単行本
- 4320001389 (ASIN), 9784320001381 (EAN), 4320001389 (ISBN)
- 評価
学生の頃から愛用している数学公式集。簡潔な記述がグッド! 現在は絶版で新装版が出ているらしい。
- ちまりまわるつ (Izumi Takemoto dashinaoshi)
- 竹本 泉 (著)
- 朝日ソノラマ 2002-12-01
- コミック
- 4257904623 (ASIN), 9784257904625 (EAN), 4257904623 (ISBN)
- 評価
竹本泉さんの魔法(ちまちまじっく)世界線の原点とも言える作品。ただしリニューアル版。
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Twitter で教えていただいたが,最近の高校生は行列を学ばないらしい。もったいない(笑) ↩︎
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2章の「どーしてそれを行列の積に使うのかわからない」というユーリちゃんの疑問については,5章でミルカさんが「行列の積というものは、線形変換の合成を表すよう定義されている」と答えている。フラグ回収という形で読者と対話しているわけですね。 ↩︎
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初等天文学では天体の位置を天球(観測者を中心とした無限遠の球面)への写像と考える。天体の位置は(観測者から見た)方位・高度・距離の3要素で構成される極座標で表すことが多いが,天球を想定することで距離の要素を省略する(つまり方位と高度のみで表す)ことができる。そこで行列の登場なのですよ。この辺は『行列が描くもの』の4章から5章を読むとイメージしやすいかも。 ↩︎
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まぁ,テトラちゃんがそのものズバリ《もの》と言っちゃってるんだけど。 ↩︎
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しかしリサちゃんの「要求過多」のセリフに職業プログラマであるおぢさんはちょっとうるっとしてしまったのだった(笑) ↩︎