これがオリンピック効果というやつか

no extension

今年は時事ネタは控えめにしようと思っているのだが,なんか微妙に反応があるみたいだし,鮮度が落ちないうちにブログに書いておくか。

私が気がついたのは福井健策さんによる以下の tweet だった。

なんちうか「利用規約」が8章51条もある時点で(human-readable でないという意味で)時代遅れにも程があると思うが,件の「東京2020チケット購入・利用規約」の文言はこれ。

3.チケット保有者は、会場内において、写真、動画を撮影し、音声を録音することができます。また、チケット保有者は、IOCが、これらのコンテンツに係る知的財産権(著作権法第27条および第28条の権利を含みます。)について、チケット保有者もしくはその代理人に対する金銭の支払や、これらの者から別途許諾を要することなく、単独で権利を保有することに同意し、さらにチケット保有者は、これらのコンテンツについて保有する一切の権利(著作権法第27条および第28条の権利を含みます。)をIOCに移転するとともに、その著作者人格権を行使しないことに同意します。

ちなみに「著作権法第27条および第28条の権利」というのは「二次的著作物の作成に関する権利」および「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」を指す。 その上で4項

4. IOCは、前項を前提としたうえで、チケット保有者が会場内で撮影・録音したコンテンツを個人的、私的、非営利的かつ非宣伝目的のために利用することができる制限的かつ取消可能な権利を、チケット保有者に対して許諾します。ただし、チケット保有者は、会場内で撮影または録音された動画および音声については、IOCの事前の許可なく、テレビ、ラジオ、インターネット(ソーシャルメディアやライブストリーミングなどを含みます。)その他の電子的なメディア(既に存在するものに限らず将来新たな技術により開発されるものを含みます。)において配信、配布(その他第三者への提供行為を含みます。)することはできません。

を規定している。

つまり「会場」内で作成されたあらゆるコンテンツの権利は IOC (International Olympic Committee) に帰属し,その利用権を(事後に取り消し可能とした上で)本来の著作者に限定的に「許諾する」としたわけだ。 しかも財産権の譲渡(移転)と人格権の不行使は無償かつ排他的に行われることを(チケットと引き換えに)強要している。 チケットを高額で売りつけた上に権利まで奪うとか何処のジャイアンだよ。

とはいえ,昔はこういう「ライセンス」は普通にあった。 特にブログ勃興期のゼロ年代前半ではこの手のジャイアニズムが横行し,大きな批判を浴びていたものである(昔語り)。

「著作権」がコンテンツホルダー同士を調停するための手段であった20世紀までなら権利の譲渡や(譲渡できない権利の)不行使を要求する規約も有効だったかもしれないが(コンテンツホルダー同士ではまだ有効らしいw),今はネット上のあらゆるコミュニケーションが「創作」「創造」とセットになっていて,それを奪う形で禁止するというのはまさに「表現の自由の侵害」であろう。

とはいえ向こうさんも商売(興行)でやっているわけで,特に「放映権」は重要な商売道具なのだからコントロールできないのは困る,というのはよく分かる。 実際に音楽ライブ等でも撮影や録音およびそれらを公開する行為を禁じているところは多い。 その延長線上と考えればオリンピックの様子を勝手に撮影・録音し公開することを禁じること自体はさほど無茶な「要求」とは思えない。

問題はそういった「要求」にあるわけではなく,「要求」に対して著作者の権利を奪う形で「実装」しているというのが問題なわけだ。 「要求」がまともでも「実装」がクソというのはエンジニアリングの世界でもよくある話である。

ところがここでピントはずれなヤツが出てくるのだ。

会場内で撮影した動画は思い出の記録としてSNSにも投稿しておきたい……と思ってしまいそうですが、この規約は実際どういった運用になるのでしょうか。

ツッコむのそこかよ orz

オリンピック礼賛も大概にせーよ! ホンマ,冬眠ならぬ夏眠してる間にオリンピック終わってるとかならないかな。 やりたいやつだけが誰も知らないところでひっそりとやればいい。 それならこんな馬鹿げた規約も不要だろう。

もう馬鹿すぎて怒る気にもならない。 これがオリンピック効果というやつか。

参考図書

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著作権法(第4版)
中山信弘 (著)
有斐閣 2023-10-31 (Release 2024-02-02)
Kindle版
B0CTM1KHDX (ASIN)

第4版が出てた。Kindle 版も出ている。第2版を図書館で借りて読んだが途中でギブアップした。個人が興味本位で読める本ではないらしい(笑)

reviewed by Spiegel on 2024-07-12 (powered by PA-APIv5)