『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』を読み返す — 「理解」の数式展開
どこの記事か失念したが,高校生に「なりたい職業」を訊いたらエンジニア・プログラマが1番になったとかならなかったとかいう話が Twitter の私の TL 上に流れていて1,その派生なのか「プログラミングに数学は必要か?」みたいな話も聞こえてくる。
私はプログラミング上達の一番は他人のコードを大量に読むことで,その次がコードを大量に書くことだと思っている。 設計の定石(デザイン・パターン)は後追いでもなんとかなる。 知識やアイデアはあっても書かない(書けない)のなら意味はない。 って,どこぞの小説家みたいなことを言ってるな(笑)
でも「他人のコードを読む」ためには読解力が必要なのよ。 それも分析的に読む能力。 「プログラミングに数学は必要か」とかいった話はその辺が絡んでくる。 しかし,こう言っちゃあなんだが,数学を公式を暗記する科目だと思ってる人はプログラマに向かないと思う。 少なくとも「掛け算は順序が大事」とか言ってるうちは永遠に無理だよな(笑)
「掛け算は順序が大事」ってのは要するに,数学は「理解」するものではなく「覚える」ものという愚行を象徴するものだろう。 それってコピペ・プログラマが中身を理解せずにコードの塊をコピってきて「何で動かないの?」とドツボに嵌ってるのと殆ど変わらない。
…てなことを TL に書き散らして思い出したのが結城浩さんの『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』だった。
- 数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話
- 結城 浩 (著)
- SBクリエイティブ 2019-11-22 (Release 2019-11-23)
- Kindle版
- B081RBRMFB (ASIN)
- 評価
ノナちゃん登場。「僕」が大苦戦する回(笑)
って,あれ? 私ってばこの本の感想文を書いてないや。
というわけで半日かけて読み返したので改めて読書感想文を書いてみる。
『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』はこれまでの「数学ガール」シリーズの中ではかなり異質だと思う。 でも内容はいかにも著者の結城浩さんらしい内容で,随分前に出た『数学ガールの誕生』を読んだことのある人ならむしろ納得してしまうかもしれない。
この本の感想を一言で言うなら「『理解』の数式展開」という感じだろうか。
今回のメインキャラは書籍版では初登場の「ノナ」ちゃんだが,よくこういうキャラを思いつくよなぁ。 私は脳内思考が言語的ではないのだが「ノナ」ちゃんもそうなんじゃないかなと思うと多少なりと感情移入してしまう。
プログラマって実はそれ単体では成立し得ない職業なのよ。 本当に価値があって必要とされるのはコードそのものではなく,コードで記述される「何か」だから。 これは傭兵としてあちこちのプロジェクトを渡り歩いている人こそ痛感するだろう。
でも,コンピュータ・ソフトウェアは良くも悪くも書いたとおりにしか動かない。 利用者に(コードを逸脱して)忖度したりコードの行間を読んだりはしない。 これは AI でも同じ。 確率的な事象も統計推論も,書いたとおりにしか動かない。
ソフトウェアを思ったとおりに動かしたければ「思ったこと」を正しく理解し過不足なく記述しきらなければならない。 そして,コンピュータ・システムにおいて「理解」と「記述」を助ける手段が「数学」なのである。
というわけで「数学は苦手だけどエンジニア・プログラマにはなりたい」という奇特な方には『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』を読むところから始めるのはどうだろう。
ブックマーク
参考図書
- 数学ガールの誕生 理想の数学対話を求めて
- 結城 浩 (著)
- SBクリエイティブ 2013-09-13 (Release 2014-09-13)
- Kindle版
- B00NAQA33A (ASIN)
- 評価
結城浩さんの講演集。こういう場所に立ち会える今の学生さんは羨ましい。
- プログラマの数学 第2版
- 結城 浩 (著)
- SBクリエイティブ 2018-01-16 (Release 2018-02-08)
- Kindle版
- B079JLW5YN (ASIN)
- 評価
タイトル通りプログラマ必読書。第2版では機械学習に関する章が付録に追加された。
- いかにして問題をとくか
- G. ポリア (著), Polya,G. (原著), 賢信, 柿内 (翻訳)
- 丸善 1975-04-01
- 単行本
- 4621045938 (ASIN), 9784621045930 (EAN), 4621045938 (ISBN)
- 評価
数学書。というか問いの立てかたやものの考え方についての指南書。のようなものかな。
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いや「エンジニア・プログラマが1番」つっても全体の6%ほどだったような。多くは「わからない」と回答していて「そりゃそーだ」と思ったり。 ↩︎