「うるう秒は時代遅れ?」

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「日経サイエンス」2025年2月号の Kindle 版が出てたのでポチって読む。 これって紙版と同時にリリースしてくれないのかなぁ。 私はお金を出して資源ゴミを買う趣味はないので,紙の雑誌はなるべく買いたくないのよ。

特集記事以外では「うるう秒は時代遅れ?」が面白かった。 挿し絵を含めて4ページほどの短い記事。

念のために説明すると私達が日常で使っている時刻系には大きく恒星時系と原子時系の2つがある。 恒星時系は UT (universal time; 世界時) に代表される地球の自転を基準にした時刻系で原子時系は TAI (international atomic time; 国際原子時) に代表される原子時計(SI秒)を基準にした時刻系である。 恒星時系は地球上の日周運動とリンクしているため日常生活にマッチしているが,一定の時間を刻まず,また観測値であるため未来時刻の予測ができない。 原子時系は一定の時間を刻む1 が恒星時系との乖離が発生する。

UT と TAI とのギャップを埋めるために考えられたのが UTC (coordinated universal time; 協定世界時) である。 現在の UTC は原子時系の一種で1972年1月1日から TAI と10秒差で開始された2。 以後 UTC は TAI との差が整数秒かつ UT13 との差が0.9秒より大きくならないよう適宜調整されている($|UT1-UTC| \leq 0.9^\,\mathrm{sec}$)。 この時刻調整が閏秒。 閏秒の予測はできないが,挿入または差し引かれる半年前にはアナウンスがある。

実は2017年直前の閏秒挿入以来,閏秒は発生していない。 件の記事によると2029年までは発生しないだろうと試算されて,しかもこのときは1秒が差し引かれる閏秒になるんだそうな。

地球の自転は潮汐摩擦により遅くなっていく傾向にあるが(恐竜が生きてた時代は1日が23.5時間ほどだったとか),1990年頃から逆に加速しているらしい。 加速している理由は地球温暖化により極地で地殻を押さえつけていた氷が融けて地球の形状が(より球に近く)変わったせいなんだとか。 でもこれは一時的なもので,融解した水が赤道付近に集まれば再び自転速度は遅くなるそうな。

UTC が開始された頃は閏秒のインパクトはそれほど大きくなかった。 しかしコンピュータ・ネットワークが発達し,更にチップの処理単位もマイクロ秒あるいはナノ秒といった桁で処理されるようになり,閏秒のインパクトが馬鹿にならなくなってきた。 特に2012年の閏秒では実際にあちこちのサービスで不具合が発生し大騒ぎになった。 今や閏秒は可用性リスク要因となっているのだ。 これにより「ホンマに閏秒って要るの?」という議論がされるようになった。

仮に閏秒を入れずに UT とのギャップをスルーしたとしても100年で1分程度の差にしかならないらしい。 それなら100年ごとに閏分を入れるとか,いっそ時刻調整なんか止めちまえとかいった主張が出るのも無理からぬ話である。

そこで2022年の国際度量衡総会で閏秒の調整を2035年まで行わないことに決めたんだそうな(廃止ではない)。 それまでにどういうルールで調整するのか決めるということで,ぶっちゃけ問題の先送りである(笑)

件の記事にあるように時刻調整が20年ごととか100年ごとになるのか,それとも廃止になるのかは分からない。 たぶん100年後って今のようなコンピュータは存在しないんじゃないのかな? それならいっそ閏秒なんか止めちまえば? とか最近は思うようになった。 だって閏秒のたびに不具合が起きないよう起きても即座に対処できるよう大量の人員を配置するんだぜ。 費用対効果の観点からも無駄の極みだよな(こういうのこそ AI が肩代わりしてくれないものだろうか)。

さて,どうなるやら。

参考文献

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日経サイエンス2025年2月特大号 [雑誌]
日経サイエンス (編集)
日経サイエンス 2024-12-25 (Release 2024-12-25)
Kindle版
B0D47FY7Q3 (ASIN)
評価     

固定レイアウトなのでブラウザで読める。この巻の特集は「科学者に迫る人工知能」と「めざすは月」。あと閏秒の小さな記事が面白かった。

reviewed by Spiegel on 2025-01-04 (powered by PA-APIv5)

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天文年鑑 2025年版
天文年鑑編集委員会 (編集)
誠文堂新光社 2024-12-05 (Release 2024-12-05)
単行本
4416723660 (ASIN), 9784416723661 (EAN), 4416723660 (ISBN)
評価     

天文ファン必携。2025年版。これが届くと年末って感じ。

reviewed by Spiegel on 2024-12-05 (powered by PA-APIv5)

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理科年表 2020
国立天文台 (編集)
丸善出版 2019-11-20
文庫
4621304259 (ASIN), 9784621304259 (EAN), 4621304259 (ISBN)
評価     

日本における令和への改元や国際単位系(SI)の定義改定などに関するトピックを多く掲載。2020年版は(保存用として)買いかも。

reviewed by Spiegel on 2019-12-08 (powered by PA-APIv5)


  1. 厳密には相対論効果があるため(観測者との位置関係によっては)一定ではない。相対論効果を考慮した時刻系を座標時系と呼ぶ。座標時系は天文学の厳密な力学計算で用いられる。また原子時系のひとつである TAI は,実は座標時系の一種として再定義されている。 ↩︎

  2. 1972年より前にも UTC は存在したが,現在とは異なるルール(1秒の長さを意図的に変える)で運用されていた。これが破綻したため現在の UTC になった。 ↩︎

  3. 簡単に言うと VLBI (Very Long Baseline Interferometry; 超長基線電波干渉法) などを使った観測により求められた生の値が UT0。そこから地球自転軸の極運動等の効果(これも観測により求める)を差し引いたものが UT1 である。さらにそこから年間の自転速度の進み遅れを調整した UT2 もあるのだが,現在 UT2 は運用されていない? ↩︎