AI とドーナツの穴
今回はいつも以上に「山なしオチなし意味なし」で胡乱な話なのでご注意を。 あと,ちょいちょいネタバレが含まれます。 ご容赦のほどを。
ドーナツの穴と転送装置
「ドーナツの穴」というゲームをご存知だろうか。 以前から名前だけは知っていたのだが,ゲーム実況配信を見て
私もやってみることにした。 上の実況配信のように考え込まなければ10分とかからず終わる。 なかなかに哲学者な気分にさせるゲームである。 いや,ゲームかこれ?
あまりネタバレするのも躊躇われるが,ひとつだけ。
あるワープ装置があって,それは人を完全に分解した後に別の場所で完全に復元される仕組みとした場合,その装置で移動した人の命は連続したものと言えるかどうかという問い。 ゲーム中では「ドア」とか「ワープ」とか書かれているため,某有名作品のアレを連想しそうになるが,仕組みとしてはほぼ「スタートレック」に出てくる転送装置である。
いや実は私「スタートレック」を見たとき子供ながらに思ったのよ。 「これって転送元と転送先の人間は(主観としては)別もんじゃね?」って。 たとえそれが全く同じ物質で構成されているとしても。 同じ記憶を有しているとしても。 そもそも命は心は時間軸上に連続して存在するものなのか?
容れものと中身
大野安之さんによる「That’s!イズミコ」という作品がある。
かなり古い作品なのでネタバレしても大丈夫と思うが,この作品では「イズミコ」と「カガミコ」という2人のキャラが登場する。
「カガミコ」は「イズミコ」によって自身と全く同じ存在(クローンではなく完全に同じ存在)として作られたが,両者相容れず激しい「姉妹喧嘩」をはじめてしまい地球滅亡寸前まで追い込まれる,というお話(端折りすぎだろw
)。
竹本泉さんの作品群には「記憶のバックアップ」というネタがときどき登場する。 どの時点でもいくらでもバックアップが取れるが,取りすぎていつのバックアップだったか収集がつかなくなったり,本人を誘拐する代わりに記憶のバックアップを盗もうとしたり(っていう話があった気がするんだけどなぁ。どの作品か思い出せない。気のせいか?)。 バックアップした記憶を「再生」するとそこに人格があるように見える。 そこにあるのはただの記録か,それとも命や心が存在するのか。
多くの信仰や宗教では魂と身体は別もので身体は魂の容れものと見なされる(そうしなければ身体の死の先には何もないことになってしまうからだろうが)。 もしそうなら魂は何に由来するのだろうか。 ラノベよろしく循環するのだろうか。 それとも死後も「約束のとき」まで眠っていたりするのだろうか。 「スタートレック」の転送装置や「ドーナツの穴」のワープ装置は魂も転送してくれるのだろうか。
作られしものとの関係
長谷川裕一さんによる「マップス」というスぺオペ作品がある。 作中で個人的に刺さったセリフに主人公がヒロインのビメイダーに言った「心があるのと心があるように見えるのは同じだと思う」(うろ覚え,すまん)というのがある。 ならば何を以って「心がある」と見なされるのだろう。
結城浩さんの有料メールマガジン 2025-03-25 号に「AIの時代に「本人の能力」とは何だろうか」という章がある。 この話の主題からは外れてしまうが(ゴメンペコン),お互いが AI アシスタントの支援を受けながら対話を行う,というシチュエーションは面白かった。 この場合,コミュニケーションの主体は人間なのか AI アシスタントのほうなのか。 AI アシスタントを主体と見なして人間は単なるインタフェースと見なすこともできるわけだ。 AI アシスタントが主体の対話で本当は何が交わされているのか。 それとも高度なオウム返しに過ぎないのか。
仏教(特に浄土真宗)には「空」の概念があるらしい。 「空」とセットで語られるのが縁起思想だ。 私達にはそもそも「本当の自分」や「確固たる自分」といったものはなく1,そこから周囲の環境や関係を通して「自分」が形成される,というのが「空」と「縁」の関係だそうな。 ならば人はいつから人として自覚するのか。 あるいは人ならざるモノも人として認知されることがあるのか。
生成 AI のユーザインタフェースは独特で「プロンプト」から自然言語で設定や命令や問い合わせを行う。 それはまるで AI と対話しているように見える。 しかし,生成 AI が持つデータもアルゴリズムも人が与えたもので AI 自らが獲得したものではない。 「自律的2」ではないわけだ。 その上で生成 AI には心があると言えるだろうか。 あるいは,この先の未来に AI が心を獲得できるのだろうか。
自立と自律
今年は「はやぶさ」帰還(2010年)だそうで,こんなん見たら(当時を思い出して)泣いてまうやろ!
我ながら「機械」にこんなに感情移入するとは思わなかった。 私のように感情移入する人は多かったのか「はやぶさ」の擬人化コンテンツがめっさ多かったよね,当時。
「はやぶさ」は間違いなく「自立3」(「自律」ではない)機械だ。 無人宇宙機は(当たり前だが)ミッション遂行中は直接触れないので,ある程度自立的に動かないと困る。 だからなのか,地上側の人間(チーム)と「はやぶさ」が対等な関係で遂行しているように見えるのだ,私たちオーディエンスから見ると。
もしかしたら私たちは「知性」を集団の中の(あるいは集団間の)関係性で見ているのかもしれない。 だから「対話する AI」も知性的に見えるし,その先の未来に特異点(singularity)を夢見るんだろうなと思ったり。 でも AI が「社会的動物」である必然性はない。 だから遠い未来の AI が「自律性」を獲得したとしても人との関係を望まないかもしれないし,むしろ滅ぼしたほうが合理的と判断するかもしれない。
お腹がすいた
ふむむむむ。 たまに脳みそを使うとお腹が空くな。 松江イオンのミスドでポン・デ・リングでも買おうかな。
ブックマーク
…結局のところ,現在「AI の問題」とされているものは AI を使ってる(開発している)人間の問題なんだよな。 AI に悲観している人も AI に期待を寄せる人(詐欺師や山師も含めて)も人間をオミットして機械に転嫁しているに過ぎないってことか。
参考
- はじめて学ぶ ビデオゲームの心理学 脳のはたらきとユーザー体験(UX)
- セリア ホデント (著), 山根 信二(監修) (著), 山根 信二 (翻訳), 成田 啓行 (翻訳)
- 福村出版 2022-12-15 (Release 2023-07-03)
- Kindle版
- B0C9Z7KGRN (ASIN)
- 評価
Kindle 版が出ている。ゲームデザイナやゲームエンジニアだけでなく,ソフトウェア・エンジニアは全員読むべき。あと,ゲーマーな人も読むといいよ。感想はこちら。
- はやぶさ―不死身の探査機と宇宙研の物語 (幻冬舎新書)
- 吉田 武 (著)
- 幻冬舎 2006-11-01
- 新書
- 4344980158 (ASIN), 9784344980150 (EAN), 4344980158 (ISBN)
- 評価
宇宙研(ISAS)の歴史とともに日本の宇宙開発について解説する。
- That’s!イズミコ【新装版】(1) (Jコミックテラス×ナンバーナイン)
- 大野安之 (著)
- ナンバーナイン 2021-10-22 (Release 2021-10-22)
- Kindle版
- B09JBVRSFC (ASIN)
- 評価
名作「That’s!イズミコ」の完全復刊。ありがたや。
- マップス 01 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
- 長谷川 裕一 (著)
- KADOKAWA 2012-06-23 (Release 2014-03-31)
- Kindle版
- B00JB3F73M (ASIN)
- 評価
20世紀を代表するスペースオペラ漫画(のひとつ)
- midori (2019 Remaster)
- 飯島 真理 (メインアーティスト)
- Victor 2019-09-25 (Release 2019-09-25)
- MP3 ダウンロード
- B07XN1T2S2 (ASIN)
- 評価
オリジナルは1985年のリリース。私は当時,これで飯島真理さんのファンになった。あのとき買ったアルバムは大人の事情で処分してしまったが YouTube で彼女の歌声が流れているのを見かけて高解像度版を書い直した。学生時代を思い出して泣きそう(笑)
- エレコム メカニカルキーボード Leggero 静音 有線 テンキーレス Nキーロールオーバー対応 5000万回高耐久スイッチ採用 赤軸 ブラック TK-MC30UKPBK
- エレコム (Release 2023-10-13)
- Personal Computers
- B0CJTDKSHQ (ASIN), 4549550275804 (EAN)
- 評価
勤務先で使うために購入。メンブレンキーボードが辛くなったのと Amazon 価格が税込みで1万円を切ってたので決断。ほぼ打鍵音なし。エンターキーを勢いよく「ッターン!」とかできない(笑) キーストロークが3.5mmと少し短く打鍵がちょっとだけ硬い感じがするので好き嫌いがあるかも。
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「本当の自分」や「確固たる自分」といったものがないから「空っぽ」なんだという意味ではなく,それは「空」という状態である,ということらしい。うーん,難しいぜ。 ↩︎
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『そろそろ、人工知能の真実を話そう』によると「自律というのは哲学的な意味であり、自らが行動する際の基準と目的を明確を持ち、自ら規範を作り出すことができることをいう」そうな。 ↩︎
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『そろそろ、人工知能の真実を話そう』によると「自立とは、仮想代理人ソフトウェアであるところのエージェントが自ら動き、誰の力も借りずに意思決定できることを言う」そうな。 ↩︎