暦の改訂(DE430 から DE440 へ)

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5月になりました。 あっという間やねー。 歳をとると月日が経つのが速い(笑)

暦の改訂(DE430 から DE440 へ)

というわけで国立天文台から来年2026年の暦象年表が出た1

このうち「暦の改訂について」に関しては別途記事が公開されている。

現在「暦象年表」のベースとなっているのが米国 JPL が惑星探査用に編纂した月・惑星の暦 DE (Development Ephemeris) で国際的に広く使われている。 DE にはいくつかのバージョンがあり,日本の暦では2016年版以降 DE430 が採用されていたが,2026年版から DE440 が採用されることになったようだ。 DE440 の特徴は以下の通り2

  • DE440にはDE430以降の7年にわたる観測値が反映されている.この間,水星ではMessenger,金星ではVenus Express,火星ではMars Reconnaissance Orbiterなど,木星ではJuno,土星ではCassiniによる探査が行われていた.とくに,木星はJunoが新たに到達したことで,大きな改善が見られる.冥王星ガイア星表を用いて整約した掩蔽のデータが追加され,月は月レーザー測距(LLR)による観測が続いている.
  • 太陽系外縁天体の影響を,30の個別天体と黄道面上半径44 auの距離に等間隔で配置された36個の質点というモデルで考慮するようになった.これにより,太陽から見た太陽系重心の位置はDE430に比べて100 kmほどずれてしまうが,太陽と地球の距離など,天体の相対的な位置関係では相殺されるので,大きな影響はない.
  • ほかにも,惑星の運動にLense-Thirring効果,地球と月の運動に太陽の放射圧など,一段と緻密な影響まで考慮するようになった.
  • 2012年のIAU勧告でガウス引力定数は定数系から外されたにもかかわらず,DE430では定数扱いが続いていた.DE440では,GMSを直接推定する形に変わっている.

今回の改訂による影響は比較的小さいようだが

DE440とDE430に大差はないのかというと,じつはそうとも限らない.長期にわたる月の黄経およびの時刻を比較すると,むしろDE440のほうが差は大きいことがわかる

とも書かれている。 これって朔望月に影響するのかな。

【再掲載】暦の改訂(DE405 から DE430 へ)

(この節は2015年に旧ブログに掲載した記事を再掲載したものである。日付等は2015年時点のものなのでご注意を)

暦を決定するには太陽や月などの天体の位置や速度をできるだけ精確に測定することが不可欠である。 国立天文台ではこれらの天体情報をまとめた「暦象年表」を毎年発行している(祝日などをまとめた「暦要項」は「暦象年表」の抜粋)。

現在「暦象年表」のベースとなっているのが米国 JPL (Jet Propulsion Laboratory; ジェット推進研究所) が惑星探査用に編纂した月・惑星の暦 DE (Development Ephemeris) で国際的に広く使われている。 これまでは DE405 が採用されてきたが,2016年版からは(2012年 IAU (International Astronomical Union; 国際天文学連合) 勧告を組み込んだ) DE430 が採用されることになったらしい。

DE430 では DE405 以後の観測値が反映されている。 特に惑星観測に関しては惑星探査機による精密な測距観測が行われており,その成果が反映されている。 地球の月についてもレーザ測距(Lunar Laser Ranging; LLR)による継続観測や GRAIL ミッションなどにより精度が向上している。

更に,これが多分いちばんインパクトが大きいと思うが,2012年 IAU 勧告に基づき,「天文単位 $\mathrm{au}$ (astronomical unit)」が定数として再定義された。 すなわち(時刻系に依らず)

\[ A = 1\,\mathrm{au} = 149,597,870,700\,\mathrm{m} \tag{1} \label{eq:au} \]

となる(定数なので「誤差」はない)。

もともと「天文単位」は測距観測技術が未熟だった時代に考えだされた単位で「1日($D=1^{\mathrm{d}}=86400^{\mathrm{s}}$)あたり $0.01720209895\,\mathrm{rad}$ の角速度で太陽の周りを等速円運動する質点の軌道半径」と定義されていた。 ちなみに $0.01720209895$ はガウス引力定数 $k$ とよばれ,19世紀にガウスが定めたものである。

\[ k = 0.01720209895 \tag{2} \label{eq:k} \]

この質点の周期を $T$ とすると

\[ T = \frac{2\pi}{k} \simeq 365.256898^{\mathrm{d}} \simeq 1\,\mathrm{年} \tag{3} \label{eq:T} \]

となり(さぁ検算しよう!), $1,\mathrm{au}$ がほぼ地球の公転軌道半径に等しいことがわかる。 実際,理科の教科書には「1天文単位は地球の公転軌道半径と同じ」と説明されているものが多いと思う(ていうか,本来の定義が「1天文単位は地球の公転軌道半径と同じ」なのだが,色々あって定義が変遷している)。

なんでこんな面倒臭いことをするかというと,この定義を使うことにより,天文単位の具体的な値がわからなくても日心重力定数 $GM_{S}$ は

\[ GM_{S} = A^{3} \times \left( \frac{k}{D} \right)^{2} \tag{4} \label{eq:GMs} \]

で一定の値になるのである。

しかし,現代の測距観測技術の向上により天文単位を考慮せずとも日心重力定数を直接観測(!)することが可能になった。 また上述の式では相対論的な考慮等が含まれておらず,天文単位や日心重力定数の変動が何によるものかが分かりにくい。 そこで天文単位を定数系に組み入れ,その代わりガウス引力定数 $k$ は外されることになった。 また日心重力定数 $GM_{S}$ は観測値となる(定数なのに観測値。ややこしい)。

あぁ,そろそろ新しい天文学の本を調達しないとなぁ。 なにかいい教科書ありません?

参考文献

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天文年鑑 2025年版
天文年鑑編集委員会 (編集)
誠文堂新光社 2024-12-05 (Release 2024-12-05)
単行本
4416723660 (ASIN), 9784416723661 (EAN), 4416723660 (ISBN)
評価     

天文ファン必携。2025年版。これが届くと年末って感じ。

reviewed by Spiegel on 2024-12-05 (powered by PA-APIv5)

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理科年表 2020
国立天文台 (編集)
丸善出版 2019-11-20
文庫
4621304259 (ASIN), 9784621304259 (EAN), 4621304259 (ISBN)
評価     

日本における令和への改元や国際単位系(SI)の定義改定などに関するトピックを多く掲載。2020年版は(保存用として)買いかも。

reviewed by Spiegel on 2019-12-08 (powered by PA-APIv5)

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天体物理学
Arnab Rai Choudhuri (著), 森 正樹 (翻訳)
森北出版 2019-05-28
単行本
4627275110 (ASIN), 9784627275119 (EAN), 4627275110 (ISBN)
評価     

興味本位で買うにはちょっとビビる値段なので図書館で借りて読んでいたが,やっぱり手元に置いておきたいのでエイヤで買った。まえがきによると,この手のタイプの教科書はあまりないらしい。内容は非常に堅実で分かりやすい。理系の学部生レベルなら問題なく読めるかな。

reviewed by Spiegel on 2019-11-13 (powered by PA-APIv5)

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天体の位置計算
長沢 工 (著)
地人書館 1985-09-01
単行本
4805202254 (ASIN), 9784805202258 (EAN), 4805202254 (ISBN)
評価     

B1950.0 分点から J2000.0 分点への過渡期に書かれた本なので情報が古いものもあるが,基本的な内容は位置天文学の教科書として充分通用する。

reviewed by Spiegel on 2015-01-11 (powered by PA-APIv5)

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すばる望遠鏡 宇宙の神秘を探る
国立天文台ハワイ観測所 (著), 国立天文台ハワイ観測所 (編集), 国立天文台ハワイ観測所 (写真)
クレヴィス 2025-03-28 (Release 2025-03-28)
単行本
4911003324 (ASIN), 9784911003329 (EAN), 4911003324 (ISBN)
評価     

国立天文台公式。2025年は共同利⽤観測開始から25周年だそうで,記念の画像集となっている。永久保存版だね。

reviewed by Spiegel on 2025-04-29 (powered by PA-APIv5)


  1. 国立天文台では毎年2月最初の官報で翌年の暦要項を発表する。さらに5月に「暦象年表」を発行する流れ。 ↩︎

  2. 「Lense-Thirring 効果」については日本天文学会編「天文学辞典」の「慣性系の引きずり」項目が参考になるかもしれない。ものすごく端折って言うといわゆる相対論効果の一種である。 ↩︎