本物の選挙ハックってやつを教えてやるよ(笑)

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本物の選挙ハックってやつを教えてやるよ(笑)

某グルメ漫画の台詞みたいなタイトルですが,もちろん釣りです(笑) いや Bluesky や Mastodon の自 TL を眺めてたら「選挙ハック」なる言葉を見かけたので。

件の Web 記事は無駄なページネーションで読みにくいし,新聞・テレビ等のマスメディアの Web 記事は一定期間で消滅しちゃうのでリンクする価値もないし, Kagi Assistant の助けを借りて斜め読みした内容をざっと紹介してみる。 違ってたらごめんなさい。

件の記事によると,どうやら「情報の拡散や金儲けなどに選挙を利用すること」を「選挙ハック」と呼んでるらしい。 ??? まぁいいや。

例として候補者自身が印刷広告会社を立ち上げて,そこに選挙ポスターを発注し,自治体には(予め決められた上限額いっぱいに)請求する手口を挙げている。 それで候補者が「選挙は儲かる」と言ってるってことは,立ち上げた企業の利益を候補者がガメてるってことだろう? 普通に横領じゃないの,それ。 そういや昨年の都知事選ではアホみたいに候補者がいたが,もはや「選挙で儲ける」ことが目的化・一般化してるってことなんだろうねぇ。

あと「2馬力選挙」ってのもあるそうで,これはひとつの選挙に同じ政治団体やグループから複数の候補者を擁立することで選挙運動に使える公費負担の選挙カーや選挙運動員の数を増やすことを指すらしい。

なんちうか小物感が半端ないな1(笑)

「選挙ハック」という言葉尻で連想するのが,ブルース・シュナイアー先生の『ハッキング思考』かな。 具体的には39章「投票資格のハッキング」と40章「選挙におけるその他のハック」。

市場や立法のプロセスと同じく、民主主義もその土台になるのは情報と選択肢と主体性である。この3つのどれもハッキングできるし、ハッキングされている。つまり、ハッカーは規則をいじることによって、民主的な選挙の意図をくじくことができるのだ。

投票しないという人は、対象にならない。だからこそ、多くのハックは有権者の主体性に干渉する。

ちなみに『ハッキング思考』では「ハック」をこう定義している。

  1. 想定を超えた巧妙なやり方でシステムを利用して、(a)システムの規則や規範の裏をかき、(b)そのシステムの影響を受ける他者に犠牲を強いること。
  2. システムで許容されているが、その設計者は意図も予期もしていなかったこと。

少なくとも「選挙は儲かる」てのは選挙システムを設計した人は意図も予期もしてなかっただろうね,多分。 目的外利用ってやつだ。

ハッキング思考』で挙がっている例をいくつか引用してみよう。

アラバマ州では今でも、有権者制限のさまざまな手口が使われており、重犯罪人、少数民族、移民、田園部の有権者などが選挙で制限を受けている。選挙権を阻む最初の障害は、有権者登録だ。同州では、電子的な有権者登録、陸運局での登録、自動の有権者登録、選挙当日の登録のいずれも、また期日前投票さえ成人有権者に認められていない。州法により、登録時には市民であることを示す身分証を提示する必要がある。この州法は、連邦の捜査が続いているため実施には至っていないが、仮に成立すれば、マイノリティ市民の投票権を不当に拒否する結果になる。マイノリティ層はパスポートなどの証明証を持っていないことが多いからだ。カンザス州も、同じような規則を設けて相当数の新しい有権者を門前払いしている。
一方、知らぬ間に有権者名簿から名前を削除されて参政権を失うこともある。これが適用されるケースとして一般的なのは、最近の選挙で投票していなかった有権者を削除する場合だ。投票に消極的な有権者が、有権者名簿から名前を抹消されないうちに投票所に足を運ぶことはほとんどないため、これは機能している。アラバマ州では、2015年以来、投票に行っていない有権者65万8000人が削除された。
前章と本章で取り上げている話は、なにもアラバマ州だけに限ったことではない。他の州も有権者の抑圧については同じくらい強引で、しかもその傾向は強まる一方だ。ジョージア州も、有権者IDと市民権証明を義務化する、有権者登録リストから抹消する、期日前投票の期間を短縮する、投票所を閉鎖するなどの措置を進めており、それがアフリカ系アメリカ人コミュニティに集中している(フロリダ州の現状は言わずもがなだ)。しかも今では、若者の有権者を抑圧しようとする措置も全国的に実施されつつある。特に、理想に燃える大学生は民主党に傾きやすいと考えられ、その対象になっている。
もうひとつの戦術も紹介しよう。2018年、ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事は、同州議会の議席を埋める補欠選挙の実施を拒否するという露骨な手段に出た。民主党に議席を奪われることを懸念したのである。最終的には、選挙を実施するよう連邦上訴裁判所によって命令されている。フロリダ州とミシガン州の知事もこのハックを試みたことがある。2018年、民主党のステイシー・エイブラムスはジョージア州知事選でブライアン・ケンプに僅差で敗退した。ケンプ現知事は選挙当時、州務長官として選挙を監督する立場にあり、選挙の直前になって有権者登録リストから有権者50万人を抹消していたのである。

こういった話を読んで昨年の米国大統領選挙を眺めると「今でもやってることは変わらないんだなぁ」と思う。 米国は公平でも公正でもないということだろう。 まぁ,米国に限らないんだろうけど。

日本はどうなんだろう。 最初に紹介した(ばら撒かれた小銭を拾い集めるような)小悪党がクローズアップされることで本物の選挙ハッカーの隠れ蓑になってないか? ハックは本来,強者の武器なのである。

おまけの余談

最近読んだ以下の記事が面白かった。

かいつまんで紹介すると,今まで Web のトラフィックは「検索」が支配しそれに最適化されたビジネスモデルが構築されてきたが,いわゆる生成 AI の台頭により従来のビジネスモデルは崩れるだろうという話である。 ぶっちゃけ,ググってもそこから来るやつなんかいないし(ゼロクリック検索),人間に優しくない Web ページを人間が直接閲覧することもないってことだよな,今回の記事で私がしたみたいに(笑)

私みたいにブログを文字通りの Web-log として運用している人は生成 AI が台頭しようと(便利に利用することはあっても)たいした影響は受けないだろうけど。

参考図書

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ハッキング思考 強者はいかにしてルールを歪めるのか、それを正すにはどうしたらいいのか
ブルース・シュナイアー (著), 高橋 聡 (翻訳)
日経BP 2023-10-12
単行本
4296001574 (ASIN), 9784296001576 (EAN), 4296001574 (ISBN)
評価     

「AI時代にルールを味方につけるには、「正しいハッキングの考え方」が必要だ」(帯の言葉より)

reviewed by Spiegel on 2023-10-13 (powered by PA-APIv5)


  1. 思うのだが,選挙ポスターやそれを貼り付ける看板なんて街の景観を壊すただのゴミだろう。選挙カーとか大昔の暴走族並に煩いだけだし。昭和時代じゃないんだから,こうなったら選挙ポスターとか選挙カーとか古臭すぎる習慣自体を廃止すべきでは(笑) まぁ廃止したからどうというわけでもないのだが。 ↩︎