Rust の文字列操作(1)

さて,所有権について何とな〜く分かったところで,目先を変えて文字・文字列・文字列操作について調べていこう。

Rust の「文字列」は Unicode/UTF-8 限定

文字列操作で何が面倒かって複数の文字セットと文字エンコーディングが混在している点である。 そこで今どきのプログラミング言語は「文字列」としての操作対象を Unicode/UTF-8 に限定していることが多い。 Rust もそうした言語のひとつである。

こんにちは,世界!

まずは,以下のコードを書いてみる。

fn main() {
    println!("こんにちは,世界!");
}

ここで "こんにちは,世界!" はリテラル文字列で,実行すると

$ cargo run
こんにちは,世界!

と表示される。 println! マクロ引数のリテラル文字列も出力される文字列も UTF-8 エンコーディングである。

ここでリテラル文字列の "こんにちは,世界!" を強引に Shift-JIS に書き換えて実行するとどうなるか。

$ pushd src/
$ cp main.rs main.rs.utf8.txt
$ gonkf conv -s utf8 -d sjis main.rs.utf8.txt > main.rs
$ popd
$ cargo run
error: couldn't read src/main.rs: stream did not contain valid UTF-8

というわけでコンパイルに失敗しました(笑)

Rust における文字と文字列

Rust では Unicode/UTF-8 文字および文字列を扱うために以下の3つの型が存在する。

型名 内部表現 内容
char u32 文字(Unicode 符号点)
String Vec<u8> 可変長文字列(UTF-8)
str [u8] 文字列への参照(UTF-8)

char および str は組み込み型, String は標準ライブラリで定義される型である。

str 型は文字列に対するスライスで,それ自体は所有権を持たず(値を持たないため)範囲指定付きビューとして機能する。 通常は &str と参照の形で使う。

Stringstr の関係はこんな感じ。

fn main() {
    let s: String = "Hello World".to_string();
    let hw: &str = s.as_str();
    let w: &str = &s[6..11];
    println!("{}", s); //Output: Hello World
    println!("{}", hw); //Output: Hello World
    println!("{}", w); //Output: World
}

図にするとこんな感じだろうか。

"Hello World" などのリテラル文字列は型としては &'static str と表現できる。 ちなみに 'static はライフタイム注釈の特殊な表現で,生存期間がプログラム全域に及ぶという恐ろしいものである(笑)

リテラル文字列の後ろの to_string() メソッドは文字列のコピーを返す。 リテラル文字列そのものがセットされているわけではない。

文字列から文字を抽出する

Rust の文字列の中身は UTF-8 バイト列なので,文字列から文字(厳密には Unicode 符号点1)を抽出するのは単純ではない。 そもそも

fn main() {
    let s = "日本語";
    println!("{}", s[0]); //Error: the type `str` cannot be indexed by `{integer}`
}

とかやってもコンパイル・エラーになるだけである。

文字列から文字を抽出するには,例えばこんな感じに書ける。

fn main() {
    let s1 = "日本語";
    println!("{:?}", s1.chars().nth(0)); //Output: Some('日')
    let s2 = s1.to_string();
    println!("{:?}", s2.chars().nth(1)); //Output: Some('本')
}

まず chars() メソッドで文字列を文字単位のイテレータ Chars に変換し,更に nth() メソッドで任意の位置の文字を抽出している。 nth() メソッドは Option 型の値を返すので本来は何らかのエラー・ハンドリングが必要だが,今回は横着している2。 ゴメンペコン。

あるいはもっと簡単に collect() メソッドを使って Chars から配列 Vec<char> に変換して

fn main() {
    let nihongo = "日本語";
    let chs = nihongo.chars().collect::<Vec<char>>();
    println!("{}", chs[0]); //Output: 日
}

てな感じにも記述できる。

「文字」列から「文字列」を生成する

1文字ではなく,先頭の2文字を抽出して文字列を生成してみる。 まずは素朴にこんな感じだろうか。

fn main() {
    let nihongo = "日本語";
    let mut nippon = String::new();
    for (i, c) in nihongo.chars().enumerate() {
        nippon.push(c);
        if i > 0 {
            break;
        }
    }
    println!("{}", nippon); //Output: 日本
}

うーん,微妙。 たとえば take() メソッドを使えば先頭から指定した数だけ要素を有効にできる。

fn main() {
    let nihongo = "日本語";
    let mut nippon = String::new();
    for c in nihongo.chars().take(2) {
        nippon.push(c);
    }
    println!("{}", nippon); //Output: 日本
}

いや,そもそも for 文で回すってのがダサいというか… ふむむー,そっか。 fold() メソッドを使えばいいのか。

fn main() {
    let nihongo = "日本語";
    let nippon = nihongo.chars().take(2).fold(String::new(), |mut s, c| {
        s.push(c);
        s
    });
    println!("{}", nippon); //Output: 日本
}

でも「先頭の2文字を抽出する」だけなのに,コードが大袈裟すぎないか? と思ってたら,ゴメン。 collect() メソッドを使えば一発で String に変換できたわ。

fn main() {
    let nihongo = "日本語";
    let nippon = nihongo.chars().take(2).collect::<String>();
    println!("{}", nippon); //Output: 日本
}

なんだ,簡単ぢゃん orz

ブックマーク

参考図書

photo
プログラミング言語Rust 公式ガイド
Steve Klabnik (著), Carol Nichols (著), 尾崎 亮太 (翻訳)
KADOKAWA 2019-06-28 (Release 2019-06-28)
単行本
4048930702 (ASIN), 9784048930703 (EAN), 4048930702 (ISBN)
評価     

公式ドキュメントの日本語版。索引がちゃんとしているので,紙の本を買っておいて手元に置いておくのが吉。

reviewed by Spiegel on 2020-02-24 (powered by PA-APIv5)

photo
プログラミングRust
Jim Blandy (著), Jason Orendorff (著), 中田 秀基 (翻訳)
オライリージャパン 2018-08-10
単行本(ソフトカバー)
4873118557 (ASIN), 9784873118550 (EAN), 4873118557 (ISBN)
評価     

Eブック版あり。公式ドキュメントよりも系統的に書かれているので痒いところに手が届く感じ。ただし量が多いので,一度斜め読みしたらあとは傍らに置いて必要に応じてつまみ食いしていくのがいいだろう。

reviewed by Spiegel on 2020-03-08 (powered by PA-APIv5)


  1. Unicode ではひとつの符号点がひとつの文字を表すとは限らない点に注意。これに関して以前に「Go 言語と Unicode 正規化」という記事を書いたので参考にどうぞ。 ↩︎

  2. エラー・ハンドリングについては「エラー・ハンドリングのキホン」を参考にどうぞ。 ↩︎