二次的著作物と CC Licenses
今回は「二次的著作物」について。
「二次的著作物」とは
著作権法第2条では「二次的著作物」は以下のように定義されている。
「創作」的であることが重要で,「既存の著作物の修正増減に創作性が認められるが、原著作物の表現形式の本質的な特徴が失われるに至っていない場合1」に二次的著作物と見なされる。 たとえばフォーマット変換や機械翻訳(点字などへの置き換え)などは「逐語的コピー」と呼ばれ複製と見なされる2。
具体的には
- 翻訳
- 編曲
- 変形(美術、写真、建築物、地図・図形の著作物で用いられることが多い)
- 脚色
- 映画化
- 翻案(上述した以外の全て。コミカライズやノベライズ,文章の要約,あるいはプログラムのバージョンアップや他言語への移植なども含まれる)
といった感じに分類されるが,一絡げに「翻案」または「改変」と表記されることが多い。 CC Licenses では二次的著作物に相当するものを「翻案物(Adapted Material)3」としている。
著作(権)者は自身の著作物に対して
の2つの権利を持っている。 ポイントは二次的著作物の原著作者(元の著作物の著作者)も二次的著作物に対して一連の著作財産権を持っていることである。
つまり,ユーザが二次的著作物を利用したいと考えるなら,二次的著作物の著作(権)者と原著作(権)者の双方から許可を得る必要がある。
CC Licenses による改変の許諾
CC Licenses では「改変禁止 」条件がなければ「翻案物を作成、複製および共有すること」を許諾する。 また翻案物を受け取ったユーザは原著作者の許諾を(提示されている CC Licenses の条件に従って)自動的に得る4。
つまり,原マテリアルとその翻案物の双方が CC Licenses で許諾されているなら,双方のライセンス条件に従って翻案物も利用することができる。
なお CC Licenses では「表示 」条件が必須になっているため,翻案物およびその複製や翻案物に対しても原著作者のクレジット表示が必要になる5。
Copyleft のすすめ
二次的著作物については原著作物の許諾条件と二次的著作物の許諾条件の両方に従う必要がある。 原著作物が CC Licenses で許諾されている場合でも,その翻案物が CC Licenses で許諾されていない場合は利用条件が著しく制限される場合がある(まぁ原著作物から派生させる手もあるのだが)。 また原著作物とその翻案物の双方が CC Licenses で許諾されているとしても両者の条件が異なれば,やはりそれも制限になってしまう。
もし翻案物も含めてマテリアルを広く共有したいと望むのであれば「継承 」条件を付加することをお勧めする。 「継承 」条件が付加されている場合は,翻案物に対しても同等のライセンス6 を付加することが求められる。
このようなライセンスの仕組みは Copyleft と呼ばれている。 Copyleft の起源は GNU GPL(General Public License) であるが, CC Licenses においても「継承 」条件よって Copyleft もしくはそれに近いライセンスを構成できる7。
CC Licenses で「継承 」条件が付くのは以下の2つである。
表示-継承 | コモンズ証(日本語) 法的条項(日本語) メタデータ |
|
---|---|---|
表示-非営利-継承 | コモンズ証(日本語) 法的条項(日本語) メタデータ |
Copyleft はプログラミングの世界でも「ウイルス的」と揶揄されることもあるが,共有を維持するには必要な仕掛けだと思う。 CC Licenses の使われ方を見ても,2015年時点では「表示-継承」条件が37%で最も多い。 この機会に検討してみてはいかがだろうか。
なお CC Licenses は「公正な利用(fair use)」や「著作権の制限」として利用が認められていることに対しては効力が及ばないため, CC Licenses の条件に関わらず利用可能である。
パロディについて
海外では,パロディ・風刺について「公正な利用(fair use)」としてある程度認められている国もあるが,日本ではパロディに関する規定そのものがない。 そのため現状では「引用」か「翻案」かで線引されることになる8。
商業作品の場合は(防衛のために)あらかじめオリジナル作品の著作(権)者から許可を得ていることもあるようだが,そうでない場合は特に悪質なものでない限り「黙認」されているのが現状のようだ。 しかし,いったん訴訟になった場合,パロディが「引用」として認められるのはかなり難しいと思われる。
二次創作のみを許可したい
CC Licenses では,どの条件の組み合わせでもマテリアルの複製や配布を(条件に従う限りは)制限しない。 これは CC Licenses を適用したマテリアルやその翻案物がインターネット上に置かれることを前提にしたものだからである9。 しかしインターネットに乗らないマテリアル(紙の書籍, CD や DVD/BD でパッケージされた楽曲や映像など)は旧来の流通経路でコントロールする必要があるため CC Licenses とは馴染まない側面があるのも確かだ。
「複製・配布は許可できないが二次創作は許可したい」という需要に対応するため,かつて Creative Commons では翻案のみを許可する「サンプリング・ライセンス(sampling license)」の作成が試みられた。 ただ,この試みはうまくいかなかったようで,現在サンプリング・ライセンスは retire している。
少なくとも Creative Commons では翻案のみを許可するライセンス・ツールは存在しない。 このような要件がある場合は独自にライセンスを構築するしかない。
同人マーク・ライセンス
「二次創作のみを許可したい」という要件に対して,日本での試みとして「同人マーク・ライセンス」がある。 これは日本の「同人市場」という特殊商慣行に特化したライセンスで,原著作物の複製・配布を禁止する代わりに,二次的著作物の作成とその複製・配布を許可している。 ただしいくつか条件があって
とあるとおり,媒体は「二次創作同人誌」に限られ,配布経路も「同人誌即売会」に限られる。 たとえば,同人誌即売会に出品しない(本来的な意味での)二次創作同人誌は原著作物に「同人マーク・ライセンス」があろうと(著作(権)者から別途許諾がない限り) NG である。
最近(2013年)になって「同人マーク・ライセンス」が提唱された背景には「環太平洋パートナーシップ(Trans-Pacific Partnership; TPP)協定」の知財分野における「著作権の非親告罪化」が挙げられる。 もし「著作権の非親告罪化」が日本で成立すれば同人市場は壊滅状態になると予想されている10。 いわばこれは作家たちによる自己防衛的ライセンスであると言える。
同人市場に限らず日本では事後承諾的に著作物を利用する慣習があり(たとえばパロディや勝手翻訳など),こういったものも軒並み「著作権の非親告罪化」に引っかかることになるだろう。 しかもこれに(同じく TPP で決まった)「法定賠償制度」も加われば巨額の賠償金を払わされる可能性がある。 これにより日本においても「著作権トロル」が台頭することになる。 むしろこちらの方が深刻である。 これについて文化庁は
などとしているが,翻案は「二次創作文化」だけではなく日常生活の広い範囲に関わる「活動」である。 「著作権と著作権法」でも書いたが,ユーザを無視した知財政策を続けていると本当に「ガラパゴス」になっちゃうよ。
「改変禁止」が意図するもの
Creative Commons は名前の通り「創造性の共有地11」を創り広げることを目的(のひとつ)としている。 ならば CC Licenses に「改変禁止 」条件を加えることは Creative Commons の目的に反するのではないだろうか。
これに関しては以下の記事が参考になる。
この記事によると CC Licenses の機能は以下のふたつに分類できる。
- making derives (creation:創造)
- dissemination (access:アクセス)
この分類で考えるなら「改変禁止 」条件は主に dissemination (access) にフォーカスしたものであると解釈することができる。
確かに「改変禁止 」条件を加えると Creative Commons が本来欲しい making derives (creation) としての機能は弱くなる。 しかし「改変禁止 」条件を加えることによって,少なくとも(“all rights reserved” な状態と比較すれば) dissemination (access) は担保できる。
これも大事な「共有」の形である。 逃す手はないだろう。
参考になる(かもしれない) Web ページ
- キャラクターの著作権法上の取扱いについて | 大島・西村・宮永商標特許事務所
- スクウェア・エニックスの著作権侵害の可能性はグレー!? 『ハイスコアガール』問題について福井健策弁護士に話をうかがってみた|おたぽる
- 米国著作権法におけるパロディとフェア・ユース/差止め請求 −パロディに関する裁判例と,小説の続編出版が問題とされた最近の事例から−
- 二次創作における「意思表示システム」の提唱
- クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのブログ翻訳のススメ
- CC BY-SA 4.0 now one-way compatible with GPLv3 - Creative Commons Blog - Creative Commons (日本語訳)
- Creative Commons — State of the Commons 2015 — It’s been a remarkable year, most notably for the more than 1.1 billion works under one of the CC licenses, CC0, or the public domain mark.
- TPPで“違法ダウンロード”適用拡大も、文化庁の審議会で再び検討か -INTERNET Watch
- Trans-Pacific Partnership Would Harm User Rights and the Commons - Creative Commons - Creative Commons
- 年末年始に施行される改正著作権法に関する覚え書き : 2018年末施行の改正著作権法から特定の条件下で非親告罪が適用されることとなった
- 知財高裁でBL同人作品の無断コピーは著作権侵害という当たり前の判決(栗原潔) - 個人 - Yahoo!ニュース : 後半の「キャラクタの二次的著作物」の権利関係は参考になる
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「アンコウ行灯事件」判決文 より。 ↩︎
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他にも漫画のキャラクタなどを似せて描いた場合も,翻案ではなく,複製と見なされる場合がある。文脈とか,どの程度似てるかとかにもよるだろうけど。 ↩︎
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CC Licenses は著作隣接権で保護されるものも含む形で許諾しているためこのような表現になる。詳しくは「CCライセンス・バージョン4.0 日本語版の公開 | クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」を参照のこと。 ↩︎
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CC Licenses ではサブライセンスを禁止しているため,翻案物に対する許諾の一方を直に原著作者から得る,という形になっている。 ↩︎
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「同等のライセンス」として同じ条件の CC Licenses (他バージョンを含む)が挙げられる。また「表示-継承」については Free Art License 1.3 や GNU GPLv3 も互換性のあるライセンスとして認められている。 ↩︎
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パロディはいわゆる「パクり」(一般的には「剽窃」)とは異なる。「替え歌」や短歌の「本歌取り」もパロディの一種と考えられる。米国における parody と fair use の関係については「米国著作権法におけるパロディとフェア・ユース/差止め請求 −パロディに関する裁判例と,小説の続編出版が問題とされた最近の事例から− 」が参考になる。 ↩︎
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そもそもインターネットはコピーの連鎖で成り立っているものだし,無理に制限しようとすればユーザ側の「使用」や「公正な利用」まで侵害しかねない。 ↩︎
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さる調査によると2015年の同人誌市場は757億円規模だそうだ。そりゃあ狙われるよねぇ(笑) まぁ同人市場は同人誌だけじゃないし同人誌と言ってもいろいろあるので,二次創作が実際にどの程度かは分からないけど数十億から数百億の規模でもおかしくないだろう。 ↩︎
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翻訳は「XML的思索:創造性の共有 機械可読ライセンスによるクリエイティブな作品の育成と流通」のタイトルから拝借した。リンク切れててゴメン(Internet Archive)。 ↩︎