CC Licenses における『技術的保護手段』の扱い

no extension
  1. 著作権法における「技術的保護手段」および「技術的利用制限手段」
  2. 『技術的保護手段』の回避
  3. CC Licenses による技術的保護手段回避の許諾
  4. その他,雑多なこと
    1. 「技術的保護手段回避の許諾」に至る経緯
    2. DRM の変遷
    3. 日本の不正競争防止法における「技術的制限手段」

著作権法における「技術的保護手段」および「技術的利用制限手段」

著作権法第2条では「技術的保護手段」は以下のように定義されている。 (あまりに長ったらしい文なので一部端折っている)

電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法 [...] により、第十七条第一項に規定する著作者人格権若しくは著作権、出版権又は第八十九条第一項に規定する実演家人格権若しくは同条第六項に規定する著作隣接権(以下 [...] 「著作権等」という。)を侵害する行為の防止又は抑止 [...] をする手段(著作権等を有する者の意思に基づくことなく用いられているものを除く。)であつて、著作物、実演、レコード、放送又は有線放送 [...] の利用(著作者又は実演家の同意を得ないで行つたとしたならば著作者人格権又は実演家人格権の侵害となるべき行為を含む。)に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
via 著作権法

なげーよ(笑) 要するに「著作物等1」を何らかの形で変換し,特定の手段を用いなければ復元できないような方式を指す。

著作権法では「私的使用のための複製(第30条)」を「著作権の制限」として認めているが

技術的保護手段の回避 [...] により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合
via 著作権法

を「私的使用のための複製」から除外した。

更に2018年の著作権法改正では新たに「技術的利用制限手段」の定義が追加された。

電磁的方法により、著作物等の視聴(プログラムの著作物にあつては、当該著作物を電子計算機において実行する行為を含む。[...])を制限する手段 [...] であつて、著作物等の視聴に際し、これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像とともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は当該機器が特定の変換を必要とするよう著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像を変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
via 著作権法

「技術的保護手段」と「技術的利用制限手段」はよく似ているが「技術的保護手段」がコピー・コントロール寄りであるのに対し「技術的利用制限手段」は明確にアクセス・コントロールである(複製を要件としない)点が異なる。 なおこの記事では,著作権法の「技術的保護手段」と「技術的利用制限手段」を一絡げに『技術的保護手段』と呼ぶことにする。

著作権法では『技術的保護手段』の回避,あるいは回避を行う装置やプログラムの公開等を禁止している(第120条)。 次節で『技術的保護手段』の回避についてもう少し詳しく述べていこう。

『技術的保護手段』の回避

『技術的保護手段』における「変換」や「復元」には,通常は暗号技術が用いられる。 ぶっちゃけて言うなら『技術的保護手段』とは「著作物等を暗号化する手段」と思っていただいて構わない。

具体的には,「著作物等」を変換(暗号化)するのは著作(権)者またはコンテンツ・ホルダ(contents holder)で,彼等が許可した(つまり正規ルートでコンテンツを購入した)ユーザのみが専用の再生装置またはプログラムを使って著作物等を復元(復号)し使用できる,という仕組みだ。

この仕組みの問題のひとつはユーザは「著作物等」の「利用」のみならず「公正な利用(fair use)」や「著作権の制限」更には(著作権の範囲外である)「使用」まで制限してしまうことである。

たとえば DVD や BD は対応する再生装置でなければ再生(つまり復元して使用)することができないが,市場から再生装置が無くなれば DVD や BD などベランダに吊るしてカラス除けにするくらいにしか役に立たない(実際そうやって消えていく機器は山ほどある)。

もっと深刻な問題がある。 いささか逆説的かもしれないが。

先ほど述べたように『技術的保護手段』には暗号技術が用いられる。 ユーザが「著作物等」を復元(復号)するためには復号鍵が必要だが,実際には鍵の生成方法が杜撰だったり(特にスタンドアロンの再生装置では)鍵の配送手段が貧弱または存在しないことが多い。 したがって再生装置にある復号鍵を全て解読すればその鍵情報を使って再生装置なしでも「著作物等」を復元できることになる(実際にはこんなに簡単ではないが)。 こういった行為を『技術的保護手段』の「回避」と呼ぶ。

『技術的保護手段』の回避は(仕様や実装によるが)技術的にものすごく難しいというわけではない。 しかも『技術的保護手段』の回避は非常にカジュアルな動機で行われる。 何故なら,上述したように『技術的保護手段』は「「公正な利用」や「著作権の制限」更には「使用」まで制限してしまう」からだ。

たしかに多くのユーザはこれを律儀に守って無理に『技術的保護手段』の回避を行うことはないだろうが,一部の悪質なユーザには(罰則を強めにしたところで)抑止効果はない。 一方で『技術的保護手段』の仕様や実装に欠陥があったとしても,これを報告する動機は抑止される。 結局「正直者が馬鹿を見る」ことになるのだ。

CC Licenses による技術的保護手段回避の許諾

CC Licenses では技術的保護手段を以下のように定義している。

「効果的な技術的保護手段」とは、1996年12月20日に採択されたWIPO著作権条約第11条、および/または類似の国際協定の義務を満たす諸法規の下で、正当な権限なしに回避されてはならないものとされる諸手段をいいます。
via クリエイティブ・コモンズ (Creative Commons) — 表示-継承 4.0 国際

簡単に書かれてるが,これは著作権法の『技術的保護手段』と概ね同じと思ってよい。 その上で,利用条件に従う限り,技術的保護手段の回避を許諾している。

許諾者は、あなたに対し、あらゆる媒体や形式(現在知られているか、または今後作られるか否かを問いません)において、ライセンスされた権利を行使する権限、およびその行使に必要とされる技術的な改変を行う権限を付与します。許諾者は、あなたが、ライセンスされた権利を行使するために必要とされる技術的な改変(効果的な技術的保護手段を回避するために必要とされる技術的な改変を含みます)を禁止するいかなる権利または権限を放棄し、および/またはこれらの権利または権限を行使しないことに同意します。
via クリエイティブ・コモンズ (Creative Commons) — 表示-継承 4.0 国際

さらに CC Licenses では技術的保護手段の回避を翻案と見なさないことで「改変禁止 」条件でも技術的保護手段の回避を許諾している。

またこれとは別に,下流側(downstream)へ再配布を行う場合は技術的保護手段を適用してはならないともある。

あなたは、ライセンス対象物の受領者がライセンスされた権利を行使するのを制限されることになる場合には、ライセンス対象物に対して、いかなる追加条項または異なる条項も提案または課してはならず、あるいは、いかなる効果的な技術的保護手段も適用してはなりません。
via クリエイティブ・コモンズ (Creative Commons) — 表示-継承 4.0 国際

CC Licenses 下のマテリアルを再配布する場合には注意が必要である2

その他,雑多なこと

「技術的保護手段回避の許諾」に至る経緯

何度も言うように技術的保護手段には「「公正な利用」や「著作権の制限」更には「使用」まで制限してしまう」問題があり,さらに言えば CC Licenses で許諾している利用も阻まれてしまうため Creative Commons としてはこれを看過するわけにはいかなかった。 しかし CC Licenses v2.x までは技術的保護手段について消極的な文言しかなかった。

あなたは、この利用許諾条項と矛盾する方法で本著作物へのアクセス又は使用をコントロールするような技術的保護手段を用いて、本作品又はその二次的著作物を利用してはならない。
via クリエイティブ・コモンズ リーガル・コード — 表示-継承 2.1 日本版

CC Licenses v3 作成時には「もっと強い文言にすべきではないか」という意見もあったが,結局は

When You Distribute or Publicly Perform the Work, You may not impose any effective technological measures on the Work that restrict the ability of a recipient of the Work from You to exercise the rights granted to that recipient under the terms of the License.
via Creative Commons Legal Code — Attribution-ShareAlike 3.0 Unported
あなたがこの作品を頒布、譲渡、公衆送信その他の方法で公衆に提供するにあたっては、本作品の受領者がこのライセンスの中で与えられている権利の行使を制限されるような技術的手段を本作品に適用してはならない。
via 【CCPLv3.0】DRM条項の改正に関する議論 | クリエイティブ・コモンズ・ジャパン

というレベルにとどまったようである(v4 の「ダウンストリーム(下流側)の受領者」の文言とほぼ同じ)。

これが v4 では利用者側の技術的保護手段回避を許諾するという形で更に踏み込んでいる3。 「技術的保護手段の回避」は著作(権)者によって許諾できる,というのがポイントだろう。 「技術的保護手段の回避」は複製権(著作権法 第21条)の侵害と見なしうるので,「技術的保護手段の回避」を含めて複製を( CC Licenses が要求する条件下で)認めてしまえばいいのである。

DRM の変遷

これまで述べてきたように,いわゆる技術的保護手段が技術的に不十分でユーザの使用を不当に制限するものであることは明らかである。 これはコンテンツ・ホルダの側も認識しているようで, DRM (Digital Rights Management) の形も変わってきた。

ひとつは定額制のストリーミング・サービスの台頭である。 ストリーミング・サービスの利点は,コンテンツ・ホルダもユーザも「違法コピー」を考えなくていいことである。 ユーザはその場でコンテンツを「消費」するだけ。 定額制で何時でも何度でも見れるなら「コピっておく」必要がない。

欠点はコンテンツ・ホルダやサービス・プロバイダの力が大きくなりすぎることで,両者が癒着するとかなり酷いことになる。 実際,ストリーミング・サービスでの売り上げがクリエイターやアーティストに公平に分配されないなどの話もチラホラある。

もうひとつは DRM が「監視型」に移行したことである。 「電子透かし」や「電子指紋」を使ってネット上に流通するコンテンツを比較的容易に監視できるようになった。 これがうまく機能すれば一般ユーザのネット上での活動を妨げることなく悪質なものだけを排除することができる。

しかし,一方でこれもコンテンツ・ホルダやサービス・プロバイダの力が大きくなりすぎる傾向がある。 コンテンツ・ホルダやサービス・プロバイダはボットなどを使って機械的に監視と排除を行うが,判断を間違えたり「公正な利用」まで排除される例があるようだ。

このような感じで技術的保護手段が時代遅れになる一方で新しい形の DRM に対する問題も出てきている。 DRM についてはこれからも注視していく必要がある。

不正競争防止法における「技術的制限手段」

日本では著作権法のみならず不正競争防止法でも「技術的制限手段」を定義してアクセス・コントロールを規制している。

この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録のために用いられる機器をいう。以下同じ。)が特定の反応をする信号を影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。
via 不正競争防止法

もともと,不正競争防止法の「技術的制限手段」は DVD の CSS (Content Scramble System) や BD の AACS (Advanced Access Content System) 等を指したもので,著作権法と同じく WCT4 を受けて盛り込まれたものである。 更に近年では地上波デジタル放送の B-CAS 迂回やマジコン騒動などを受けて規制が強化された経緯がある5

つまり日本ではマテリアルへのアクセスは著作権法不正競争防止法により二重に規制されている。 たとえば,マテリアルの著作(権)者が CC Licenses によって技術的保護手段回避を許諾しているとしても不正競争防止法のほうで回避を禁止されるかも知れないわけだ。

こうしたリスクを避けるためにも CC Licenses 下にあるマテリアルを『技術的保護手段』で縛ることのないよう許諾者側が留意する必要があるだろう。

参考になる(かもしれない) Web ページ


  1. 著作権法第2条でいう「著作物、実演、レコード、放送又は有線放送」を指す。ちなみに CC Licenses では同様のものを「マテリアル(material)」と定義している。これについては「Creative Commons Licenses」を参照のこと。 ↩︎

  2. CC Licenses ではライセンスの再許諾(sublicense)を許可していない。詳しくは「Creative Commons Licenses」を参照のこと。 ↩︎

  3. この辺の経緯について書かれているまとまった文書が見つからないのだが,おそらく他の「自由なライセンス」との互換性を考えた結果ではないかと推測する。 ↩︎

  4. WIPO 著作権条約(WIPO Copyright Treaty)のこと。 ↩︎

  5. 2018年も「技術的制限手段」に関して不正競争防止法の改正が行われている。 ↩︎