エラー・ハンドリングについて(追記あり)

C++ や Java のような言語圏から来た(私のような)人間にとって Go 言語の「オブジェクト指向」はかなり異質なのだが,慣れてみると逆にとても合理的に見えてくる。 なんで C++ や Java はこのようなアプローチをとらなかったのか不思議なほどである。

この最たるものがエラー・ハンドリングだ。

Go 言語には「例外」がない

「例外(exception)」は本来の処理の流れをぶった切って「大域脱出」するための仕組みである。 でも考えてみれば例外というのはかなり微妙な言語仕様だ。

例外が抱える問題というのは本質的に goto 文の問題と同じ1。 オブジェクトの状態ごと脱出するため,(脱出前ではなく)脱出後にオブジェクトの後始末を記述せざるを得ないし,記述するためには脱出前の状態(の可能性)を「知識」として知っていなければならない2。 もし後始末をきちんとしないと,それがバグやリークやその他の脆弱性のもとになる。

Go 言語はそんな面倒くさいことは考えない。 どうするかというと,普通に返り値に error を返す。

file, err := os.Open(filename)

error は無視することもできる3

file, _ := os.Open(filename)

検出した error はその場で処理して抜けてしまえばよい。

file, err := os.Open(filename)
if err != nil {
    fmt.Fprintln(os.Stderr, err)
    return false
}

開始処理と終了(後始末)処理が対になっている場合(Open/Close とは限らない)は Defer 構文で終了処理を保証する4

file, err := os.Open(filename)
if err != nil {
    fmt.Fprintln(os.Stderr, err)
    return false
}
defer file.Close()

これが Go 言語の基本的な書き方。 特徴的なのは,ある処理に纏わる処理をセットで記述できる点である。 trycatchfinally の間で目線を行ったり来たりさせなくても,「そこ」だけを見れば把握できる。 ある意味でとても文芸的なコード5 であると言える6

error

ここで error について改めて説明しておく。 error は以下の形式で表現できる interface 型のひとつである7

// The error built-in interface type is the conventional interface for
// representing an error condition, with the nil value representing no error.
type error interface {
    Error() string
}

つまり Error() 関数を持つオブジェクトなら error として使える。 これのいちばん簡単な実装が errors パッケージである。 errors パッケージの中身は以下のようになっている。

package errors

// New returns an error that formats as the given text.
func New(text string) error {
    return &errorString{text}
}

// errorString is a trivial implementation of error.
type errorString struct {
    s string
}

func (e *errorString) Error() string {
    return e.s
}

これは実体として string 型の property がひとつだけあって Error() 関数で property をそのまま返すというものだ。 Go 言語の標準パッケージの多くはこの errors パッケージを使って error を定義している。 たとえば os パッケージの最下位の error は以下のように定義されている。

package os

import (
    "errors"
)

// Portable analogs of some common system call errors.
var (
    ErrInvalid    = errors.New("invalid argument")
    ErrPermission = errors.New("permission denied")
    ErrExist      = errors.New("file already exists")
    ErrNotExist   = errors.New("file does not exist")
)

もう少し複雑な error では,以下のように詳細情報を持つものもある。

// PathError records an error and the operation and file path that caused it.
type PathError struct {
    Op   string
    Path string
    Err  error
}

func (e *PathError) Error() string { return e.Op + " " + e.Path + ": " + e.Err.Error() }

3つのエラー・ハンドリング

error を判別する方法としては以下の3つがある。

  1. error インスタンスを比較する
  2. error の型を判別する
  3. Error() 関数で出力される文字列を解釈する

インスタンスを比較する

あらかじめ定義済みの error インスタンスがあれば,インスタンスの比較で判別できる。

if err != nil {
    switch err {
    case os.ErrInvalid:
        fmt.Fprintln(os.Stderr, "引数が不正")
    case os.ErrPermission:
        fmt.Fprintln(os.Stderr, "アクセスは許可できない")
    case os.ErrExist:
        fmt.Fprintln(os.Stderr, "そのファイルは既にある")
    case os.ErrNotExist:
        fmt.Fprintln(os.Stderr, "ファイルが存在しない")
    default:
        fmt.Fprintln(os.Stderr, err)
    }
    return
}

単純にエラーの種類が分かればいいのであれば,この方法が最もシンプル。

型を判別する

errorinterface 型なので Conversion 構文で判別できる。

if err != nil {
    switch e := err.(type) {
    case *os.PathError:
        if errno, ok := e.Err.(syscall.Errno); ok {
            switch errno {
            case syscall.ENOENT:
                fmt.Fprintln(os.Stderr, "ファイルが存在しない")
            case syscall.ENOTDIR:
                fmt.Fprintln(os.Stderr, "ディレクトリが存在しない")
            default:
                fmt.Fprintln(os.Stderr, "Errno =", errno)
            }
        } else {
            fmt.Fprintln(os.Stderr, "その他の PathError")
        }
    default:
        fmt.Fprintln(os.Stderr, "その他のエラー")
    }
    return
}

error に状態(status)を持たせる必要がある場合は,この方法を使うべき。

文字列を比較する

上述の方法で判別できない場合は Error() 関数で出力される文字列を解釈して処理するしかない。 バッドノウハウ

エラー・ハンドリングの設計

エラー・ハンドリングの方針としては,以下の2つのうちのどちらかだろう。

  1. error を下位ロジックから上位ロジックまで持ち回し,最上位ロジックで最終的な判定と処理を行う
  2. 下位ロジックの error をカプセル化した新たなインスタンスを生成し上位ロジックに渡す。上位ロジックは直近のロジックの error のみが見える

最初のやり方は一見よさげだが,この方針では上位ロジックが下位ロジックの全ての error を把握している必要があり現実的でない。 またオブジェクト指向設計では “Don’t talk to strangers” の原則があり,いわゆる「友達の友達」のことは知らないふりをするのがよい設計と言われている。

こう考えると文字列での比較は最も下策であると言える。 また,型を判別する場合でも,下位レイヤの状態を生のまま見せるのではなく,必要な情報のみを返す関数を実装するほうが上策と言えるだろう。

もうひとつ考慮すべき点としてエラー・メッセージの設計が挙げられるだろう。 error に対するメッセージをどのように設計するかは(大規模アプリケーションでは特に)重要である。

(「Error の構造化」および「エラー・ハンドリング再考」へ続く)

【追記】 Panic と Recover

たとえばゼロ除算を行った場合や配列などで領域外を参照・設定しようとした場合,あるいは allocation に失敗した場合など,致命的なエラーが発生する場合がある。

package main

import "fmt"

func main() {
    f()
}

func f() {
    numbers := []int{0, 1, 2}

    fmt.Println(numbers[3])
}

これを実行すると

C:\workspace\go-practice\src\panic01>go run panic01.go
panic: runtime error: index out of range

goroutine 1 [running]:
main.f()
        C:/workspace/go-practice/src/panic01/panic01.go:12 +0x14a
main.main()
        C:/workspace/go-practice/src/panic01/panic01.go:6 +0x1b
exit status 2

となり,大域脱出させてアプリケーションを強制終了させているのが分かる。 この仕組みを Panic と呼ぶ。

Panic は意図的に発生させることもできる。

package main

func main() {
    f()
}

func f() {
    panic("Panic!")
}

これを実行すると

C:\workspace\go-practice\src\panic02>go run panic02.go
panic: Panic!

goroutine 1 [running]:
main.f()
        C:/workspace/go-practice/src/panic02/panic02.go:8 +0x6c
main.main()
        C:/workspace/go-practice/src/panic02/panic02.go:4 +0x1b
exit status 2

となる。

一方で, PanicRecover することもできる8

package main

import "fmt"

func main() {
    err := r()
    if err != nil {
        fmt.Println(err)
    } else {
        fmt.Println("Normal End.")
    }
}

func r() (err error) {
    defer func() {
        if rec := recover(); rec != nil {
            err = fmt.Errorf("Recovered from: %v", rec)
        }
    }()

    f()
    err = nil
    return
}

func f() {
    panic("Panic!")
}

これを実行すると

C:\workspace\go-practice\src\panic03>go run panic03.go
Recovered from: Panic!

となる。 PanicRecover で捕まえて通常の error として返しているのがお分かりだろうか。

一般的に Panic はアプリケーション内で続行不可能な致命的エラーが発生した場合に投げられる。 例えばゼロ除算や領域外アクセスのようなエラーは Panic が発生する前に回避するコードにすべきだ。 Allocation エラーのような回避不能かつアプリケーション続行不可能なエラーの場合は Panic が投げられるのもやむを得ないが, Recover することにほとんど意味はない。

例外的な使い方として bytes.Buffer では,メモリ確保で panic が発生した際に Recover で捕まえ, error インスタンスを入れ替えて Panic を投げ直している。 このような用途で Recover を使うことはあり得る。

// makeSlice allocates a slice of size n. If the allocation fails, it panics
// with ErrTooLarge.
func makeSlice(n int) []byte {
    // If the make fails, give a known error.
    defer func() {
        if recover() != nil {
            panic(ErrTooLarge)
        }
    }()
    return make([]byte, n)
}

また再帰処理中に続行不能なエラーが発生した場合に Panic を投げてトップレベルの関数に一気に復帰するような使い方をすることもある。 この場合,トップレベルの関数は(続行不可能なら)改めて Panic を投げるか(処理続行できる根拠があるのなら)通常の error を返すことになる9

いずれにしろ,いわゆる「例外処理」的なハンドリングを Panic/Recover で行うべきではない。

【追記】 error の nil が nil にならない場合

このコードの実行結果は “Hello, Mr. Pike!” を出力する。 このコードのポイントは Generate() 関数が error ではなく *MagicError 型を返している点にある。

実は error を含む interface 型のインスタンスは値(への参照)と型情報をセットで保持っているため,上述のような形で nil を返しても受け取った側は「nil 状態を持つなにか」という評価になり,ただの <nil> にはならないのだ。

たとえば上のコードを以下のように書き換えると分かりやすいかもしれない。

package main

import "fmt"

type MagicError struct{}

func (m *MagicError) Error() string {
    return fmt.Sprintf("%#v", m)
}

func Generate() *MagicError {
    return nil
}

func Test() error {
    return Generate()
}

func main() {
    if err := Test(); err != nil {
        fmt.Println(err)
    }
}

このコードを実行すると “(*main.MagicError)(nil)” と出力する。 Generate() 関数が返す nil がどのように機能しているか分かると思う。 「Go 言語における「オブジェクト」」で解説するが, Go 言語の型(type)は C++ や Java で言うところの class のように機能するため,このような動きになると思われる10

エラーハンドリングを行う際は結構ここがハマりどころになる。 ご注意を。

ブックマーク

Go 言語に関するブックマーク集はこちら


  1. ちなみに Go 言語goto や ラベル付きの break, continue飛び先に制約があり,どこにでもジャンプできるわけではない。 ↩︎

  2. 例外を備える言語でこれを緩和する仕様はいくつかある。例えば Java は 1.7 から try-with-resources 構文を導入した。もちろんこの構文を有効にするためには対象となるオブジェクトがこの構文に対応した作りになっていなければならない。 ↩︎

  3. いや,ファイル・オープンのエラーを無視したらダメです(笑) ↩︎

  4. Defer 構文で指定された処理は return 時に起動することが保証される。したがって,エラー発生時にはその都度 return で抜けて問題ない。むしろ gotobreak で強制的に処理を抜けるよりは処理を分割して return で安全に処理を抜ける方法がないか検討すべきである。なお os.Exit() などで強制終了した場合は, Defer 構文で指定した処理は起動しないので注意。 ↩︎

  5. いわゆる「文芸的プログラミング」とは異なるけど。紛らわしくてゴメン。 ↩︎

  6. これからのコードは「文芸的」であることが必要条件だと思う。何故ならエンジニアにとって最も信頼できる「設計書」は(動いている)コードだからだ。コードをひとりで考えてひとりで書いてひとりで使ってひとりでメンテナンスするなら(本人さえ理解していれば)文芸的である必要はないかもしれない。が,実用的なコードでそんな状況はもはやありえない。コードにおいても暗黙知をできるだけ排除していくことが重要。 ↩︎

  7. error は組み込み型。組み込み型や組み込み関数(append() とか)は builtin パッケージに定義が記述されているが,実際にこのパッケージを import して使うわけではない。 ↩︎

  8. RecoverDefer 構文とともに使用する。つまり Panic 発生時でも Defer 構文で予約された処理は実行される。 ↩︎

  9. これ以外にサーバ用途などでプロセスを落とせない場合に Recover で回避することもあるが,既に続行不可能な状態で無理やりプロセスを続行するのが正しい動きなのかどうかは疑問が残る。 ↩︎

  10. それでもやっぱり nil は nil として扱ってほしいのだが。 ↩︎