Go 1.14 リリース候補版

no extension

Go 1.14 のリリース候補版が出た。 これに伴ってリリースノートのドラフト版も更新されたようだ。

更にブログでは以下の記事で 1.15 についても言及されている。

詳しくはそれぞれの記事を読んでもらうとして,この記事では個人的に気になった点をかいつまんで紹介する。

Try 終了のお知らせ

Go 1.13 と 1.14」で紹介した try() 組み込み関数の導入は見送られたらしい。

Our attempt seven months ago at providing a better error handling mechanism, the try proposal, met good support but also strong opposition and we decided to abandon it. In its aftermath there were many follow-up proposals, but none of them seemed convincing enough, clearly superior to the try proposal, or less likely to cause similar controversy.

というわけで,エラー・ハンドリング周りはこれ以上の仕様追加・変更は(1.x の間は)なさそうである。

埋め込み Interface の改善

Go 1.14 では埋め込み interface の仕様が一部変更になる。

Per the overlapping interfaces proposal, Go 1.14 now permits embedding of interfaces with overlapping method sets: methods from an embedded interface may have the same names and identical signatures as methods already present in the (embedding) interface. This solves problems that typically (but not exclusively) occur with diamond-shaped embedding graphs. Explicitly declared methods in an interface must remain unique, as before.

Go では interface は振る舞いのみを定義する型だが,入れ子にすることができる。 こんな感じ。

type Person interface {
	Name() string
	Age() int
}

type Employee interface {
	Person
	Level() int
    String() string
}

この例では Employee interface 型に Person interface 型が埋め込まれている。 つまり Employee 型では Name(), Age(), Level(), String() 各メソッドを要求しているわけだ。

ここで Person 型に String() メソッドを付けることを考える。

type Person interface {
	Name() string
	Age() int
    String() string
}

修正された Person 型を使って Employee 型を定義しようとしても duplicate method String とコンパイルエラーになる。 Interface 型の間で定義するメソッドを調整すればいいのだが,他パッケージの interface 型を埋め込む場合は,そのパッケージの仕様変更の影響をモロに受けることになる。

更に

のようなひし形構造になっている場合はより複雑になる。

Go 1.14 では(関数型の同一性も含めて)同じメソッドについては重複を許容する。 上述のコード例でもコンパイル・エラーにならないわけだ。

ただし

type E1 interface{ M(x int) bool }
type E2 interface{ M(x float32) bool }
type I interface {
	E1
	E2
}

では(メソッド M() の型が同一ではないので)相変わらずコンパイル・エラーになるようだ。

Preemptive なスケジューリング

これは Shimane.go の Slack で教えてもらったのだが, Go 1.14 では preemptive (非協調的) なスケジューリング実装になるようだ。

Goroutines are now asynchronously preemptible. As a result, loops without function calls no longer potentially deadlock the scheduler or significantly delay garbage collection.

もともと Go 言語には,ランタイムによって並列処理の実装詳細を隠蔽することにより,コード記述としての平行処理に注力できるというメリットがあるが preemptive なスケジューリングによって強化されることになる。

ただし全てのプラットフォームで有効になるのではなく

  • windows/arm
  • darwin/arm
  • js/wasm
  • plan9/*

は例外となるらしい。 WebAssembly や Plan 9 が non-preemptive になるのは分かるが, ARM アーキテクチャって実装が難しいのか?

モジュール対応モード

モジュール対応モード(module-aware mode)も色々と機能追加されるようだ。 特に vendor ディレクトリとの組み合わせは色々とできそうだ。

When the main module contains a top-level vendor directory and its go.mod file specifies go 1.14 or higher, the go command now defaults to -mod=vendor for operations that accept that flag. A new value for that flag, -mod=mod, causes the go command to instead load modules from the module cache (as when no vendor directory is present).

この辺は Go 1.14 正式版がリリースされてから試してみよう。

Launched pkg.go.dev

pkg.go.dev は従来の godoc.org から置き換えることができる。

Like godoc.org, pkg.go.dev serves Go documentation. However, it also understands modules and has information about past versions of a package!

実際に2020年後半には godoc.org へのリクエストを pkg.go.dev にリダイレクトする計画があるらしい。

To minimize confusion about which site to use, later this year we are planning to redirect traffic from godoc.org to the corresponding page on pkg.go.dev.

標準パッケージもサードパーティのパッケージも同等に扱えるので,今後は pkg.go.dev を参照するのがいいかもしれない。

参考図書

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プログラミング言語Go (ADDISON-WESLEY PROFESSIONAL COMPUTING SERIES)
Alan A.A. Donovan (著), Brian W. Kernighan (著), 柴田 芳樹 (翻訳)
丸善出版 2016-06-20
単行本(ソフトカバー)
4621300253 (ASIN), 9784621300251 (EAN), 4621300253 (ISBN), 9784621300251 (ISBN)
評価     

著者のひとりは(あの「バイブル」とも呼ばれる)通称 “K&R” の K のほうである。この本は Go 言語の教科書と言ってもいいだろう。

reviewed by Spiegel on 2016-07-13 (powered by PA-APIv5)

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Go言語による並行処理
Katherine Cox-Buday (著), 山口 能迪 (翻訳)
オライリージャパン 2018-10-26
単行本(ソフトカバー)
4873118468 (ASIN), 9784873118468 (EAN), 4873118468 (ISBN)
評価     

Eブック版もある。感想はこちら。 Go 言語で並行処理を書くならこの本は必読書になるだろう。

reviewed by Spiegel on 2020-01-13 (powered by PA-APIv5)

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Goならわかるシステムプログラミング
渋川 よしき (著), ごっちん (イラスト)
ラムダノート 2017-10-23
単行本(ソフトカバー)
4908686033 (ASIN), 9784908686030 (EAN), 4908686033 (ISBN)
評価     

PDF 版あり。ファイルやソケットなどに代表される順次アクセスの汎化である io.Reader / io.Writer およびその派生・特化クラス,またプロセスやスレッドに関する解説が秀逸だと思う。さらに Docker コアの libcontainer についても解説がある。

reviewed by Spiegel on 2018-10-19 (powered by PA-APIv5)