Wiki という時代の終焉
(この記事は Facebook の TL に書きなぐった内容を再構成してお送りしております)
実は私も割と最近まで「Wikipedia を Wiki と略すな」派だったのですよ。
若い人は知らないかも知れないけど, Wiki の語源は WikiWikiWeb から来ている。 この WikiWikiWeb ってのが当時は「とてもクールなサービス」と評価され,クローンがぼこぼこ登場した。 そんで WikiWikiWeb のコンセプトを持つ Web サービスを総称して Wiki と呼ぶようになった。
Wikipedia もそんな「クローン」のひとつであり,したがって「Wiki は Wikipedia の略称」なのではなく「Wikipedia は Wiki の一種」というのが厳密に正しいのだ。 「オブジェクト指向」的に言うと Wiki と Wikipedia は is-a 関係にある,とも言える。
つまり Wikipeadia を Wiki と呼ぶことはマクドナルドを(「マクド」でも「マ」でもなく)ハンバーガー屋と呼ぶことと等価なのである。
しかし考えてみて欲しい。 今現在 Wikipedia 以外に社会的に成功している Wiki サービスがあるだろうか(いやない1; 反語)。
実は,今やゲーム攻略サイトで Wiki 運営をしているところは殆どないらしい2。 名前に「◯◯攻略Wiki」と付いているところでさえも。 もはや Wiki という名称に意味なんてないのだ。 ならば「Wikipedia を Wiki と略す」ことに問題があるのか。
――
今や誰も口にしなくなったけど,昔は Wikinomics なる造語も存在していて,要するに Wiki ってのは単に機能やサービスを指す言葉ではなく「バザール型のコラボレーション」活動を指すものに昇華していったのだ。 それはインターネットやオープンソースとかいった「古き良き時代」を象徴するものでもあったりする3。
一方 Wiki が衰退し始めた中で台頭してきたのが Twitter である。
Twitter が登場したときのフィーバーぶりも大変なもので,これのクローンもぼこぼこと登場したことを覚えている人もいるだろう(そういう意味じゃ「マストどん」なんていまさら過ぎるよね)。
当然ながら Twitter は社会現象となり Twitternomics なる造語まで登場した。
今や Twitter が差別と排除を増幅する
今にして思えば Twitter は,スマートフォンの普及と併せて,「ネットのテレビ化」の急先鋒だったわけだ。
ネット上の Wiki システムが絶滅危惧種化していき,その隙間を埋めるように Twitter をはじめとする「テレビ」が侵食していくさまは,ひとつの時代の終わりを示すものである。 かつて Hacker なる言葉が時代とともに意味を消失していったように, Wiki も消失し空っぽの名前だけが遺跡のように残るのだろう。
なんてな(by いかりや長介)
ブックマーク
参考図書
- 結城浩のWiki入門 ~YukiWikiではじめる みんなで作るWebサイト~
- 結城 浩 (著)
- インプレス 2004-03-30
- 単行本
- 4844319159 (ASIN), 9784844319153 (EAN), 4844319159 (ISBN)
- 評価
今だから言うけど,私はこの本で Perl を勉強しました(笑)
- ウィキノミクス
- ドン・タプスコット/アンソニー・D・ウィリアムズ (著), 井口 耕二 (翻訳)
- 日経BP 2007-06-07
- 単行本
- 482224587X (ASIN), 9784822245870 (EAN), 482224587X (ISBN)
- 評価
今は昔の物語,かな。
- 伽藍とバザール
- 原題: The Cathedral and the Bazaar
- レイモンド エリック, 山形 浩生 (翻訳)
- 1999-04-16 (Release 2014-09-17)
- 青空文庫
- 227 (図書カードNo.)
- 評価
プロジェクト杉田玄白 正式参加作品。翻訳者のページも参照のこと。今となっては古典だけどねぇ。
reviewed by Spiegel on 2022-10-18 (powered by aozorahack)
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いや,もちろん TeX Wiki や Scrapbox のような Wiki サービスも存在していることは知ってますよ,念のため。 ↩︎
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ゲーム攻略サイトをアフィリエイト化する過程で Wiki 運営を継続することは軋轢にしかならないしね。 ↩︎
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現在「バザール型のコラボレーション」活動を象徴するのは GitHub かな。 GitHub のドキュメント記法が Wiki 記法じゃなく Markdown ってのも象徴的だよねぇ(笑) そう考えるとインターネットは「古き良き時代」に固執するクラスタ,「テレビ化」に迎合するクラスタ,社交(SNS)に引きこもるクラスタなどに多極化している,と見なすこともできるかもしれない。 ↩︎