「それ」がデジタル生まれなら「本」である必然性はない

no extension

久しぶりにこれを引用しておこうか。

公理によって与えられる暗黙の制約。この制約が集合の要素同士をしっかり結びつける。単純にしばるのではない、相互に秩序ある関係を結ぶ。言い換えれば――公理によって与えられる制約が構造を生み出しているのだ
数学ガール/フェルマーの最終定理より

制約は構造を生む。 そして制約が変われば構造も変わる。

ルポ 電子書籍大国アメリカ』以来,注目している大原ケイさんが,新年早々,面白い記事を書かれている1

この中で一番ささったフレーズは

アメリカにはエンドユーザーを罰するという発想がない。これはなぜかといえば、海賊版に手を出すかもしれない「エンドユーザー」というのは、本を読む人、読みたい人、適正価格で提供されていれば購入する人なのだ、という共通理解があるからだ
アメリカの書籍出版産業2020:これまでの10年と、これからの10年について(2)より

なのだが,とりあえずそれは置いておいて,せっかくこの10年を総括する記事なんだから,私も便乗した記事を書いてみよう。 大原ケイさんは出版側に立つ方なので,私は「読者」の立ち位置で。

私の「本」の買い方と読み方はこの5年ほどで大きく変わった。 ポイントは大きく2つ。

ひとつは「本」購入のメインが E ブック2 に変わったこと。 まぁほぼ Kindle なのだが,一応「達人出版会」や “O’Reilly Japan Ebook Store” 等の出版物も含めて,である。 紙の本は,技術解説本や本当に好きな一部の作家さん3 の「保存用」を除いてほぼ買わなくなった。

もうひとつは「本」を読まなくなったこと。 じゃあ,主に何を読んでるかというと Web 小説や Web 漫画である(もちろん「青空文庫」もね)。 私が Kindle でラノベを大量に(といっても今はたかだか10冊/月程度だが,ビンボー人だしw)買うのは「Web 小説の SS が読みたい!」という動機が大きい。

「書籍化」は今や「アニメ化」や「ドラマ化」と同様の「作品のマルチ展開のひとつ」に過ぎなくなっているわけだ。 私は「読む」ことが好きなのでそれに傾倒しているが,おそらく世の中は映像や音声による「視聴」への需要が大きいんじゃないだろうか。

だから

指定された教科書をひたすら読み込んで勉強する、という旧来のラーニングそのものが変わりつつあり、アメリカの教育図書出版社は、単にテキストブックを売るではなく、学習カリキュラムというサービスを提供する企業に変わりつつある
アメリカの書籍出版産業2020:これまでの10年と、これからの10年について(1)より

とか

次なるフォーマットであるオーディオブックがアメリカで急成長中
アメリカの書籍出版産業2020:これまでの10年と、これからの10年について(3)より

とかいったくだりを読んで「そりゃそーだ」と思ってしまう。

つまり「それ」がデジタル生まれなら,もはや「本」である必然性はないのだ。

日本の出版社も,客を犯罪者にでっち上げて機会損失の挙げ句にわざわざ売上を減らすような戦略は諦めて,かつ「紙」の制約から離れて,生き残るために腹を括ったほうがいいんじゃないだろうか。 そうしないと「次の10年」で「令和時代に書籍出版社は壊滅しました」なんてことになりかねないと思うのだが…

ブックマーク

参考図書

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アメリカの電子書籍“ブーム”は今 (カドカワ・ミニッツブック)
大原 ケイ (著)
ブックウォーカー 2014-05-15 (Release 2014-05-15)
Kindle版
B00KAOQXTS (ASIN)
評価     

『ルポ 電子書籍大国アメリカ』の続編的な位置づけ。2013年米国の出版状況の分析と今後についての予測。

reviewed by Spiegel on 2014-10-18 (powered by PA-APIv5)

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ルポ 電子書籍大国アメリカ (アスキー新書)
大原 ケイ (著)
アスキー・メディアワークス 2010-09-09
新書
4048689606 (ASIN), 9784048689601 (EAN), 4048689606 (ISBN), 9784048689601 (ISBN)
評価     

絶版ですってよ,奥さん。「電子書籍」の話なのに Kindle 化すらされず絶版するとか笑えないギャグである。当時の状況を伝えるいい本だと思うんだけどねぇ。達人出版会さんとか拾ってくれないかな(笑)

reviewed by Spiegel on 2020-01-12 (powered by PA-APIv5)

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シャーロック・ホームズ「赤毛連盟」
アーサー コナン・ドイル (著), Arthur Conan Doyle (著), 三上 於菟吉 (翻訳), 大久保 ゆう (翻訳)
でじじ発行/パンローリング発売 2007-05-01
CD
4775929259 (ASIN), 9784775929254 (EAN), 4775929259 (ISBN)
評価     

青空文庫に収録されているシャーロック・ホームズ・シリーズの翻訳を朗読する。第一弾は「赤毛連盟(Red-Headed League)」で佐々木健さんによる朗読。一人で何役もこなす佐々木健さんがかっこいい!

reviewed by Spiegel on 2019-01-04 (powered by PA-APIv5)

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犬とハサミは使いよう (ファミ通文庫)
更伊 俊介 (著), 鍋島 テツヒロ (イラスト)
KADOKAWA 2011-08-25 (Release 2012-09-07)
Kindle版
B009IMAGYQ (ASIN)
評価     

犬になっても本を読む!

reviewed by Spiegel on 2015-04-26 (powered by PA-APIv5)

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勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 1 (モーニングスターブックス)
灯台 (著), おちゃう (イラスト)
新紀元社 2017-06-22 (Release 2018-02-16)
Kindle版
B079SYC8TC (ASIN)
評価     

読後の感想が「もげろ!」になった(多分)初めての作品。原作の Web 版は更に糖度高め。「砂糖を吐く」という比喩表現が理解できてしまった。もげろ!

reviewed by Spiegel on 2020-01-13 (powered by PA-APIv5)

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数学ガール/フェルマーの最終定理
結城 浩 (著)
SBクリエイティブ 2008-07-29 (Release 2014-03-12)
Kindle版
B00I8AT1CM (ASIN)
評価     

「フェルマーの最終定理」というサブタイトルをみたとき「なんちう大風呂敷を広げるねん」と思ったものだが,実際に読んでみるとぐいぐい引き込まれる。ひっさびさに頭を使ったような気がする。

reviewed by Spiegel on 2019-01-13 (powered by PA-APIv5)


  1. 記事の内容とは全然関係ないのだが, HON.jp News Blog ってホンマにセンスないなぁ。今どき3ペインの画面構成とか(笑) 2ペインでもウザい感じなのに。しかもケータイで見ようとすると AMP ページに飛ばされる。滅びろ! AMP ↩︎

  2. 少なくとも日本では「電子書籍」という言葉は官製用語で,しかも相当胡散臭い代物なので,このブログでは使わないことにしている。 ↩︎

  3. いや,まぁ,ぶっちゃけ竹本泉さんのことなのだが(笑) ↩︎