Twitter リスク?

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最初,新聞系メディアの記事を見て「はぁ?」となったが,マトモな記事も出てきたので,今回も覚え書きとして記しておく。

Twitter とは

まずは,おさらい。 前置きにしては長い説明だけど,後々必要なのでご容赦を。

Twitterマイクロブログ (microblogging) と呼ばれるコンテンツ形態を提供するサービスである。 ちなみにマイクロブログの源流は tumblelog と言われている。

Twitter による投稿は “tweet” と呼ばれ,自身および follow したユーザの tweet は基本的に時系列に並べられる。 これをタイムライン(timeline)と呼ぶ1

Tweet には文字列しか載せられない点に注意。 ただし @ から始まる単語をアカウント名, # から始まる単語をタグとして解釈し,他ユーザや他 tweet と連携することが可能である。 また tweet 内の URL を解釈し,アプリケーションやその設定によっては映像(動画を含む)や “Twitter Card” と呼ばれるページのサマリ情報に展開して表示することもできる2

たとえば

Der Spiegel im Spiegel July 9, 2020

という tweet を Web ブラウザで見ると

Der Spiegel im Spiegel July 9, 2020
Der Spiegel im Spiegel July 9, 2020

のように展開される。 ちなみに上の tweet に含まれる画像のオリジナルは以下の通り。

図書館で借りた本 | Yasuhiro ARAKAWA | Flickr
図書館で借りた本 | Yasuhiro ARAKAWA | Flickr

タイムライン上の表示は上下がトリミングされる点に注目しておいてほしい。

自身または他者の tweet を再投稿(reblog)することを retweet と呼ぶ。 Retweet に関しては紆余曲折があるが,今のところは以下の2種類ある。

  1. 対象の tweet を,手を加えずに投稿者の情報ごと自タイムラインに表示する
  2. 対象の tweet への URL に文言を添えて tweet する。「引用 retweet」とも呼ばれる

前者は

のように retweet フラグが立っている以外は通常の tweet と変わらない。 後者は

などと tweet する。 通常はアプリで自動化・隠蔽されているので中身を気にする人は少ないかもしれないが。 これを Web ブラウザ等で見ると

のように引用っぽく展開される。

「Retweet 発信者情報開示事件」のあらまし

前置きが長くなった。 ここからが本題。

なお,今回の訴訟を便宜上「Retweet 発信者情報開示事件」または単に「情報開示事件」と呼ぶことにする。 判決文は以下の通り。

登場人物

職業エンジニアをやってた頃の癖で,構造を調べる際につい「actor は誰?」って思ってしまう。

ちうわけで,「情報開示事件」の登場人物 (actor) は以下の5者となっている。

  • [1] 著作物
  • [2] 著作物の著作者
  • [3] 著作物を tweet した人物
  • [4] [3] の上記 tweet を retweet した人物
  • [5] Twitter サービス・プロバイダ

「情報開示事件」は [2][5] に対して [4] の身元を示す情報の開示を請求し,それを [5] が突っぱねたことで発生している。 つまり [2][5] の間の訴訟である。

[1] の著作物はいわゆる「有償著作物3」の見本として Web ページ上に公開されている写真画像のようで,ページ上にも画像自体にも「転載禁止」が明記されている。

[3] の人物は,判決文によると,著作(権)者に無断で tweet を行ったようだ。 邪推だが [3] を訴える過程で retweet した [4] の情報も取得しようとしたのではないだろうか。

[5] を運営する Twitter 社は米国法人である。 日本にも関係する法人組織があるが,「情報開示事件」の登場人物ではない。

事件のポイント

いわゆる「プロバイダ責任制限法」では,権利侵害が行われた著作物に関して,権利者からサービス・プロバイダに対して投稿・発信者の情報を求めることができ,プロバイダはそれに応じる義務がある。 ただしこれは「権利侵害が行われた」ことが認められることが条件である。

また「情報開示事件」の対象は,あくまで [4] による retweet で,元の無断転載を含む [3] の tweet は対象になっていない(おそらく別件)。

前置きでも述べたように, tweet であれ retweet であれ, Web ブラウザや公式アプリのタイムラインに画像が展開される際はレイアウトによっては上下がトリミングされた状態で表示される。 また,あくまでも表示上のトリミングなので,元の画像に手が加えられることはない。

ただ,このトリミングによって画像に示された氏名を含む著作権表示が見えなくなるため,それを以って「氏名表示権」の侵害であるとしたわけだ。

以上を踏まえて判決結果を見ていく。

判決のポイント

判決を先に言うと,最高裁判所第三小法廷は [5]Twitter 社の上告を棄却し retweet されタイムライン上でトリミング表示された画像であっても「氏名表示権」の侵害があるとした。 これにより [5] は著作者 [2] に対し [5] の情報開示の義務を負うことが決定した。

ポイントのひとつは,今回対象となっている権利が「氏名表示権」に限定されているという点だ。 利用者の思惑がどうあれ,サービスの実装がどうあれ,実際に画像に描かれた「氏名」が見えなくなってるんだから,それは「氏名表示権」の侵害と言えるよね,という話。

ちなみに「氏名表示権」について簡単に説明すると,著作権法で示される「著作者人格権4」のひとつで,著作権法 第19条で定義されている。

著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする
著作権法より

(著作者人格権のひとつである)同一性保持権や著作財産権については「情報開示事件」の対象ではないという点は押さえておく必要がある。

もうひとつのポイントは retweet を「再投稿」と見なしたこと。 今後のことを考えると,むしろこちらのほうがリスクになるかもしれない。

Twitter リスク?

ここからは私見・偏見・独断の塊なのであしからず(笑)

お手軽! 発信者情報開示

今回の「Retweet 発信者情報開示事件」の何がリスクかって,そこに本当の意味での侵害や損害があろうとなかろうと,今後「氏名表示権」を提示するだけでお手軽に発信者情報開示の請求が通ってしまうことだろう。

Twitter は匿名サービスではないが,利用者情報を無闇に第三者に開示しない程度には良心的である。 しかし,監視資本主義の雄でもある現在の Twitter は携帯端末と強く結びついているので,利用者情報を開示してしまえば本人に辿り着く可能性はとても高くなる。

ぶっちゃけ,タイムライン表示で著作権表示部分がトリミングされるよう意図的に画像レイアウトを調整すれば簡単に釣れてしまうのだ。 知財トロル大歓喜!

非親告罪の可能性

「Retweet 発信者情報開示事件」の論点とは直接関係ないが,今回対象となっている写真画像が「有償著作物3」である点が気になっている。 「有償著作物」だと何が拙いかというと,非親告罪事案になる可能性があるのだ。

2018年末に施行された改正著作権法では,以下の条件に於いて非親告罪の対象になる。

  1. 対価を得る目的又は権利者の利益を害する目的があること
  2. 有償著作物等について原作のまま譲渡・公衆送信又は複製を行うものであること
  3. 有償著作物等の提供・提示により得ることが見込まれる権利者の利益が不当に害されること
年末年始に施行される改正著作権法に関する覚え書きより

前節の「お手軽! 発信者情報開示」と併せて,本当に知財トロルがやりやすい環境が整ってきたって感じ。

Retweet は「再投稿」か

小法廷での判決とはいえ最高裁がそう言っちゃったんだから今後の訴訟はそういう方向で議論されるんだろうけど,微妙に納得いかない感じである。

前置きでも書いたけど,元々 retweet は reblog の延長線上にある発想ではあるが,現在の公式 retweet 機能は,喩えるなら「シンボリック・リンク」のようなもので,そこに実体があるわけではない。

それって本当に「再投稿」って言っちゃっていいのだろうか。

Retweet が( (fav.) の数なんかより)重要な「口コミ」シグナルである点は論を待たないだろう。 しかし Retweet を「再投稿」と見なすなら,それは「転載」と同義なので,大きな著作権リスクを抱えることになる。

まぁ,かつての Tumblr の reblog を見た印象で考えると,今回も「知ったこっちゃない」って言う人が大部分かもしれないが。 逃げる準備はしておくべきかねぇ(笑)

喧嘩を売り買いするなら利益を出さないと

某ラノベ作品で「売られた喧嘩は買うけど,売り買いするなら利益を出す」という文言を見かけた(うろ覚え)。

私は面倒事は嫌いなので無闇に売り買いする気はないが,「悪法も法」とも思わないので,もしやるならきちんと利益分岐点を見定めてやりたいものである。

倍返しなんかしないよ(笑)

ブックマーク

参考図書

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著作権2.0 ウェブ時代の文化発展をめざして (NTT出版ライブラリー―レゾナント)
名和 小太郎 (著)
NTT出版 2010-06-24
単行本(ソフトカバー)
4757102852 (ASIN), 9784757102859 (EAN), 4757102852 (ISBN)
評価     

名著です。今すぐ買うべきです。

reviewed by Spiegel on 2014-08-02 (powered by PA-APIv5)

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〈海賊版〉の思想‐18世紀英国の永久コピーライト闘争
山田 奨治 (著)
みすず書房 2007-12-20
単行本
4622073455 (ASIN), 9784622073451 (EAN), 4622073455 (ISBN)
評価     

「コピーライト永久独占を目論む大書店主に挑む〈海賊出版者〉ドナルドソンの肖像。法廷闘争を軸に著作権を史的に考察する。」(帯文より)

reviewed by Spiegel on 2018-11-13 (powered by PA-APIv5)

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18歳の著作権入門 (ちくまプリマー新書)
福井健策 (著)
筑摩書房 2015-01-10 (Release 2015-01-30)
Kindle版
B00SM7G6SI (ASIN)
評価     

福井健策弁護士による「18歳からの著作権入門」の書籍化。

reviewed by Spiegel on 2015-05-07 (powered by PA-APIv5)


  1. もっとも tweet の順序については随分前から崩壊していて follow していないアカウントからの広告 tweet も混ぜ込まれるため,それはもう酷い有様になっている。ぶっちゃけ,サービスイン当初の面影は全くないと言っていいだろう。 ↩︎

  2. 公式アプリでは「メディアのプレビュー」を無効にすることで映像や Twitter Card へ展開しないようにすることもできる。サードパーティのアプリケーションでは,そもそも映像や Twitter Card への展開ができない(多分)けど。 ↩︎

  3. 「有償著作物等」とは「有償で公衆に提供又は提示されている著作物等」を指す。 ↩︎

  4. 「氏名表示権」を含む「著作者人格権」は「著作者の一身に専属し、譲渡することができない」(著作権法 第59条)ため,著作権者が他の著作財産権を保持していようといまいと「著作者の権利」として行使できる。 ↩︎