AI はコピペ・プログラマを救うか

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ガートナーが発表するハイプ・サイクルによると日本でも「人工知能」そのものはとっくに幻滅期に入っているわけだが,最近いくつか面白い記事を見かけたので,覚え書きとしてちょろんと書いておく。

「AI がしたこと」の責任は誰が取るのか

まずはこれ。

微妙に釣りタイトルだが(笑),かいつまんで書くとこんな感じ。

  1. 「無断転載禁止」の写真を無断で tweet した馬鹿がいた
  2. さらにその「無断 tweet」を retweet した人がいた(意図は不明)
  3. Retweet のプレビューは自動でトリミング表示され写真端のクレジット表記が隠される
  4. 写真の著作者側は,プレビューのトリミング表示は著作者人格権の侵害である,として retweet したユーザの情報開示を Twitter に求める
  5. Twitter 側は「プレビューのトリミングは表示上だけの問題だからいんじゃね?」と拒否したため訴訟に発展
  6. 知財高裁で Twitter 側が負けたので最高裁へ上告
  7. 最高裁は「プレビューのトリミング表示でも著作者人格権の侵害になりうる」と判断し上告を棄却

実際に侵害となるかどうかは別の事案になるだろう。

日本における強すぎる著作者人格権や最高裁の判断については色々思うところがあるだろうが,それについては今は置いておいて,この結果 Twitter 側がどうしたか,である。 それがおそらくこの記事になるんだと思う。

元が米国の記事なので人種差別に絡めて書いてあるが,日本人から見れば上の判決の直後だけに,この影響がないとは思わないだろう(笑)

まぁ人種差別に絡めた話でも同じ結論だと思うが,要するに「『AI がしたこと』の責任は誰が取るのか」ってことだよね。

AI に「製造物責任」は問えないんだから,その「責任」の所在は人間側にシフトせざるを得ない。 でもサービス・プロバイダはそんな「責任」は取りたくないので「じゃあユーザに押し付けちゃえばいいぢゃん」となる,当然ながら。

その結果「プレビューのトリミングは君らが決めてくれ」となったわけだ。 その判断のフィードバックは当然行うんだろうけど。 監視資本主義社会だからね(笑)

実に分かりやすい。

「AI が書いたコード」の責任は誰が取るのか

同じことはプログラム・コードにも言えるだろう。

ライセンスでコード自体を「無保証」としても,そのコードで損害が発生したら誰かがそのペナルティを払わなくちゃいけない。 「AI が書いたコード」だから誰もペナルティを払わなくていい,とはならないはずだ。

であれば,現在および現在の延長線上の未来において「AI がコードを書く」ことはないんじゃないだろうか。 技術的な可能性の有無は別として。

AI はコピペ・プログラマを救うか

というわけで次の記事。

この中の以下の部分(引用の引用でゴメンペコン)

そのソリューションはおそらく IDE に組み込まれるだろう。プログラマがやりたいことを、不正確で曖昧な英語でざっと記述することで始める。AI はその解決策がどんなものになるか、おそらくは疑似コードみたいなスケッチでそれに応える。それを受けてプログラマは、豊富なコード補完機能(つまりそう、GitHub とかそうしたものにあるすべてのコードを学習したモデルに基づく)を使って実際のコードを埋めて書き継ぐわけだ

を見て「それなんてエキスパートシステム?」って思ってしまったのだが(笑)

もう少し踏み込んで考えると,現在でも「インプットしたコードに対して何らかのアウトプットを返す」仕組みはあるわけだ。 それこそ上の記事でも紹介されている Visual Studio IntelliCode とか。 最近話題の GitHub Code Scanning の中核である CodeQL も確か AI ベースである。

しかし,今だに「コードでないところからコードを生み出す」ことはできてない。 「ノーコード」だって「ロジックの表現がコードではない」というだけで,ロジック自体は人間が考えなきゃならないし,そのロジックを動かすためのコードは(別の)人間が書かなきゃならない。

「プログラマがやりたいことを、不正確で曖昧な英語でざっと記述」したものをコードに「翻訳」してくれる AI が登場するとして,それで誰が一番得をするか考えたら,それはコピペ・プログラマじゃないだろうか。

だってコピペ・プログラミングで一番苦労するのは「コピー元」を探すことだから。 それを AI が肩代わりしてくれるんだよ。 コピペ・コード同士の整合性も AI が指摘してくれるだろう。 スキルも不要。 何故ならスキルの蓄積は人間ではなく AI の仕事になるから。

AI がコードを書くことは(主に人間側の都合で)ない。 だがプログラミングに必要な道具(ロジックやコード)や提案は AI が用意してくれる。

こうなると「よいプログラマ」の条件は「AI への質問が上手い人」になるかもしれない。 件の記事は機械が人間に寄り添うことを期待しているようにも読めるが,相手に合わせるのが得意なのは人間のほうだからね(笑)

2年前に「AI 時代に真っ先に駆逐される職業は(コピペ)プログラマなんじゃないだろうか」と書いたが,考え直すべき時かもしれない。

参考図書

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いかにして問題をとくか
G. ポリア (著), Polya,G. (原著), 賢信, 柿内 (翻訳)
丸善 1975-04-01
単行本
4621045938 (ASIN), 9784621045930 (EAN), 4621045938 (ISBN)
評価     

数学書。というか問いの立てかたやものの考え方についての指南書。のようなものかな。

reviewed by Spiegel on 2014-09-26 (powered by PA-APIv5)