AI が特許権を得る日

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Twitter の TL で見かけた記事。

詳しくはリンク先の記事を見てもらうとして,パッと見て変だと思うよね。 だって AI を発明者と認めて特許権を付与しても主張・行使できないぢゃん。 その辺どうなってるかというと

AI「ダバス」が発明者だとすれば、特許を受ける権利はAIが持つことになるが、テイラー氏はその権利を譲渡されたとして、出願人になっている

ということらしい。 こんなロジックを持ち出した理由は以下の通り。

オーストラリア連邦地裁のビーチ氏が認定したように、テイラー氏らが主張するのは、人が関与しない自律的なAI主導の発明で、AIが発明者としては認められない場合、特許性のある発明が「発明者不在」として拒否されるリスクがある、という点だ

「誰のものでもない」ものを機械が「発明」したとして,その機械の所有者が権利をガメるというのはアリなんだろうか。 新手のジャイアンか(笑)

記事中に登場する「自律」という単語で思い出すのは4年前に書いた読書感想文だ。

この中で「自立」と「自律」の違いについて

自立とは、仮想代理人ソフトウェアであるところのエージェントが自ら動き、誰の力も借りずに意思決定できることを言う。 […] 一方、自律というのは哲学的な意味であり、自らが行動する際の基準と目的を明確を持ち、自ら規範を作り出すことができることをいう。

と紹介している。 そして,この定義でいくと現代において「自律」機械なるものは未だ登場していないことになる。 そうすると,最初の記事が指しているものは「自立」機械に過ぎないということになるが,ただの「自立」機械に権利を付与するのはやっぱり変な話に思える。

AI というバズワードを持ち出すまでもなく,自動作画とか自動作曲とかいった「自動機械」(ソフトウェアを含む)は昔からあって,この「自動機械」が創り出す表現なりアイデアなりが誰(何)に帰属するかについてもよく議論にのぼる。

たとえば,著作権に関しては

これに対する国際的な通説は「人がコンピューターを道具として使えば著作物」。ただ、創作の主体はあくまで人でなければならない。これは、人がカメラ(という道具)を使って撮影した作品を著作物として扱う考えと近い。逆に、人が主体とならず、ボタン1個で生成されるような楽曲は、著作物ではないとされてきた。

よって、「AI生成物は著作物ではない」というのが、日本における支配的な通説である。

みたいな話もある。 ただし,特許権については先行者優位性の問題があり「先に機械に発明されたせいで人間側の優位性が潰されるのはかなわん」というのは心情的には分からないでもない。

あるいは,機械に知財権を付与できるならバンバン機械に発明させて知的独占を意図的に潰す,みたいな戦略もあるかもしれない(笑) そういやグレッグ・イーガンの『万物理論』では,最終的に万物理論の論文を書き上げるのは AI だったな。

参考図書

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そろそろ、人工知能の真実を話そう (早川書房)
ジャン=ガブリエル ガナシア (著), 小林 重裕・他 (翻訳), 伊藤 直子 (監修)
早川書房 2017-05-25 (Release 2017-05-31)
Kindle版
B071FHBGW8 (ASIN)
評価     

シンギュラリティは起きない。

reviewed by Spiegel on 2016-07-02 (powered by PA-APIv5)

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〈反〉知的独占 ―特許と著作権の経済学
ミケーレ・ボルドリン (著), デイヴィッド・K・レヴァイン (著), 山形浩生 (翻訳), 守岡桜  (翻訳)
NTT出版 2010-10-22
単行本
4757122349 (ASIN), 9784757122345 (EAN), 4757122349 (ISBN)
評価     

「知的財産権は、人類進歩を阻害する!」(帯文より)

reviewed by Spiegel on 2018-11-17 (powered by PA-APIv5)

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万物理論 (創元SF文庫)
グレッグ・イーガン (著), 山岸 真 (翻訳)
東京創元社 2004-10-28
文庫
4488711022 (ASIN), 9784488711023 (EAN), 4488711022 (ISBN)
評価     

グレッグ・イーガンの名作。これも singularity を巡る物語だな。

reviewed by Spiegel on 2017-09-18 (powered by PA-APIv5)