『ユニコーン企業のひみつ』読書会(2)

no extension

先月から始まった『ユニコーン企業のひみつ』読書会の2回目。

今回は4章から9.4章までだったが,内容盛り沢山なので複数回に分けて紹介する。

ところでヘッドセットのマイクの調子が悪いのよ。 自分の声は聞こえないので分からなかったが,過剰にノイキャンが効いてる感じらしい。 観念して USB 接続のマイクを発注した。 とほほ

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audio-technica USBコンデンサーマイク 在宅勤務/録音/動画配信/ポッドキャスト AT9933USB
Audio Technica(オーディオテクニカ) (Release 2015-02-13)
エレクトロニクス
B00T5ANN00 (ASIN), 4961310129798 (EAN)

Bluetooth 接続のヘッドセットの調子が悪いので,マイクだけ USB 接続のものを買ってみた。

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目次

“There is No Spotify Model”

今回の範囲からは外れるが,読書会で以下の記事が紹介されていたので共有する。

実はこの辺の話は「訳者あとがき」で少し言及されている。 「訳者あとがき」によると

Spotify でのスクワッドやトライブ、ギルドといった少し変わった名前のエンジニアリング組織編成、いわゆる「Spotify モデル」は、アジャイルコーチの Henrik Kniberg らの記事や動画をきっかけに英語圏のアジャイル界隈では広く認知されました。本文での説明も、初出である “Scaling@Spotify”(2012年)、“Spotify Engineering Culture”(2014 年)“Spotify Rythm”(2016 年)を踏まえたものになっています。とはいえこれも、あくまで著者の在籍時の経験にもとづいたスナップショットです。

とある。 前回紹介したようにスタートアップが「学習する機械」であり「失敗はゲームの一部」であるなら,マネジメントそのものも同様にイテレーションしているだろうと想像できる。

じゃあ『ユニコーン企業のひみつ』はもう古くて使えないのかというと,さにあらずで

繰り返しますが、大切なのはスクラムか Spotify モデルかというプラクティスではありません。重要なのはプラクティスを支える原則や、それを生みだす価値観のあり方、すなわち文化です。「文化が重要」なのです。

と記されている。

「訳者あとがき」ではこの辺の話を含め『ユニコーン企業のひみつ』以外の本も紹介されているので「いまさら Spotify モデルかよ!」という人は「訳者あとがき」を立ち読みするところから始めてもいいかも知れない(笑) ちなみに『ユニコーン企業のひみつ』で「文化」の話は9章で登場する。

前説おわり。

トライブ(Tribe),チャプター(Chapter),ギルド(Guild)

トライブ,チャプター,ギルドは Spotify が考案した組織の概念で,スクワッドの機能を全社レベルにスケールするための構造化と言える。 ひとつずつ見ていこう。

トライブ

トライブは前回紹介したスクワッドを束ねたものだ。 といってもトライブはスクワッドの上位組織ではなく

スクワッド以外の組織構造(トライブ、チャプター、ギルド)はどれも、スクワッドの支援と調整のために組まれた「足場」

であり,あくまでも自律(フルスタック)した小さなチームである「スクワッド第一」で

スクワッドとトライブのどちらも、どんな顧客に向けたものなのかがきちんと特定された、明快なミッションを持っていなければならない。ミッションには成功を示す明確な指標が必要であり、トライブはその達成に責任がある。

ということらしい。

チャプター

チャプターはトライブ内のスクワッドを横断し,同じ専門性を持つメンバーで構成されるグループだ。 スクワッドを縦串とするならチャプターは横串と考えてもいいかも知れない。 ただし,いわゆる「マトリクス組織」構造における「人材プール」ではないらしい(私はいまいちピンとこなかったが)。

ギルド

ギルドは

同じ専門分野に興味のあるメンバーからなるグループで、組織を横断して形成される。 […] チャプターとは異なり、ギルドは正式な組織ではない。

だそうな。 緩い技術交流コミュニティ,あるいはもっと緩い勉強会みたいなイメージだろうか。

このことを過小評価してはいけない。学ぶことの持つ力、すなわち、自分自身が成長していると感じ続けられることは、勤勉でスマートな、知性豊かな人たちにとってはこの上ない魅力だ。これこそ、最も優秀で素晴らしいメンバーを惹きつけ続けるための秘訣だ。

スクワッド・トライブの自己組織化

4.7章でトライブの面白い例が紹介されている。 多めの引用はご容赦。

Spotify の組織改編がいつもこうだったというわけではないが、ある大規模なトライブの組織再編にあたり、アジャイルコーチをファシリテーターとしたワークショップを開催したことがあった。そのワークショップではリーダー陣が一堂に会して、共同で新しいトライブの編成を考えた。といっても、その時点では新しいトライブに具体的なメンバーをアサインしなかった。Spotify はメンバーに自分で自分の所属をサインアップさせることにした。
この一連の流れが特筆に値すると思ったのは、テック企業の本気を目のあたりにしたからだ。テック企業は意思決定を現場に任せて、メンバーの自己組織化を促すためなら、どこまでも突き進む。
Spotify や他のテック企業が発見したのは、メンバーが転職せずにすぐれた仕事を続けてくれる可能性が高くなるのは、内容をよく理解した仕事を自分で選び、気に入った人たちと一緒に働いている場合だということだ。

なんとなく「スクワッドが寄り集まってトライブを形成する」みたいなイメージで考えていたのだが,最初から構造化されたスクワッド・トライブを構成して,そこに向かって各々サインアップするって感じなのね。

ここまで読み進めるとチャプターが「人材プール」ではないと述べられていることの意味が少し分かる。 上から辞令が降りてくるわけではないのだ。 スタートアップ内では自分の仕事は自分で見つけないといけないらしい(笑) 言い方を変えるなら,それができる「人材」こそがスタートアップでは求められているわけだ。

カンパニーベット(Company Bet)

「カンパニーベット」も Spotify の用語だそうで

カンパニーベットは、会社が取り組みたい重要事項を、終わらせたい順に並べたリスト

を指すらしい。 もちろん,ただ漫然と優先順位を決めるのではなく DIBB (Data, Insight, Belief, Bet) と呼ばれる意思決定フレームワークに基づいて決定していく。

前節の「スクワッド・トライブの自己組織化」とは異なりカンパニーベットは上から降りてくるメッセージだ。 とはいえ,これは業務命令ではない。

念を押しておくが、自分たちの時間を何に費やすべきかの最終的な決定権はあくまでスクワッドにある。スクワッドの自律性は揺らがない。スクワッドはベットや DIBB を参照することで、自分たちが会社全体の役に立っていることと、利己的な部分最適に陥っていないことを自分たちで点検する。ベットもDIBB もスクワッドの判断を支援することに存在意義があるのだ。

カンパニーベットは,喩えるなら,現場のエンジニアの向きを揃える整流器のようなものだろうか。

大きなチャンスに狙いを絞ったベットに向けて「部隊」を集結させ、総力をあげてこれに取り組む。やり遂げたら、次の大がかりなベットが始まるまでの間、各自はそれぞれ普段の業務に戻る。Spotify のようなテック企業はそうやって物事を進めている。

というわけで…

次回へ続く。

参考図書

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ユニコーン企業のひみつ ―Spotifyで学んだソフトウェアづくりと働き方
Jonathan Rasmusson (著), 島田 浩二 (翻訳), 角谷 信太郎 (翻訳)
オライリージャパン 2021-04-26
単行本(ソフトカバー)
4873119464 (ASIN), 9784873119465 (EAN), 4873119464 (ISBN)
評価     

版元より電子版も出ている。 Google や Spotify のような「ユニコーン企業」はどのようにして「ミッション」を遂行しているのか。

reviewed by Spiegel on 2022-05-21 (powered by PA-APIv5)