SETI と私
大きな功績を遺された Frank Drake 博士に哀悼の意を表します
He was there when I entered this world, and I was there when he left:
— Dr. Nadia Drake (@nadiamdrake) September 2, 2022
Frank D Drake, May 28, 1930 - September 2, 2022.
Rest among the stars, my sweetest Papa D. You will always be my brightest star.
More info here: https://t.co/Bt60VCfrxa pic.twitter.com/vyo7ZQq5G4
「宇宙人探し(SETI; Search for Extra-Terrestrial Intelligence)」でおなじみ Frank Drake 博士が 2022-09-02 にお亡くなりになったそうです。
Frank Drake died peacefully at home in Aptos, California on September 2, of natural causes. He was 92.
日本語で言うなら「大往生」ってやつですかね。
科学 SETI を拓いた人
彼の娘で科学ジャーナリストの Nadia Drake さんが National Geographic に寄稿された記事がある。
この中に出てくる「ドレイク方程式」というのがこれ:
$$ N = R_* \times f_p \times n_e \times f_l \times f_i \times f_c \times L $$
Drake Equation
このうち
- $N$ は私達の銀河系に存在する文明の数
- $R_*$ は年間に私達の銀河系で誕生する恒星の数
- $f_p$ は $R_*$ のうち惑星を持つようになる割合
- $n_e$ は生命が発生し得る条件を持った惑星の数
- $f_l$ は $n_e$ のうち実際に生命が発生し得る割合
- $f_i$ は $n_e \times f_l$ のうちその生命が知性を持つに至る割合
- $f_c$ は $n_e \times f_l \times f_i$ のうち(電波等による)通信技術を持つまでに発達する割合
- $L$ は $n_e \times f_l \times f_i \times f_c$ で示される文明の平均寿命
である。 単なる「生命」ではなく「文明」であること,その文明が星系外から観測可能であることが条件である。
そして最重要で厄介なのは $L$ の項。 文明が発生し得る割合がいくら大きくても $L$ 項が小さいならそれは泡沫の夢。 そして $L$ 項として実証できるのは,今のところ,私達の地球人類文明しかないのである。 私達人類が光よりも波長の大きい「電波」の存在を証明したのが19世紀後半。 それを使った通信が一般化するのは20世紀に入ってから1。 つまり地球外文明が発見されない限り $L$ 項として証明できたのは未だ100年ほどなのだ。
まぁ $L$ 項については「そんなわけないやろ」と様々な見積もりは行われているが証明する術はない。 でも私達人類が文明を保っていられる期間が長いほど $L$ 項を大きく見積もることができる。 頑張れ人類(笑)
恐らく、どんな技術文明も、それが未熟な段階では、高度なテクノロジーの扱いを謝って自滅する可能性をはらんだ時期があるのではなかろうか。この時期をどう乗り越えるかが、Lを決定する決め手となる。そして、もしこれをうまく乗り越えることさえできれば、技術文明はそう簡単に滅び去るものではなくなるはずだ。われわれだって、そう遠くない将来、火星あたりへ移民して、人類文明の分散・継承の手段を確保できるようになれば、文明が内的・外的要因によって消滅する確率は大きく低下するだろう。
さて,「私達以外に『宇宙人』はいるか?」という素朴な命題について,想像や妄想ではなく,科学的アプローチで以って挑んだ最初の事例が1960年の「オズマ計画」で,この計画の中心人物のひとりが Frank Drake 博士である。
こうして、一九六〇年四月八日午前四時、世界のマスコミが注目する中、二六メートル電波望遠鏡は、最初の目標であるくじら座タウ星へと向けられたのである。
こうして、それから約二ヵ月、計四〇〇時間にわたって、二つの恒星を狙った電波の受信実験は続けられた。しかし、残念ながらこれ以上、彼らには電波望遠鏡を専有する時間は与えられず、「オズマ計画」はこれという成果をあげないままに終了した。
だが、もちろん、たった四〇〇時間で地球外文明を発見できると信ずるほどSETI研究も甘くはない。何はともあれ、こうして実際にSETI計画が実施に移され、マスコミも科学界もそれに反対を表明しなかったという事実は、それ以降のSETI研究の展開に大きなはずみとなった。
いやぁ,いい時代だったんだねぇ。 「成果主義」の仮面を被りつつ「望む結果」しか受け入れられない今の社会風潮から見ると羨ましい限りだよ(笑)
SETI@home と私
時は流れ1999年,画期的なプロジェクトが正式稼働した。 これが UC Berkeley が中心となって実施されたあの SETI@home である。
当時の私は自宅回線を ADSL に切り替えて「テレホーダイ」から解放されたばっかりだったと思う(うろ覚え)。 SETI@home と(当時山根信二さんが主催されていた)日本語メーリングリストに飛びついた。 というか私の Web 上での活動は実質的に SETI@home 参加がトリガーになっているといっても過言ではない。
日本語メーリングリストのおかげか SETI@home は日本国内でもかなり盛り上がり,SF作家の野尻抱介さんがファンブックまで出すありさま(笑) いやぁ,楽しかったねぇ。
SETI@home が(当時)優れていた点は大きく2つ。
ひとつは観測のための電波望遠鏡を専有するのではなく,パラボラアンテナの焦点部分に SETI 専用の受信機を取りつけて誰かのプロジェクトで望遠鏡が稼働している時に便乗してデータを収集する「ピギーバック方式」であったこと。 もうひとつは解析のための分散コンピューティング・システムを構築し一般ユーザに広く協力を求めたこと。
「解析のための分散コンピューティング・システム」そのものについては既に暗号解読コンテストなどでも用いられていたけど,こういったコンテストは賞金ありきである。 でも SETI@home では賞金とかいった「にんじん」はなく,せいぜい「本当に宇宙人を示す電波が見つかったら発見者として論文に名前を載せるよ」といった程度。 しかも最終的に「宇宙人を示す電波」は見つかってないのだ。
でも「宇宙人探しに貢献できる」という点が多くの人を惹きつけ,肯定的に受け入れられた。 私はこのことがとても重要だと思っている。 実際に SETI@home のプロジェクト運営の成功を受けて多くの学術系分散コンピューティング・プロジェクトが立ち上がった。 2005年の「国際物理年」に正式稼働した Einstein@Home もそのひとつだ。
残念ながら SETI@home 自体は2020年に活動を停止したが,基盤としての BOINC は残り,多くのプロジェクトで利用されている。
SETI 研究は凄く大変である。 なにが大変って時間や資金をいかにして調達するかが大変なのである。 普通に考えて本当に成果が得られるか分からないプロジェクトにリソースを提供する人は多くない。 実際に SETI@home は常に資金繰りに苦労してたみたいだし,主催する研究者も派生プロジェクトである Astropulse や基盤技術である BOINC を成果として上手く使って論文を発表していたようである。 それでも20年続いた SETI@home はかなり幸運な部類だったのでは,と現時点では思う。
私達以外に「宇宙人」はいるか?
「私達以外に『宇宙人』はいるか?」という素朴な命題の答えは未だ得られていない。 「宇宙人はいる」とも「宇宙人はいない」とも証明されていないのだ2。
Frank Drake 博士の功績が「過去の功績」とならぬよう何らかの形で研究は続けていくべきだと思うし,また SETI@home のような面白いプロジェクトを開催するなら乗るよ,私は。
ブックマーク
- Frank D. Drake 1930 – 2022
- In Memoriam: Frank Drake | News | Astrobiology
- Pioneering radio astronomer Frank Drake dies at 92
- Frank Drake, pioneer in the search for alien life, dies at 92
- SETI pioneer Frank Drake, of ‘Drake Equation’ fame, dies at 92 | Space
- Frank Drake, astronomer famed for contributions to SETI, has died | Ars Technica
- Drake wants off-world listening post for alien messages | New Scientist
- Frank Drake, astronomer and SETI pioneer, RIP | Boing Boing
- The Future’s Most Important Possibility — Contact With Extraterrestrial Life | by Dr. Lisa Galarneau | We Are Not Alone - The Disclosure Activists | Medium
- Frank Drake, creator of the Drake equation and Project Ozma, dies at 92 | Astronomy.com
In addition to the well-known sounds on my Golden Record, images like these were included as a beacon of humanity to those I might encounter on my journey.
— NASA Voyager (@NASAVoyager) September 3, 2022
I carry this message into the cosmos thanks to astronomy pioneers like Dr. Frank Drake (1930-2022). pic.twitter.com/zeHwD8k5AC
We are saddened by the passing of Dr. Frank Drake.
— Planetary Society (@exploreplanets) September 2, 2022
Drake was driven by the question of whether we are alone in the universe. His work, including the famous Drake Equation, has shaped the search for life for decades.
Our CEO @BillNye shares his thoughts on Drake's passing here. pic.twitter.com/8YfioNqImQ
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Celebrating the Life and Legacy of Frank Drake Tickets, Fri, Nov 18, 2022 at 3:00 PM | Eventbrite
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SETI@home日本語情報ページ (Internet Archive)
参考図書
- ファースト・コンタクト―地球外知性体と出会う日 (文春新書)
- 金子 隆一 (著)
- 文藝春秋 1998-10-01
- 新書
- 4166600044 (ASIN), 9784166600045 (EAN), 4166600044 (ISBN)
- 評価
地球外文明探査の歴史を俯瞰する良書。是非ともデジタル化を希望する!
- SETI@homeファンブック―おうちのパソコンで宇宙人探し
- 野尻 抱介 (著)
- ローカス 2000-01-01
- 単行本
- 4898140866 (ASIN), 9784898140864 (EAN), 4898140866 (ISBN)
- 評価
内容は古いけど当時の「熱」を伝えた名著だと思うけどなぁ。著者の方が自己出版で Kindle で出してくれたらいいのに。
- ニャルラトホテプ
- 原題: NYARLATHOTEP
- ラヴクラフト ハワード・フィリップス, 大久保 ゆう (翻訳)
- 2014-04-04 (Release 2015-08-19)
- 青空文庫
- 56839 (図書カードNo.)
- 評価
SAN 値が下がる。
reviewed by Spiegel on 2019-03-28 (powered by aozorahack)
- [合本版]這いよれ!ニャル子さん 全12巻 (GA文庫)
- 逢空 万太 (著), 狐印 (イラスト)
- SBクリエイティブ 2017-06-08 (Release 2017-06-08)
- Kindle版
- B072ML1SB2 (ASIN)
- 評価
ニャル子さん合本版が半額セールしてたので衝動買いした。紙の本に換算して3327ページ(笑) こういう無茶が出来るのがEブックのいいところだよね。でも,ニャル子さんを読む(観る)と仮面ライダーが見たくなるんだよなぁ。