嘔吐するインターネット

no extension

また面白い記事を見つけた。

この記事に全面的に同意するわけではないが,とても興味深い。

私が連想したのは Jock Young による『後期近代の眩暈』(原題: The Vertigo of Late Modernity; 2007)だ。

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後期近代の眩暈 ―排除から過剰包摂へ― 新装版
ジョック・ヤング (著), 木下ちがや (翻訳), 中村好孝 (翻訳), 丸山真央 (翻訳)
青土社 2019-08-23
単行本(ソフトカバー)
4791772091 (ASIN), 9784791772094 (EAN), 4791772091 (ISBN)
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新装版が出てた。『排除型社会』の続編。現代社会の過剰包摂(bulimia)について。

reviewed by Spiegel on 2023-01-05 (powered by PA-APIv5)

この本にある「過剰包摂」という語は翻訳者によるもので原著では bulimia (過食症) と呼んでいる。

前著『排除型社会』においてヤングは、レヴィ・ストロースの「カニバリズムの社会」(共食いするように包摂する社会)と「嘔吐する社会」(排除する社会)というメタファーに言及して、後期近代社会はむしろ過食症的な社会(社会のメンバーをたらふく包摂し、同時にむりやり排除するような社会)だと論じている。

前著の『排除型社会』と併せ,これらの本ではインターネットの「イ」の字も出ないのが特徴だが(だからお気に入りなのだ),件の記事を読むに,リアルな「過食症的な社会」と似たような現象がインターネットでも社会現象として起こっているというのが面白い。 ネットに於いても,多様化が云々といいつつ,やってることは「過剰包摂」に過ぎないわけだ。

これは「脱中央集権」アーキテクチャでも同じ。 特にモノリシックな「脱中央集権」アーキテクチャは「過剰包摂」に陥りやすいだろう。

最初に挙げた記事でもうひとつ連想したのは Danah Boyd による『つながりっぱなしの日常を生きる』だ。

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つながりっぱなしの日常を生きる:ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの
ダナ・ボイド (著), 野中 モモ (翻訳)
草思社 2014-10-09 (Release 2015-07-21)
Kindle版
B0125TZSZ0 (ASIN)
評価     

読むのに1年半以上かかってしまった。ネット,特に SNS 上で自身のアイデンティティやプライバシーを保つにはどうすればいいか。豊富な事例を交えて考察する。

reviewed by Spiegel on 2016-05-10 (powered by PA-APIv5)

原題の “It’s Complicated” のとおり,この本の内容は多岐に渡っていてなかなか読むのが難しかったのだが,テーマのひとつに10代の子供のネットにおける生態がある。 その前提として,大人の包摂された社会から見て子供もしくは子供コミュニティは排除ないし周辺化されているという事情がある。 そこで子供らはネットを避難先とするのだが,調査期間であるゼロ年代後半から2010年代はじめ頃はまさに SNS による「過剰包摂」が進行(侵攻?)しつつあるときであり,そういった状況でどうやって自身のアイデンティティを保つか苦心している様子が描写されている。

結局のところ,技術がどう進歩しようと,それによって社会の「盤面」がどう変わろうと,その上で踊る私達は何も変わらず同じことを繰り返す。 …ということを改めて確認する話であった。

参考図書

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排除型社会―後期近代における犯罪・雇用・差異
ジョック ヤング (著), Young,Jock (原著), 秀男, 青木 (翻訳), 泰郎, 伊藤 (翻訳), 政彦, 岸 (翻訳), 真保呂, 村澤 (翻訳)
洛北出版 2007-03-01
単行本
4903127044 (ASIN), 9784903127040 (EAN), 4903127044 (ISBN)
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reviewed by Spiegel on 2015-10-31 (powered by PA-APIv5)