補集合としての VTuber(『VTuber学』を読み始める)
若い人は知らないと思うが,私が子供の頃には「ニューミュージック」という音楽ジャンルがあったのよ。 レコード屋にも「ニューミュージック」の棚とかあったりした。 ユーミンとかアリスとか吉田拓郎とか井上陽水とか,あの辺の方々が活躍してた時代の話。 その後の JPOP とかに包摂されて(あるいはそれ以前の歌謡曲と同一視されて)なかったことにされたジャンル。
音楽業界での評価は知らないが,私にとって「ニューミュージック」は(それまでの)歌謡曲とか演歌とか,あるいは海外から入ってきたポップスとかとも違うもの,という漠然とした境界が曖昧なジャンルという認識。 「◯◯でないもの」に惹かれるってのはいかにも厨二っぽくていいよね(笑) でも,今どき「ニューミュージック」などという音楽ジャンルは存在しないし,当時活躍した彼らが「ニューミュージック」という括りで評価されることもない(たぶん)。
さて。 インターネットは「◯◯でないもの」で満ち溢れている。 VTuber と呼ばれているものも「◯◯でないもの」のひとつだと思っている。 故に定義し記述するのが難しい。 というわけで『VTuber学』。 といっても読み始めたばかりなんだけどね。
『VTuber学』は以下の配信の最後の方で紹介されているのを見て衝動買いした。
この配信に出演されている山野弘樹さんの著書である『VTuberの哲学』もポチっているのだが,そっちは後回しにして,まずは『VTuber学』を読んで「VTuber って何?」ってところから。 0章でいきなりこんなふうに書かれている。
そういえば上の配信の「儒烏風亭らでん」繋がりで,彼女が所属している ReGLOSS の配信の中で「ReGLOSSメンバーの中で1番『てぇてぇ』組み合わせは?」という問いに対し「我々ってコンテンツなんだ」という感想を言っていたのが面白かった。
「コンテンツ」を挟んだ(一方向ではない)コミュニケーションというのは,もはや奇異なものではない。 そもそも「表現」とは本来,誰かに帰属するものではなく,人と人の間に存在するものだ。 人を排除した「コンテンツ」などまさに「針の落ちないレコード」である。
他に『VTuber学』の最初の方で面白いと思ったのがカバー株式会社の谷郷元昭(通称 YAGOO)さんへのインタビュー。 この中で
てな感じにばっさり述べられていて,その上で「世界で戦いたい」とビジョンを掲げミッションを遂行していってる感じ。 世界を視野に入れた経営ビジョンは ANYCOLOR など他の企業も同じようで,日本という商圏しか見ない老舗企業や知財権をガメることに余念がない既存メディアに比べれば,よほど期待感がある。
私個人の視聴体験を話せば, VTuber に注目しはじめたのがようやく2023年に入ってからで1 最初期のキズナアイとかその後の「四天王」とかまるっとスルーしている。 そもそも YouTube のような私企業に支配されたプラットフォームが sustainable とは到底言えないし YouTuber とか TikToker とか水商売だよなーとか思っていた。 しかも私は元々(エンターテインメント寄りのコンテンツに関心が薄かったこともあり)動画配信に否定的で「それスライドかブログで書いてくれ」などと言いくさるタイプの人間なのだ(10分の動画を見るには2倍速でも5分かかる)。
それでもギター配信とかゲーム配信とか見るようになって「面白いぢゃん」と遅まきながら思えるようになり2,学術コンテンツとエンターテインメント(&コミュニケーション)との組み合わせについての論考も見かけて VTuber について多少なりとも考えるようになった。
特に学術系のコラボ配信は(ただの解説より)かなり面白いと感じた。 (仕事でやるようなプレゼンテーションを思い出して)準備大変なんだろうな,とか思ったり。 コラボ配信をプレゼンテーションと見做すなら MC とファシリテータとの綿密な擦り合わせが必要ってことだし。 しかも,ライブ中の反応への「反射神経」も要求される。 凄いよなぁ。
まぁ,でも,「推し」の感覚はイマイチよく分かってない3。 可処分時間が少ないのでリアタイでライブ配信見れないし4。 それはこれから『VTuber学』や『VTuberの哲学』あたりを読んで片鱗だけでも分かるようになるといいなぁ。
VTuber が,補集合ではなく,過不足なく定義され確固たる存在になるのか。 それとも将来「ニューミュージック」のように別のなにかに包摂されたりするのか。 エンターテインメントとして漫然と楽しむのもいいと思うけど『VTuber学』を起点に少し先の未来を妄想してみるのも面白いと思う。
次回へ続く。
ブックマーク
- メタクソ化するTiktok:プラットフォームが生まれ、成長し、支配し、滅びるまで | p2ptk[.]org
- 音楽フェスの相次ぐ中止 2024年は「フェスがオワコンになった年」 | クーリエ・ジャポン : 「アルゴリズムが、リスナーの音楽の好みの均一化を強めており、あまり馴染みのないジャンルのアーティストも多数参加する大規模な音楽フェスティバルに興味を示さなくなった可能性もある」という記述が面白い
参考
- VTuber学
- 岡本 健 (その他), 山野 弘樹 (その他), 吉川 慧 (その他)
- 岩波書店 2024-08-28 (Release 2024-08-28)
- Kindle版
- B0DBZ3QP7J (ASIN)
- 評価
VTuber を歴史的観点,理論的観点から記述していく試み。多様な論者が登場してなかなか面白い。Kindle 版も横書きで読みやすい。
- VTuberの哲学
- 山野 弘樹 (著)
- 春秋社 2024-03-20 (Release 2024-04-20)
- Kindle版
- B0D1V1WXRH (ASIN)
- 評価
VTuber を哲学的視点から記述していく試み。固定レイアウトなのでブラウザの Kindle Cloud Reader で読めるの助かる。
- ユニコーン企業のひみつ ―Spotifyで学んだソフトウェアづくりと働き方
- Jonathan Rasmusson (著), 島田 浩二 (翻訳), 角谷 信太郎 (翻訳)
- オライリージャパン 2021-04-26
- 単行本(ソフトカバー)
- 4873119464 (ASIN), 9784873119465 (EAN), 4873119464 (ISBN)
- 評価
版元より電子版も出ている。 Google や Spotify のような「ユニコーン企業」はどのようにして「ミッション」を遂行しているのか。
- メタファーとしての発酵 (Make: Japan Books)
- Sandor Ellix Katz (著), ドミニク・チェン (監修), 水原 文 (翻訳)
- オライリージャパン 2021-09-15
- 単行本(ソフトカバー)
- 4873119634 (ASIN), 9784873119632 (EAN), 4873119634 (ISBN)
版元でデジタル版も買える。てか,私は PDF で買っている。見事に積読状態。
- 生き延びるためのラカン (ちくま文庫)
- 斎藤 環 (著)
- 筑摩書房 2012-02-01
- 文庫
- 4480429115 (ASIN), 9784480429117 (EAN), 4480429115 (ISBN), 9784480429117 (ISBN)
- 評価
ラカン入門書? とはちょっと違うか(笑)
- フィーリングラデーション
- ReGLOSS (メインアーティスト)
- cover corp. 2024-09-11 (Release 2024-09-11)
- MP3 ダウンロード
- B0DGG9JKM4 (ASIN)
- 評価
- ネコカブリーナ
- 猫又おかゆ (メインアーティスト)
- cover corp. 2024-02-23 (Release 2024-02-23)
- MP3 ダウンロード
- B0CW35PBT6 (ASIN)
- 評価
可愛らしくて優しくてちょっと泣きそうになる曲。 mora で高解像度版が買える。