「空」としての VTuber(まだ『VTuber学』を読んでる途中)

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前回の続き。 まだ『VTuber学』は「調査編」を読み終わったあたりだが,ここで脳内に溜まってるものを吐き出しておく。 いつも以上に胡乱な語りが酷いので,気になる方は華麗にスルーしていただけるとありがたい。

「フカボリ!VTuber学」

先日,北白川かかぽさんのチャネルで『VTuber学』を紹介するコラボ配信が公開されていた。

出演されている「ゾンビ先生」こと岡本健さんは『VTuber学』のメイン編者で,第5章の執筆者でもある。 上の配信では『VTuber学』の構成とか制作の経緯などが語られていて,なかなかに面白かった。 本を買う前にこれを見てみるのもいいかも知れない。

話を聞くに『VTuber学』は最初に「理論編」の第9章〜第13章があって,そこに辿り着くために「VTuberことはじめ」と「調査編」が加わった,という感じらしい。 だから私のように「VTuber なにもわからない」という人は本の最初から順に読み進めるのがいちばん素直ということになるだろう。

「空」としての VTuber

仏教(特に浄土真宗)で重要な概念のひとつに「空(śūnya; シューニャ)」がある。 私は仏教をきちんと修めた坊さんではないので理解が怪しい部分もあるが,「空」は必ずしも「空っぽ」とか「空しい」といったネガティブな意味ではないのだそうだ。

私が「空」について(坊さんの話などを聞いて)連想するのはタロットカード大アルカナのゼロ番目のカード「愚者1」である。

そういや「ゼロ」はインドから来た概念と聞いたことがあるが,「空」と「ゼロ」は同じ由来を持つらしい。 知らんけど。 うろ覚えですまん。

「空」とセットで語られるのが縁起思想だ。 私達にはそもそも「本当の自分」や「確固たる自分」といったものはなく2,そこから周囲の環境や関係を通して「自分」が形成される,というのが「空」と「縁」の関係らしい。 「付喪神」とかの概念に馴染みがある日本人には寧ろ分かりやすいんじゃないだろうか。

大アルカナのカードはそれ自体が独自の生死観や道徳観念を表していて,人は必ずゼロ番目の「愚者」から始まり,様々な成功や挫折を経験して成長していくが,最終的には「愚者」に還る,と聞いたことがある。 ならば「愚者」とそれ以外のカードはまさに「空」と「縁」の関係に近いのでは?

VTuber学』の調査編まで読んで思ったのは(社会現象としての VTuber ではなく)個々の VTuber はまさに「空」と「縁」を体現した存在なんじゃないだろうかということだ。

VTuber というのは,多かれ少なかれ,何らかの「設定」とともに生まれる。 企業所属の女性(女声?) VTuber はアイドルとしての容姿やキャッチコピーを引っさげてデビューすることが多いだろう。 個人勢の VTuber についても,ある程度名前が知られた存在であれば,アイドルではなくとも,某かの決まった設定を背負っていることが多いように見える。

私が子供の頃に見た1970年代80年代アイドルは,徹底的に創られた,文字通りの「偶像」だ。 だから「アイドルはう◯ちをしない」などという謎の幻想が生まれたりするし(笑),引退時の「普通の女の子に戻ります」にファン3 が衝撃を受けたりするわけだ。

今年に入って ReGLOSS の5人を中心に色々な VTuber の配信を観たりしているが,特に ReGLOSS は2023年秋のデビュー直後から,あらかじめ「設定されたアイドル」からの逸脱が垣間見え,そこが逆に「尖った個性」として人気要素のひとつになっているようにすら見える。 そうした「コンテンツとしての VTuber」とそれを使った「表現者としての VTuber」とのギャップこそが VTuber たらしめているものではないのか? と考えたりする。

「コンテンツとしての VTuber」は「空」であり,配信者4 がそれを使って活動することによって良い意味でも悪い意味でも「縁」を重ねていく。 それによって,ただのコンテンツではない,でも配信者そのものでもない「表現者としての VTuber」が形成される。

アイドルだって酒も煙草もするし配信中にくしゃみをしたりトイレに立ったりする。 口が滑って人間関係を拗らせることもあるだろう。 周囲の思惑通りに動かないからこそ「人」を感じるのであり,そこがゼロ年代の「初音ミク」やメタバースのコスプレチックな「アバター」と決定的に違う部分ではないか。

知らんけど。

さて,そろそろ「理論編」に入るかねー。

ブックマーク

参考

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VTuber学
岡本 健 (その他), 山野 弘樹 (その他), 吉川 慧 (その他)
岩波書店 2024-08-28 (Release 2024-08-28)
Kindle版
B0DBZ3QP7J (ASIN)
評価     

VTuber を歴史的観点,理論的観点から記述していく試み。多様な論者が登場してなかなか面白い。Kindle 版も横書きで読みやすい。

reviewed by Spiegel on 2024-09-16 (powered by PA-APIv5)

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VTuberの哲学
山野 弘樹 (著)
春秋社 2024-03-20 (Release 2024-04-20)
Kindle版
B0D1V1WXRH (ASIN)
評価     

VTuber を哲学的視点から記述していく試み。固定レイアウトなのでブラウザの Kindle Cloud Reader で読めるの助かる。

reviewed by Spiegel on 2024-09-15 (powered by PA-APIv5)

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フィーリングラデーション
ReGLOSS (メインアーティスト)
cover corp. 2024-09-11 (Release 2024-09-11)
MP3 ダウンロード
B0DGG9JKM4 (ASIN)
評価     

mora で高解像度版が買える。MV見て衝動買い。移動中に聴くと楽しいノリのいい曲。

reviewed by Spiegel on 2024-09-16 (powered by PA-APIv5)


  1. タロット占いの「愚者」は正位置ではポジティブな評価,逆位置ではネガティブな評価をされたりする。正位置では冒険者や開拓者を連想させるもの,逆位置では足元の崖にも気付かない文字通りの愚か者になる。 ↩︎

  2. 「本当の自分」や「確固たる自分」といったものがないから「空っぽ」なんだという意味ではなく,それは「空」という状態である,ということらしい。うーん,難しいぜ。 ↩︎

  3. 古くからある「ファン」と今の「推し」は違うらしい。アレかな? 「ファルスの享楽」と「他者の享楽」みたいな違い? 私にはよく分からない,ので今はスルーさせていただく。 ↩︎

  4. 序文だけ読んでいる山野弘樹さんの『VTuberの哲学』では VTuber の2D/3Dアバター造形を「モデル」,中の人を「配信者」と呼んでいる。アバターや中の人という言葉では VTuber 以前の文化も連想させてしまい,議論のピントがずれてしまうと考えたようだ。この辺は私も同意する。 ↩︎