「『大きすぎてつぶせない』というハック」

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Bruce Schneier 先生の『ハッキング思考』に「『大きすぎてつぶせない』というハック」という見出しの章がある。

一般の経営者や企業がリスクを判断するところを想像してみよう。成功したときの利益と、失敗したときのコストをはかりにかけ、最終的な決定ではどちらも検討するはずだ。それに対して、必要度が高すぎて破綻させられないとみなされている大企業の経営陣は、誤った判断を下した結果、避けようのないコストが発生したとしても、そのコストは納税者によって、つまりは社会全体によってまかなわれると分かっている。これは、リスクの高い意思決定を助長しかねないモラルハザードだ。うまくいけば、そうした大企業は得をする。うまくいかなったとしても、損はしないよう保護されている。「大きすぎてつぶせない」は、賭けに負けたときの保険なのである。市場システムを乱すことは間違いない。金と権力が生むひずみ。そして、ハックである。

最近「『大きすぎてつぶせない』というハック」について書かれた翻訳記事を見た。 例によってSF作家の Cory Doctorow 氏による記事の翻訳である。

こんな感じ。

Lincareは何度もMedicare詐欺で有罪判決を受けてきた。今世紀に入ってからだけでも4回の保護観察処分を受け、再び違反すれば連邦政府との取引を永久に禁止されるという「死刑条項」が付されていた。しかしいずれのケースでも、Lincareは新たな詐欺を働き、それでも死刑条項が適用されることはなかった。

なぜか。Lincareは「大きすぎて潰せない」存在だからだ。米国の医療システムは、世界一の高コストと最低水準のサービスで知られる奇妙な民営化システムだが、Medicareのような公的医療でさえ民間企業に依存している。人間の生存に不可欠な酸素供給を独占するLincareがMedicareから締め出されれば、文字通り無数の米国人が窒息してしまう。

まぁ,最後のオチは

トランプ政権は間違いなく、米国の「最悪の企業」の一部を取り締まるだろう。「米国は腐敗している」と訴えて当選した唯一の候補者を選んだ、怒れる有権者たちの期待に応えるために。だがトランプ自身は、支持者への影響など関係なく、自分への忠誠度や妨害の有無によって標的を選ぶことを明言している。

という感じに締めくくられているのだが(笑) 米国大統領選挙が終わりトランプ政権が復活した今『ハッキング思考』は改めて読む価値のある本だと思うよ。

閑話休題 (それはさておき)

私はもうテレビを全く見てないし,最近 Mastodon や Bluesky の TL でチラホラ見かける某芸能人の不祥事やそれに絡むテレビ局の騒動に微塵も興味はないのだが,見かけるたびに思い出すのが2007年の関西テレビの不祥事だ。 なんせ20年近く前の話なので若い人は知らないかもしれないが。

当時は電波免許を取り上げろみたいな論調も強かったし一時期は民放連から除名されたこともあったけど,結局翌年には民放連に再加入してるし総務省も「警告」はしたけど電波を取り上げることはしなかった。 まさに「大きすぎて潰せない」ってやつだ。 まぁ,該当する番組は打ち切りになったし関係者の何人かの首は切られたんだろうけど,概ね「何も変わらなかった」と言っていいだろう。

今回も広告主が抜けたあとはAC某で埋めてるって話だし1,引退が云々とか言ってる某芸能人も離れた広告主も,ほとぼりが冷めたらしれっと帰ってくるんだろう。 電波を取り上げろみたいな議論も聞かないし,他テレビ局等もゴシップ以上の扱いではなさそうだし(深くツッコんだら「おまえがゆーな」とか言われて藪蛇だろうし。巳年だけにw) 騒ぐだけ騒いで「何も変わらない」という点では,今回もえっと変わらんっちうわけだ,多分。

どんなメディアでも同じだけど,見る(聞く)側から見れば,その情報の価値なんて「噂」と同程度ってことよねー。 人間社会ってのはまっこと業が深い…

参考図書

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ハッキング思考 強者はいかにしてルールを歪めるのか、それを正すにはどうしたらいいのか
ブルース・シュナイアー (著), 高橋 聡 (翻訳)
日経BP 2023-10-12 (Release 2023-10-12)
Kindle版
B0CK19L1HC (ASIN)
評価     

Kindle 版が出てた!

reviewed by Spiegel on 2023-11-21 (powered by PA-APIv5)


  1. 営利企業が広告を引き上げてるのにAC某の支援団体はこの事態に文句を言ったりしないのかな? テレビに映れば背景はどうでもいいとかかな? ↩︎