本当に夏至は「太陽が一番高い日」か?
その辺の Web ページとかを見ると夏至の説明として「太陽の南中高度が一番高い日」あるいはもっと簡単に「太陽が一番高い日」と書かれていることが多い。 それを見るたびに「違うだろ!」とツッコみそうになるが,定義はともかく,現象としては間違ってないので思いとどまっている。
いや,待て。 本当に夏至は「太陽が一番高い日」なのか?
二十四節気と七十二候
まずは定義から。
夏至は二十四節気のひとつである。 もともと二十四節気は冬至を起点に1年を24分割したもので,更に二十四節気をそれぞれ3分割したものを七十二候と呼ぶ。 なので,二十四節気や七十二候は本来期間を示すもので,ある時点を指すものではない。
七十二候は明治の改暦で廃止になったが,二十四節気については少し定義を変えて現在でも公式に運用されている1。 このうち夏至については 「太陽黄経が90度となる瞬間を含む日」 と定義されている。
太陽の位置を変換する(北半球)
黄道座標系2 ($\lambda, \beta$) と赤道座標系3 ($\alpha, \delta$) との関係は,黄道傾斜角を $\epsilon$ として,以下の通り。
太陽は黄緯 $β = 0\,\tcdegree$ と見なせるので
となる。 つまり黄経 $\lambda = 90\,\tcdegree = 夏至$ のとき赤緯 $\delta$ は最大($\epsilon \simeq 23.4\,\tcdegree$)になる。
さらに赤道座標系 ($\alpha, \delta$) と地平座標系4 ($A, h$) との関係は,天の北極の高度(=北緯)を $\phi$,天体の子午線からの時角を $H$ として,以下の通り。
この式を元に季節ごとに太陽の方位と高度を視覚化したグラフが以下である。
おー。 アナレンマだ。
夏至の日の南中高度
前節の式より,ある時点の太陽の南中高度は,もっと簡単に以下の式で表される。
ここまでくれば夏至のときの太陽の南中高度が最大になることが納得できるだろう。
ただし,沖ノ鳥島など北回帰線(北緯約23.4度)より南では夏至の南中高度が $90\,\tcdegree$ を超える。 つまり天頂より北側に太陽が来る。 この場合は夏至の日の南中高度最大とは言えなくなる。
いや,待て待て待て。
これは夏至($\lambda = 90\,\tcdegree$)の瞬間に太陽が南中した場合の話であって,夏至の日の南中高度が最大になるとは限らないのでは?
こういうときは AI に教えてもらおう!
というわけで Kagi Assistant にお願いしてみた。 最初は過去10年の夏至前後の南中高度を調べてもらいたかったのだが,なんか無理っぽい感じだったので,ピンポイントに,松江市における2019年の夏至(2019-06-22 00:54JST)前後1日で調べてもらった。
| 日付 | 南中時刻 | 南中高度[°] |
|---|---|---|
| 2019-06-21 | 12:09 | 78.0° |
| 2019-06-22 | 12:10 | 78.0° |
| 2019-06-23 | 12:10 | 78.0° |
同じく松江市における2023年の夏至(2023-06-21 23:58JST)前後1日
| 日付 | 南中時刻 | 南中高度[°] |
|---|---|---|
| 2023-06-20 | 12:09 | 78.0° |
| 2023-06-21 | 12:09 | 78.0° |
| 2023-06-22 | 12:10 | 78.0° |
なるほど。 夏至前後の数日程度では南中高度はほとんど変わらないのか。 もっと有効桁数を大きく取れれば違いが分かるのかもしれないが,公開されているデータではこれが限度かな。 先程の太陽の方位と高度の図を見ても真南を中心に対称になっているっぽいし,太陽の最大南中高度が夏至の日から外れることはないのかも?
というわけで
とりあえず北回帰線以北という条件付きで,夏至は「太陽の南中高度が一番高い日」と言ってもよさそうだ。
やー,遊んだ遊んだ(笑)
ブックマーク
参考
- 理科年表 2020
- 国立天文台 (編集)
- 丸善出版 2019-11-20
- 文庫
- 4621304259 (ASIN), 9784621304259 (EAN), 4621304259 (ISBN)
- 評価
日本における令和への改元や国際単位系(SI)の定義改定などに関するトピックを多く掲載。2020年版は(保存用として)買いかも。
- 天体物理学
- Arnab Rai Choudhuri (著), 森 正樹 (翻訳)
- 森北出版 2019-05-28
- 単行本
- 4627275110 (ASIN), 9784627275119 (EAN), 4627275110 (ISBN)
- 評価
興味本位で買うにはちょっとビビる値段なので図書館で借りて読んでいたが,やっぱり手元に置いておきたいのでエイヤで買った。まえがきによると,この手のタイプの教科書はあまりないらしい。内容は非常に堅実で分かりやすい。理系の学部生レベルなら問題なく読めるかな。
- 天体の位置計算
- 長沢 工 (著)
- 地人書館 1985-09-01
- 単行本
- 4805202254 (ASIN), 9784805202258 (EAN), 4805202254 (ISBN)
- 評価
B1950.0 分点から J2000.0 分点への過渡期に書かれた本なので情報が古いものもあるが,基本的な内容は位置天文学の教科書として充分通用する。
-
地球の太陽公転面(厳密には地球-月重心の平均軌道角運動量ベクトルに垂直な面)を黄道と呼び,これを基準にした座標系を黄道座標系 (ecliptic coordinate system) と呼ぶ。地球の座標系のように黄経 (longitude; $\lambda$)・黄緯 (latitude; $\beta$)で表す。黄道に対して天の赤道は $23.4\,\tcdegree$(公転面に対する地軸の傾き,黄道傾斜角)ほど傾いていて,黄道と天の赤道が交わる点が春分点および秋分点となる。現代天文学では春分点が基準になっていて,春分点=黄経0°=赤経0°である。太陽黄経は太陽の位置を黄道座標系で表したときの黄経の値。 ↩︎
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地球の北極・南極・赤道を延長した方向を,それぞれ天の北極・天の南極・天の赤道と呼ぶ。このとき地球の経緯度と同様に,天体の位置を赤経 (right ascension; $\alpha$)・赤緯 (declination; $\delta$) で表すことができる。これを赤道座標系 (equatorial coordinate system) と呼ぶ。赤緯は天の赤道=0°を基準に、北または南へ90°までの角度で表される。 ↩︎
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地表の観測者から見て真上の方向を天頂 (zenith) と天頂を通り南北を結ぶ大円(子午線)を基準にした座標系を地平座標系 (horizontal coordinate system) と呼ぶ。地平座標系では東西南北の方位 (azimuth) と高度 (altitude または height) で表すことができる。ちなみにここで言う高度は地平面からの仰角を指し,地平面が $0\,\tcdegree$,天頂が $90\,\tcdegree$ となる。 ↩︎








