『ケアレス・ピープル』を斜め読み
Sarah Wynn-Williams 氏による “Careless People” の邦訳版『ケアレス・ピープル』が予定通り発売された。 原書の発売経緯については,以下の記事でちょろんと紹介されているので,そちらを参照されたい。
書評については Cory Doctorow 氏による以下の記事が個人的にお勧めである。
- Pluralistic: Sarah Wynn-Williams’s ‘Careless People’ (23 Apr 2025) – Pluralistic: Daily links from Cory Doctorow
- 『無頓着な人びと』――Facebookはいかにしてメタクソ化していったのか » p2ptk[.]org
“Careless People” は「思慮を欠いた人々」という意味で “The Great Gatsby” の中で使われている表現らしい。 本を開いて最初にそのものズバリな引用(村上春樹訳)が載ってて笑ってしまった。
無事に発売日に紙の本がゲットできたので週末にざっと斜め読みしてみた。 これで発禁になっても大丈夫(笑)
なんで斜め読みなのかは後述する。
Facebook 帝国の暗愚
突然だが,皆さんは異世界悪役令嬢婚約破棄ものはお好きだろうか。 私は好きである。 このジャンルは大体ネタが出尽くしてるが,組み合わせのバリエーションが面白くて,オンノベのショートショートや短編を中心に楽しんでいる。
この手の話は序盤の展開が概ね決まっていて,王族または高位貴族の男性が浮気に走り,婚約者の「悪役令嬢」に冤罪を着せて公衆の面前で婚約破棄を突きつけるというパターン1。 そして婚約破棄する男性キャラはほぼ例外なくアホボンである(笑)
というわけで,オンノベ作中の男性キャラを読んで「そんな奴おれへんやろ!」と毎度思うのだが,『ケアレス・ピープル』を読んで「ホンマにおるんかい!」ってなった。
かの本では Facebook をビリオン単位のデジタル大国と見なしているが,内容を鵜呑みにする限り,この国のトップは暗愚と言ってしまっていいだろう。
敢えて喩えるのなら,3歳児に核ミサイルの発射ボタンを持たせるようなもので,ボタンを押すかどうかは運次第といった感じである。 あらゆるハラスメントを極め,企業倫理もゼロ,グローバルサービスなのに国際感覚も皆無という,日本のブラック企業もびっくりな内容で,よくもまぁ2020年代まで生き延びられたなというのが正直な感想である。 あれか? 「大きすぎてつぶせないハック」ってやつか?
とはいえ Meta/Facebook を外側から見ても十分ダメダメ(enshittified)なのは周知のとおりなので,感情的には「やっぱそうなんじゃ」と溜飲を下げる内容かな,という感じである。
だがウィン=ウィリアムズは、Facebook上層部の3人の重要人物と、私の周囲の誰よりもはるかに近い距離にいた。マーク・ザッカーバーグ、シェリル・サンドバーグ、そしてトランプ政権発足後にグローバルポリシー担当副社長に昇進したジョエル・カプラン。この3人に対しては、公の発言や行動から本能的な嫌悪感をすでに抱いていたが、ウィン=ウィリアムズが明かす彼らの私的な振る舞いは、想像を超えて唾棄すべきものだった。
世界をアップデートする(悪いほうに)
話はガラッと変わるが「ガッチャマン クラウズ」というおじさんホイホイなアニメ作品を覚えているだろうか。 第1期が2013年の放映で,ソーシャルネットワーク・サービスが道具立てとして登場し「世界をアップデートする」がキーワードのひとつになっている。
2010年代前半は「アラブの春」から始まり,ソーシャルネットワークに対する期待感が高まっていた時期である。 まさにソーシャルネットワークは「世界をアップデートする」のだ! 「ケアレス・ピープル」の著者もこの期待感を胸に Facebook に入社する。 まぁ,その期待は絶望に変わるのだが。
確かにソーシャルネットワークあるいはソーシャルメディアは世界をアップデートした,悪いほうに。
「工学は善の実装」というのが私の座右の銘のひとつだが,『ケアレス・ピープル』を読む限り「善」を置いてきぼりにして(欲望ですらない)欲求を満たすためだけに突き進んでいる感がある。 (最近のメジャーな生成 AI サービスも含めて)メタクソ化に突き進むサービスも同様なのだろうか。
何を以って「善」とするかは難しいところだが,少なくとも IT サービスにおいて「善」は舵であり羅針盤である。 舵も羅針盤もない船はあてもなく漂流するしかない。 見方を変えれば,それは「ゾンビ」のようであるかも知れない。
きょうび,プロダクトの設計において社会学者や心理学者(AI 関連では哲学者)を巻き込むことも珍しくなくなりつつあるが,『ケアレス・ピープル』で描写される Facebook は前時代的な印象が拭えない。
ホンマ,なんでこんなのが膨大なユーザを抱えて生き残ってるんだろうね。
マイナスごじゅってん
ここまで書いてて申し訳ないが,私はノンフィクションというジャンルが好きではない。 特に政治もののノンフィクション作品は「見たんか!」ってツッコみそうになる。 いや,まぁ,綿密な取材の上で書いてるんだろうけど。
個人的にノンフィクション分野で他人にお勧めできる数少ない作品のひとつが Steven Levy 氏の『暗号化』だったりする。 なので,是非復刊してください。 Kindle 版のみでもいいから。
自伝を含む伝記ものもあまり好きではなくて,伝記ものというだけで,読む前から100点満点の50点からスタートして読み始めたり。 「ケアレス・ピープル」は子供の頃のエピソードもあって,自伝書といっていいだろう。
なのであまり真面目に読む気にならなくて,斜め読みで済ませてしまった。 あとは本棚の飾りになるだろう。 まぁ,今回は(マフィア国家によって発禁になるかも知れない本を)所有することが目的だから(笑)
私はエンジニアとしての目線で見てしまうので前節のような感想になってしまうけど,社会学とか心理学とか哲学とかの目線で見れば,また違った感想になるんだろうなとは思う。
ブックマーク
参考
- ハッキング思考 強者はいかにしてルールを歪めるのか、それを正すにはどうしたらいいのか
- ブルース・シュナイアー (著), 高橋 聡 (翻訳)
- 日経BP 2023-10-12 (Release 2023-10-12)
- Kindle版
- B0CK19L1HC (ASIN)
- 評価
Kindle 版が出てた!
- はじめて学ぶ ビデオゲームの心理学 脳のはたらきとユーザー体験(UX)
- セリア ホデント (著), 山根 信二(監修) (著), 山根 信二 (翻訳), 成田 啓行 (翻訳)
- 福村出版 2022-12-15 (Release 2023-07-03)
- Kindle版
- B0C9Z7KGRN (ASIN)
- 評価
Kindle 版が出ている。ゲームデザイナやゲームエンジニアだけでなく,ソフトウェア・エンジニアは全員読むべき。あと,ゲーマーな人も読むといいよ。感想はこちら。
- つながりっぱなしの日常を生きる:ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの
- ダナ・ボイド (著), 野中 モモ (翻訳)
- 草思社 2014-10-09 (Release 2015-07-21)
- Kindle版
- B0125TZSZ0 (ASIN)
- 評価
読むのに1年半以上かかってしまった。ネット,特に SNS 上で自身のアイデンティティやプライバシーを保つにはどうすればいいか。豊富な事例を交えて考察する。
- ソーシャル・ネットワーク (字幕版)
- ジェシー・アイゼンバーグ (出演), アンドリュー・ガーフィールド (出演), ジャスティン・ティンバーレイク (出演), アーミー・ハマー (出演), マックス・ミンゲラ (出演), David Fincher (監督), Scott Rudin (プロデュース), Dana Brunetti (プロデュース), Michael De Luca (プロデュース), Cean Chaffin (プロデュース)
- (Release 2013-11-26)
- Prime Video
- B00FW5SSCK (ASIN)
- 評価
この映画が公開された当時(2011年)は日本でも Facebook が一般(特に年配層)に浸透し始めていたときで,スクリーン上の狂騒に苦笑したものだが,その Facebook が広告まみれの駄システムに堕ちてしまうとは誰も思わなかっただろうな(笑)
- 暗号化 プライバシーを救った反乱者たち
- スティーブン・レビー (著), 斉藤 隆央 (翻訳)
- 紀伊國屋書店 2002-02-16
- 単行本
- 4314009071 (ASIN), 9784314009072 (EAN), 4314009071 (ISBN)
- 評価
20世紀末,暗号技術の世界で何があったのか。知りたかったらこちらを読むべし!
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そもそも封建制度下の王族や貴族の子女が男女共学かつ集団面接型の学校に通うこと自体が(SF で宇宙船が光速を超えて航行する程度には)ありえない話だと思うのだが,深くはツッコむまい(笑) ↩︎





