SF は(オ)カルトと親和性が高い

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(タイトルは釣りです。いや,本気で怒る人がいるかもしれないので,予防線を張っておく)

SF は(オ)カルトと親和性が高い

このブログでは時々言及してるけど,私等の世代は1970年代から1980年代にかけてのオカルトブームにどっぷり浸かった子供時代を過ごした。 幽霊や妖怪なんかは(それ以前から)定番だけど,1970年代以降は UFO や超能力などパッと見は科学的(?)に見えるものがブームになった点が特徴と言えるかもしれない。

そういった「パッと見は科学的に見える」オカルトはファンタジーより寧ろ SF と結びついた(ネタ消費ではなくガチ議論で)。 それこそUFOや超能力をテーマにしたSF作品が掃いて捨てるほど湧いて出た時代であった。 今でこそガンダムの「ニュータイプ」なんかは消費ネタでしかないが,当時はガチで議論してた人も多かった。 ガンオタって昔からキモいよねー(笑)

オカルトと結びついたSFは,更にカルトを呼び込む1。 日本に於いてこれの典型と言えるのがオウム真理教である2。 彼らがオカルト&SFな教義と科学的知識で以って化学兵器テロを実行した事件は,社会に大きな衝撃を与えた。

指輪右翼?

なんでこんな益体もない昔ばなしから始めたかというと,以下のポストを(Bluesky 経由で)見かけたから。

指輪右翼? って何だ? というわけで Kagi Assistant に訊いてみたら以下の記事を紹介してくれた。 2023年の記事。

以下は Kagi Assistant による大雑把な要約。

「Right-Wing Rings of Power」 は,『指輪物語』のイメージや用語が,現代の保守派・リバタリアン・極右寄りの人物によって,政治的・経済的な思想の説明や正当化に利用されているという内容の記事です。

南カリフォルニア大学で国際関係の教授を務める Patrick James は,ほぼ全てのイデオロギーグループがトールキン作品に何らかの共鳴点を見出すことができると言ってるらしい。

Patrick James is the author of The International Relations of Middle-earth, an analysis of real-world geopolitics through the lens of Lord of the Rings. Also a professor of international relations at the University of Southern California, James says that nearly any ideological group can find something to latch onto in Tolkien’s works.

記事では Peter Thiel (PayPal や Palantir の共同創業者) と Palmer Luckey (Anduril の創業者) と Giorgia Meloni (イタリアの首相) の3人を例に挙げて解説している。 めちゃめちゃ面白い内容なのだが,ちょっと長いので,ここでは Kagi Assistant による要約を挙げておく(是非原文を読んでみて欲しい)。

1.ピーター・ティールと「自由なホビット」

記事が最初に取り上げるのは,PayPal共同創業者で,データ分析企業Palantirの共同創業者でもあるピーター・ティールです。

ティールらは,政府による介入の少ないホビットたちの生活を,理想的な社会に近いものとして捉えています。『指輪物語』の中つ国には,現代国家のような官僚制政府がほとんど存在せず,自由な諸種族が独自に判断してサウロンに対抗するため,これをリバタリアン的な世界として読むわけです。

その影響は企業名にも表れており,Palantirは作中の「見る石」に由来します。ただし記事は,作中ではパランティアが危険で悪の勢力に利用される道具である点を指摘し,現実のPalantirが監視や軍事・治安分野で使われていることとの皮肉な対比を示しています。

2.パーマー・ラッキーと「アンドゥリル」

次に登場するのが,防衛・軍事技術企業Andurilの創業者パーマー・ラッキーです。

Andurilという社名は,『指輪物語』でアラゴルンが使う剣に由来します。記事によれば,ラッキーやティールにとって,こうした命名は単なるファン活動ではなく,トールキン世界に見出した「自由な個人や共同体が,強大な悪や権威に立ち向かう」という政治的イメージの表現です。

記事は一方で,PalantirやAndurilのような企業が,AI,監視,軍事技術を国家機関に提供していることを問題視しています。つまり,『指輪物語』の英雄的・反権威主義的なイメージを掲げながら,現実には国家の監視・軍事能力を強化する企業活動に関わっている,という緊張関係を描いています。

3.ジョルジャ・メローニと文化的同一性

記事は,イタリアのジョルジャ・メローニ首相も,トールキン作品から政治的な着想を得ている人物として紹介しています。

メローニは,トールキン作品に登場する種族ごとの固有の文化やアイデンティティを,「それぞれの違いを保つ価値」として捉えています。そして,この考えをヨーロッパ各国の主権や文化の独自性を守る議論へと拡張し,グローバリゼーションへの対抗と結びつけます。

記事はさらに,『王の帰還』の終盤で,ホビットたちが故郷のホビット庄に戻ると,そこがサルマンたちによって工業化され,荒廃させられていた場面にも触れます。メローニのような政治家にとって,この場面は,外部からの画一化や過度な近代化に対する警告として読める,という趣旨です。

もちろん J.R.R. Tolkien はそのような意図で「指輪物語( Lord of the Rings)」を書いたわけではない(らしい)。

Still, Tolkien didn’t intend to explicitly inject his politics into Middle-earth. In a forward written for the 1965 republication of Lord of the Rings, Tolkien wrote: “As for any inner meaning or ‘message,’ it has in the intention of the author none.”

He continued: “The prime motive was the desire of a tale-teller to try his hand at a really long story that would hold the attention of readers, amuse them, delight them, and at times maybe excite them or deeply move them.”

作者が思ってもいないことを「深読み」して,手前勝手な解釈を与えるってのは,まさしくオタクの所業だよな。 しかも「やっかい」なほう3(笑)

Their interpretations of the text do not reveal a right-wing underbelly to Middle-earth, but they might highlight the vast chasm between what is in front of them and what they want that world to be.

As James puts it, “The amazing thing is that what you see in Lord of the Rings says more about you than it does about the storyline.”

日本でオカルトとSFが結びついて厄介なカルトを生み出したように,海の向こうではファンタジーとSFが結びついてカルト紛いの集団を生み出しているという解釈はどうだろうか。

しかし、現在のシリコンバレーとディックの作品世界との親和性はそうした笑えるレベルには収まりません。上で名指しされているイーロン・マスクだけでなく、終末論に執着し、反キリストについて講演してまわるピーター・ティールにしろ、テクノロジーに対する半ば宗教的な信条を綴るのに「ファシスト宣言」の主著者を「守護聖人」として持ち出すマーク・アンドリーセンにしろ、Metaの従業員とやり取りできる自身のAI版の開発に取り組むマーク・ザッカーバーグも、いずれ劣らずディック的です。それに何より、トランプ政権下における政治的不安定が、ディック的現実崩壊感を確かなものにしています。

オタクは徳ではなく業を積む。


  1. カルトオカルトは語源が違うらしい。浄土宗の辞典にもカルトオカルトの項目があってちょっと笑った。 ↩︎

  2. オウム真理教の設立は(登記上は)1989年とされているが,それ以前,1980年代初頭には既に色々とやらかしていたらしい。私の学生時代にも,その手のカルト組織の情報が注意喚起として飛び交っていた。広島ではヤクザとカルトに気をつけろ(笑) ↩︎

  3. もっとも Tolkien も割と粘着質な性格だと聞いたことがある。本当にそうなら,オタクが作品に群がるのも仕方ないかもしれない(笑) ちなみに私は,あの手のファンタジーは苦手なので,真面目に読んでない。 ↩︎