本は墓場まで持ち込めない

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これはもう「激しく同意」と言わざるを得ない。

なので,この前書いたばかりだけど,改めて読者という立場で書かせてもらおう。

本は墓場まで持ち込めない

言っておくが私は非常に物持ちがよい。 というか「物を捨てられない」という残念な性癖の持ち主である。 これは特に本において顕著になる。 その結果がこれである。

確かに当時の仕事部屋はひどい魔窟になっていて,4つある本棚はとっくの昔に over capacity。 床には「本の蟻塚」がいくつも林立していた。 これを泣く泣く処分したのですよ。

で,思った。

どうせ本は墓場には持っていけないんだからEブック1 で買えばいいじゃない2

これ以降,漫画とラノベに関しては紙の本を買うのを止めた。 そしてEブックで出ていないものは「存在しない」ものと見なして無視している。

昨年末の時点で購入した Kindle 本は800冊を超えた。 Kindle 本以外のEブック(論文,報告書等を含む)も200冊近くになる。 一方,昨年1年間で買った紙の本は10冊に満たない。 紙の本は大量に処分したので来年か再来年くらいにはEブックの割合は紙の本を上回るだろう。

紙の本にも利点はあるが絶対的に有利というわけではない

紙の本にも利点はある。

職場,特に電子機器の持ち込みが禁止されているセキュリティ・エリアでは紙の本を持ち込むしかない。 なので仕事に絡む解説本やリファレンス本などは紙で買っている。 あるいは何もない無人島に本を持っていくなら紙の本がいいだろう。

逆に言うと,紙の本が有利なのはそこくらいしかない3 4 5

読者は作家や出版社から言いなりに搾取される「消費者」ではない

作家にも生活がある。 そんなことは分かっている。 しかし,その本がお金を払うに値するものか判断するのはあくまでも読者である。 「作家が生活に困るから紙の本を買ってくれ」というのは全く以って不合理である。

そういえば最近,どこぞの芸人がクラウド・ファンディングで資金調達して作った絵本が話題になったそうだが(芸能ネタはよく知らない。ゴメン,ペコン),クラウドファンディングに参加するというのは読者が作家に対して投資するってことなのよ。 そして投資に値しない作家やその作品に読者が投資するはずがない。

本を出版するというのは作家やその作品を如何にしてプロデュースし読者に届けるかということである。 届ける努力をせずに漫然と「売れない」「評価されない」などと言うのは明確に怠慢であり,読者から見れば「知らんよ,そんなもん」としか言いようがない。

「紙かデジタルか」ではなく「紙もデジタルも」

前にも書いたが日本におけるEブックの割合は3割に届かない程度で落ち着きそうだ。 なのでEブックだけで賄えるわけはないが,かといって無視できる規模でもない。 広く読者に届けたいのなら「紙かデジタルか」ではなく「紙もデジタルも」で考えなければならない。

読者傾向をきちんと把握した上で「うちはEブックでは出さない」というならそれでも OK だ。 これまで述べたようにEブックで読む読者にとって紙の本は存在しないのと同じである。 存在しないものに文句を言う筋合いはない6。 しかしEブックで出すのならEブックを売る努力をすべきだし,その結果を正しくフィードバックさせなければならない。 これこそまさに PDCA サイクルというやつである。

昨年の映画「火星の人」のように, KDP で自己出版した作品がハリウッド映画になっちゃう時代なのよ。 作家も出版社も,そろそろ自身の身の振り方を真剣に考えたほうがいいんじゃないのか。 いや,すでにそうしてる作家さんも多いんだろうけど。

君たちはいったい誰を相手に商売しているの?

「店の経営が危ないので新メニューを作ったよ!!みんな食べに来てね!!」と言っておきながら、いざ客が店に来てそれを注文すると「それ頼まれても赤字やねん。店の経営にとってマイナスやねん。注文されるだけ迷惑やねん。だからお前いつものマンネリでうまくもないメニュー頼めや俺を殺す気なのかお前ついでにそれ食ったら客の呼び込みとチラシの制作も無料でやってくれや」と、食べてる横で延々と店主が愚痴る料理店。
そんなもん知らんがな

いや,まったくもってその通り。

最後に

作家と出版社を貶すだけでは不公平なので,最後にこれは言っておこう。

Kindle Unlimited はクソ

Amazon.co.jp はいったい何がしたいのだろうか。 私は無料期間満了時に削除した。

ブックマーク

参考図書

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アメリカの電子書籍“ブーム”は今 (カドカワ・ミニッツブック)
大原 ケイ (著)
ブックウォーカー 2014-05-15 (Release 2014-05-15)
Kindle版
B00KAOQXTS (ASIN)
評価     

『ルポ 電子書籍大国アメリカ』の続編的な位置づけ。2013年米国の出版状況の分析と今後についての予測。

reviewed by Spiegel on 2014-10-18 (powered by PA-APIv5)

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ルポ 電子書籍大国アメリカ (アスキー新書)
大原 ケイ (著)
アスキー・メディアワークス 2010-09-09
新書
4048689606 (ASIN), 9784048689601 (EAN), 4048689606 (ISBN), 9784048689601 (ISBN)
評価     

絶版ですってよ,奥さん。「電子書籍」の話なのに Kindle 化すらされず絶版するとか笑えないギャグである。当時の状況を伝えるいい本だと思うんだけどねぇ。達人出版会さんとか拾ってくれないかな(笑)

reviewed by Spiegel on 2020-01-12 (powered by PA-APIv5)

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犬とハサミは使いよう (ファミ通文庫)
更伊 俊介 (著), 鍋島 テツヒロ (イラスト)
KADOKAWA 2011-08-25 (Release 2012-09-07)
Kindle版
B009IMAGYQ (ASIN)
評価     

犬になっても本を読む!

reviewed by Spiegel on 2015-04-26 (powered by PA-APIv5)


  1. 「電子書籍」は官製用語なので「Eブック」で統一させていただく。 ↩︎

  2. もちろんサービスの持続性の問題や DRM の弊害なども承知している。それらを踏まえた上で「墓場には持っていけない」と割り切っている。本を文化として後世に残す意義はもちろんあるが,それは読者の仕事ではない。幸いなことに日本では国会図書館がそれを担ってくれている。ありがとう! ↩︎

  3. 美術本は紙の方が発色という意味で有利かもしれないが,この辺はよく分からない。もっとも美術本やイラスト本は「読む」というより「所持する」ことに意義があると言えるかな。蒐集家向きかも。 ↩︎

  4. (1月18日追記)ひとつあった。現時点で紙の本の(読者にとっての)大きな優位性。それは「紙の本は消尽する」ということだ。たとえば本を売れば手元から本はなくなる。友達に貸せばやはりなくなるが返してもらえば戻ってくる(貸した相手からはなくなる)。これは結構重要な機能で,現行著作権は「著作物は消尽する」ことを前提にしていると言ってもいい。しかしデジタルデータはコピーはできるが消尽しない。コピーとオリジナルの間に差異はないからだ。故に売買や貸借の意味が変化してしまう(いわゆる DRM はコンテンツホルダーとユーザの間のコントロールであり,ユーザ間のコントロールを前提としていない)。これを補償する方法としては,作品の配布をサブスクリプション制にすることが考えられる。「水のように」作品にアクセスできるのであれば売買や貸借を考える必要がなくなる。実際に音楽や映像の分野では定額のサブスクリプション・サービスが比較的うまく機能しているように見える。個人的には Kindle Unlimited がこれを実現するのかと思っていたが,どうやら違うようである。 ↩︎

  5. (1月18日追記)コメントからの指摘。リージョンロッキングの問題があった。完全に失念していた。ゴメンペコン。紙の本なら個人輸入でも何とでもなりそうなところが DRM 付きのEブックでは出版社または小売り(Amazon 等)レベルで簡単にフィルタリングされてしまう。もちろん非合法な経路(違法アップロードなど)なら入手できるんだろうけど「法を破ってまで」というのは一般的ではないだろう(中国みたいに「知財権? なにそれ美味しいの?」みたいな国なら別だろうけどw)。一方で日本の漫画などは表現が自由すぎて他国のレーティング基準に合わないものが多いらしい。全面的には輸出しづらいわけだ(COOL JAPAN など遥か昔の話)。その辺の基準が透過的になればいいんだろうけど,リージョンロッキングについてはある意味で無法状態なので,何とかしてほしいところではある。米国本家の Amazon では Amazon Channels で日本アニメの専門チャネルができたそうだが,そういう感じで日本の本とかも展開できないのかねぇ。 ↩︎

  6. 電子書籍の正体』とかね(笑) ↩︎