漫画は衰退しました

no extension

日本の新聞系サイトにはリンクしないことにしているので(すぐ切れるから)具体的な記事を示すことはしないが,漫画単行本の売上高が前年から急激に落ち込んだそうな。 つってもいわゆる「取次」のデータみたいなのでEブックは勘定に入ってないだろう。

ちなみに私は,2年前に大掃除して以降,竹本泉作品1 以外の漫画単行本は全て Kindle で買っているため,上記の売り上げにはほとんど貢献していないザマミロ。

さて,この件について2つの議論があると思う。 すなわち

  1. 海賊版サイトは本当に本の売り上げを横取りしているのか
  2. 「漫画」はジャンルとして衰退しているのではないか

である。

海賊版サイトは本当に本の売り上げを横取りしているのか

件の記事では「海賊版サイトの横行」が売り上げ減の原因であると断じている。 ただし具体的なデータはほとんど提示されず(なぜ「海賊版サイト」のデータを載せないのだろう)。 売り上げ減を示すというグラフはあったが縦軸が何か分からない(単位のみが書いてある)。 仮に縦軸が「前年比」だとしても,2010年から2014年がたまたま下げ止まってただけで全体的には順調に下げが加速しているとしか見えない。 むしろ2010年から2014年の間に何があったかのほうに興味が沸く。

ところで海賊版について最近,面白い記事が公開されている。

このうち漫画については日本市場の話しかないのだが2,「漫画村」(かつてのフリーブックス)を例に挙げて以下のように述べている。

漫画村にまつわる最大の問題は、代替する正規サービスが存在しない、ということである。よくありがちなのは、「その作品なら電子書籍があるよ!」という反論なのだが、それが通用するなら、漫画は紙で買えばいいし、音楽はCDで買えばいいし、映画はDVDで買えばいい。ユーザの利便性を無視し、不便さを押し付ける手段はソリューションにはなりえない。

じゃあ「代替する正規サービス」って何? って話になるが,これについても

いくら海賊版を潰そうとも、不満が解消されない限り、海賊版は生み出され続ける。コンテンツビジネスは可能な限り幅広いユーザ層の顕在的、潜在的な不満を解消し、利便性の高いサービスを提供することを基礎としなくてはならない。そうすることで、海賊版流通の規模を抑制し、新たな顧客を開拓し、ひいては持続可能なビジネスモデルを構築することにつながるのだろう。

と締めくくっている。 つまり紙であれデジタル・データであれ「コンテンツを売る」商売というのはもはや斜陽を迎えており,世界はコンテンツのカタログ化やアクセス性を含めた「サービスを売る」商売へとシフトしているということである3。 そのシフト・チェンジに漫画出版は全く乗れていないというわけだ4

そもそも「漫画」はジャンルとして衰退しているのではないか

ところで,そもそも漫画作品って(海賊版等も含めて)読まれてるの? って疑問がある。 これについてちゃんと応えられる定量的なデータは今のところ存在しないと思われる。 出版といっても(KDP 等により)自己出版されるものは ISBN が付かないから統計にカウントされないし,そもそも個人サイトや Pixiv 等で公開されている個人作品はどうやってカウントすればいいのか分からないだろう5

ただ「漫画の読み方が分からない」とかいう話は随分昔から聞こえるし,一部のオタクが大量消費してるだけで,言うほど読まれてないんじゃないかという気もする。 どうなんだろう。

ここで自分のことを振り返ってみると,昨年はビックリするほど漫画を読んでなかった。 単行本購入についても,慣性で買ってるもの(好きな作家さんの作品や今まで買ってる作品の続編)やラノベのコミカライズを除けば米田和佐さんの『だんちがい』シリーズのまとめ買いくらいで,これも Kindle の投げ売りセールで買ったものだ。

そもそも漫画雑誌を買わなくなった。 よく引き合いに出される「少年ジャンプ」はもう30年近く読んでない。 前はよく読んでいた4コマ誌も Kindle 版かアプリ化されたものしか読まなくなった6。 おかげで資源ごみが減って助かっている。

その代わりに耽溺しているのが「小説サイト」である。 Kindle で作品を読む → あとがきで紹介されている Web 版も読む → Web 版の関連作品を読む → 面白かったら Kindle 版を買う というサイクル。 最近はシンデレラ世界へ転生する話がお好みだったり。

「小説サイト」で作品を眺めた後で漫画を読むと酷く読み辛い感じがする。 歳をとった今なら「漫画の読み方が分からない」という言葉の意味が少し分かるような気がする。 やはり「紙」の制約(=構造)に大きく依存する漫画というのは,他のジャンルに比べて不利なのかもしれない。

漫画はメディアになれるか

今や作品は「コンテンツ」から「メディア」に変わりつつある。

昨年初めからの「けものフレンズ」を巡るムーブメントもそうだし,一昨年の PPAP や昨年末に盛り上がった「バーチャル YouTuber」なんかは典型的だろう。 遡れば「初音ミク」もそうだったかもしれない。 ゲームはとっくの昔に社交空間になっている。

映像や音楽や小説(ラノベ等も含めて)もサービスに乗せることでメディアとして機能しはじめ,作品というメディアを中心とした生態系が出来上がる。 発酵していくわけだ。

漫画はメディアになれるのだろうか。 それとも「紙」に閉じ込められたまま図書館に死蔵されたり資源ごみとして捨てられたりするのだろうか。 全ての漫画がメディアになれとは言わないが,後者しかいないなら間違いなく衰退する。

何がいいたいのかというと、出版社は、自社で囲い込むことも、紙も諦めて、業界で団結して漫画サブスクリプションはじめたほうがいいよ、ということである。残念なことに、音楽や映画と違って、この分野の需要は世界的なものではないので黒船を待ってても仕方ない。このまま衰退するか、向こう数十年漫画文化を守る新たな仕組みを作るか、という瀬戸際にあるのだが、出版社の経営陣はどう考えているのだろうか。漫画文化が殺されるのだとしたら、海賊版によってではなく、彼らの優柔不断さによってではないだろうか。

まぁ隆盛を極めたジャンルが衰退するのを目の当たりにできるというのは滅多にない経験かもしれないが(笑)

参考図書

photo
情報共有の未来
yomoyomo (著)
達人出版会 2011-12-30 (Release 2012-02-19)
デジタル書籍
infoshare (tatsu-zine.com)
評価     

同名ブログの書籍化。感想はこちら

reviewed by Spiegel on 2012-11-03


  1. 竹本泉作品は紙の本と Kindle 版を両方買っている。我ながら業の深いファンだという自覚はある(笑) ↩︎

  2. 海外では漫画の需要はさほど高くないんだとか。また供給したくてもレーティングや言語等の問題で上手く売りこめないらしい。英語横書きならコマの進め方も左から右になるしね。それでも紙の本なら個人輸入という手もあるが DRM のかかった電子版ではリージョン・ロックされるので「輸入」すらできない。 COOL JAPAN とか昔話である。 ↩︎

  3. 最近では「サービスとしての◯◯」というのを総称して “XaaS” と呼ぶらしい。つまりコンテンツ・ビジネスも XaaS へシフトしている,と言い換えることもできる。 ↩︎

  4. もっと言うなら,このシフト・チェンジに現行著作権システムは全く追従できていない。米国が fair use を駆使してかろうじて追従しているが,そろそろ限界だろう。この辺の話はそのうちできたらいいなぁ。 ↩︎

  5. 今期アニメで意外と人気らしい「ポプテピピック」もネット上(まんがライフWIN)での連載だな。まぁアレは出版社のサイトだからカウントしやすいだろうけど。 ↩︎

  6. 4コマ漫画はアプリ化しやすくていいよね。コマの進行も下方向しかないので海外展開しやすそうだし。 ↩︎