本当は怖い Blockchain
なんか Twitter の TL を眺めていると不穏な話ばかり流れてくるのだが,そもそも「デジタル庁」なるものは最初の1フィートで間違えている印象である。 その中でも気になるのが Blockchain が云々とかいう話で,老婆心ながらこの記事でも言及しておく。
そもそも Blockchain は「通貨」の性質を持つデジタル・トークンの「取引」を扱うための仕組みで,本来は他に転用できない。 トークンが「通貨」の性質を持つことに意味があるからだ。
では,それ以外の部分で Blockchain の特徴と言えるものをいくつか挙げると
- 追記型データベースで,追記されたデータについて完全性(integrity)を保証する
- PoW (Proof-of-Work) によって追記するデータが正しい(誤りがない)ことを保証する1
- PoW の対価として「通貨」の性質を持つデジタル・トークンを振り出す(または手数料を払う)
- PoW の結果の正しさは多数決で保証する
- 非中央集権型(decentralization)かつ peer-to-peer なシステム構成を前提とする
- 不特定多数が参加することを前提とする
- データベースのコピーは自由だが分岐(fork)は無用
- 公開鍵を ID としてそのまま用い,鍵の証明(certification)を行わない
といったところだろうか。
なお,3番目から5番目までは2番目の PoW を達成するための要件である点に注意。 まぁ Blockchain 本家である Bitcoin は既に3番目と5番目の要件が瓦解しているのだが(笑)
6番目についてもう少し詳しく書くと Blockchain は ID となる公開鍵が誰に帰属するかについて全く関知しない。 Blockchain が気にするのは取引履歴の一貫性と無矛盾性であり,この要件が達成されているなら取引を行ったのが「誰か」なんてどうでもいいのだ2。
しかし実際には取引の主体となる「誰か」という情報は最重要であると言っていい。 したがって ID と「誰か」を関連付ける別の仕掛けが必要となる。 たとえば「ウォレット・サービス」とか「交換所」とか。
Blockchain で「取引」を追記するためには当事者の秘密鍵で電子署名する必要があり,もし「交換所」等でそれを肩代わりしてもらうなら秘密鍵を預けなければならない(key escrow)。 まぁ銀行に通帳とキャッシュカードを預けるみたいなもんだね。 鬼畜(笑)
さて,ここで問題。
- 中央集権的またはアクターが構造化されたシステム
- 特定の「誰か」のみシステム内部にコミットできる
- データの分岐(fork)を許容する
という3条件のいずれかの下で Blockchain を応用したシステムを導入したら何が起きるか。
……
正解は「不正」と「腐敗(不正の常態化)」。 何故なら PoW 達成要件を満たさないから。
行政システムなんてまさに上の3条件に当てはまるよね。 それで Blockchain を導入するとか,システムとして「不正」と「腐敗」を許容する,と言っているに等しい。
あー,コワイコワイ。
ブックマーク
参考図書
- 信頼と裏切りの社会
- ブルース・シュナイアー (著), 山形 浩生 (翻訳)
- NTT出版 2013-12-24
- 単行本(ソフトカバー)
- 4757143044 (ASIN), 9784757143043 (EAN), 4757143044 (ISBN)
- 評価
社会における「信頼」とは。
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PoW の代替となる PoS (Proof-of-Stake) というのもあるが,ここでは割愛する。 PoS をザクッと説明すると「金持ち(の行動)は信用できる」とする仕組みだ。その通貨システムの「金持ち」なら不正をしてまで信用を破壊しないだろうという,ある意味で性善説(笑) ↩︎
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Bitcoin/Blockchain の「公開鍵が誰に帰属するかについては全く関知しない」という特徴を以って,これを匿名的なサービスと言っていた人も昔はいたが, Blockchain の外側で ID (=公開鍵) とそれが帰属する「誰か」を紐付けることができるなら, Blockchain を解析してその「誰か」がしたことは分かるわけだ。実際にそういう調査を行う会社とかも存在する。 ↩︎