Blockchain/Bitcoin は何だったのか

no extension

Twitter で小耳に挟んだ話なのだが,某出版社から出る(出た)いわゆる Web3 本がかなり愉快な内容らしく,回収するとか何とか。 勿体ない。 論文とかなら出し直しもやむなしだろうが,その程度の本なら回収までしなくても「緊急改訂」とかでいいと思うのだが。 それも「歴史」だよ。 本を書いた方は後年黒歴史として悶絶してしまうかもしれないが(笑)

私自身は NFT にも Web3 にも大して興味はないが,折角なので Blockchain/Bitcoin について色々と放言しておこう。 書籍出版で許されるんだから辺境のブログで書くくらい構わんじゃろ。

この記事については,いつも以上に内容の正しさを保証しません。
マジに受け取らないでね(予防線)

脱中央集権「社会」など来ない

「黄色矮星人は2人いれば力比べを始め,3人いれば派閥を作る1

Blockchain 技術を含むプロダクトについて語られるとき,必ずと言っていいほどよく出てくるフレーズが「非中央集権」あるいは「脱中央集権」である。

しかし,考えてみてほしい。 そもそも「インターネット」は脱中央集権的な思想で設計されたものなのだ。

もし今日のインターネットが実際にこの理論に近い状態であれば,メッシュネットワークは余計ものだったろう。 だがインターネットが当初の学術目的から踏み出して現在のような誰でも使える商業サービスになってから20年以上が経つうちに,そうした蓄積伝送の原理が果たす役割は,一貫して縮小していった。

 この間,ネットワークに加わる新たなノードの圧倒的多数はISPを介してネットに接続する家庭や企業のコンピューターだった。 ISPの接続モデルでは,利用者のコンピューターはデータの中継はしない。 それはネットワークの端末,つまりデータの送受信だけを,常にISPのコンピューターを介して行うターミナル・ノードだ。 言い換えれば,インターネットの爆発的な成長はネットワーク地図に行き止まりのルートを増やしただけで,新たなルートを加えることはほとんどなかった。

 そしてISPなど大量の情報ルートを持つ者は,彼らがルートを提供している何百万ものノードを支配下におくこととなった。 これらのノードは,もしISPがダウンしたり,ネットから遮断されたりすると,その障害を回避する方法がない。 ISPはインターネットが停止しないようにするどころか,実効上は停止スイッチになってしまった。

そして Blockchain/Bitcoin もインターネットと同じ末路を辿る。

Bitcoin でスーパーの醤油は買えない

Bitcoin がシステムとして成立する条件は

  1. 不特定多数が参加
  2. 全てのユーザが唯一の「台帳」の完全なコピーを持つ
  3. ユーザ同士の peer な接続
  4. PoW への平等参加

あたりだろう。 これをぶち壊したのが「交換所」の存在である。

最初の頃,私は Bitcoin を「デフレ型補完通貨」と定義していた。 補完通貨はゼロ年代に「地域通貨」と呼ばれていたことがある。 流行ったよねぇ,地域通貨(笑)

また Bitcoin は最終的な「総量」が決まっているため,必然的に「デフレ型」となる2

しかし実際には Bitcoin 自体は補完通貨にならなかった。 昔は Bitcoin で決済できる小売店とかあったと聞くが,今はそんなお店はないだろう。

Bitcoin を日常生活で使うためには法定通貨に「両替」する必要がある。 故に「交換所」の登場は必然だった。

その結果なにが起こったかというと,交換所を利用する多くのユーザは上述の4つの条件を満たす player ではなくなってしまったのだ。 これは Bitcoin システム全体のアクターが hierarchical に構造化したことを意味する。

インターネットが商業化された際に多くのユーザが ISP にぶら下がる「端末」になり下がり,インターネットに「参加」する player ではなくなった状態とまさに同じである。

それは「通貨」ではない

さらに言えば,2018年の G20 ブエノスアイレス・サミットの首脳宣言で「暗号資産(crypto-assets)」という表現が出て以来「それら」は通貨ではなく資産として認知されるようになった。 こう考えると NFT (Non-Fungible Token) の登場は寧ろ必然だったと言えるだろう。 ぶっちゃけるなら「デジタル証券バブル」の台頭とでも言おうか(笑)

日本政府が妙に Web3 や NFT を推しているのは「バブル時代よ,もう一度」という願いなのだろうか。

技術で社会は変えられない

私自身は与しないが,「交換所」を中心とした hierarchical な構造化も「デジタル証券バブル」も批判するほどのものではない。 しかし,もし Blockchain/Bitcoin が「脱中央集権」的かつ国家から独立した「補完通貨」を目指していたとするなら,この結末は完全に失敗だったと言えるだろう。

結局 Bitcoin などの Blockchain 実装を通じて分かったのは「計算機パワーと情報力の強いものが勝つ」という身も蓋もない話で,それは今までの暴力による民衆統治や経済力による市場支配と何ら変わらない。 そこを見ないで「脱中央集権」が云々とかヘソで茶が沸いてしまう。

ジャック・ドーシーの批判は、「Web3を所有するのはベンチャーキャピタルとその投資先の企業であってウェブユーザーではなく、結局は中央集権型のものに別のラベルを貼っただけ」と続き、Andreessen Horowitzの共同創業者マーク・アンドリーセンにTwitterでブロックされ、それを自慢するというダメなTwitter芸を見せるオチがつきました
「誰かがブロックチェーンで何かを解決できると言う場合、その人はその『何か』を理解していないので無視してかまわない(ウィーバーのブロックチェーンの鉄則)」

インターネットにしろ Blockchain/Bitcoin にしろ,脱中央集権的な「システム」を構築することはできるのだろう。 しかし私達が暮らすのは「社会」である。 社会が「脱中央集権」を望まないのであれば,土台がどうあれ,そこに到達することはない。

私は「技術で社会は変えられない」と思っている。 社会を変えることができるとすれば,それはあくまでも「人」の行いである(道具・手段としての技術の意義はあると思うけど)。 インターネットや Blockchain/Bitcoin は奇しくも私のこの妄言を補強する事例となっている。

ブックマーク

参考図書

photo
グリゴリの捕縛
白田 秀彰
2001-11-26 (Release 2014-09-17)
青空文庫
4307 (図書カードNo.)
評価     

白田秀彰さんの「グリゴリの捕縛」が青空文庫に収録されていた。 内容は 怪獣大決戦 おっと憲法(基本法)についてのお話。 古代社会 → 中世社会 → 近代社会 → 現代社会 と順を追って法と慣習そして力(power)との関係について解説し,その中で憲法(基本法)がどのように望まれ実装されていったか指摘してる。 その後,現代社会の次のパラダイムに顕現する「情報力」と社会との関係に言及していくわけだ。

reviewed by Spiegel on 2019-03-30 (powered by aozorahack)

photo
もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来
yomoyomo (著)
達人出版会 2017-12-25 (Release 2019-03-02)
デジタル書籍
infoshare2 (tatsu-zine.com)
評価     

WirelessWire News 連載の書籍化。感想はこちら。祝 Kindle 化

reviewed by Spiegel on 2018-12-31

photo
マスタリング・イーサリアム ―スマートコントラクトとDAppの構築
Andreas M. Antonopoulos (著), Gavin Wood (著), 宇野 雅晴 (監修), 鳩貝 淳一郎 (監修), 中城 元臣 (監修), 落合 渉悟 (監修), 落合 庸介 (翻訳), 小林 泰男 (翻訳), 土屋 春樹 (翻訳), 祢津 誠晃 (翻訳), 平山 翔 (翻訳), 三津澤 サルバドール将司 (翻訳), 山口 和輝 (翻訳), 宇野 雅晴 (翻訳), 鳩貝 淳一郎 (翻訳)
オライリージャパン 2019-11-30
単行本(ソフトカバー)
4873118964 (ASIN), 9784873118963 (EAN), 4873118964 (ISBN)
評価     

噂の「Web3」の基礎学習のために版元からデジタル版を購入。最初の章で挫けそうになっている(笑)

reviewed by Spiegel on 2022-07-27 (powered by PA-APIv5)


  1. 「黄色矮星人は2人いれば力比べを始める」というのはSF作家の野尻抱介さんの著作でよく出てくるフレーズ(多分)。後半の「3人いれば派閥を作る」は誰が言ったか思い出せない。うろ覚え。 ↩︎

  2. Bitcoin の総量が決まっているという前提は2017年の hard fork で崩れた。 ↩︎