Twitter は堕ちた英雄か

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Twitter の TL で見かけた記事:

この記事で一番面白かったのは

2009年当時の「Twitterとはなんぞや?」には子供が遊び方を考える無邪気さがあったが、2022年末の「マストドンをどう使うべきなのか?」には人生に疲れた中高年の禅問答的なところがある。

という部分だが,それはともかく,個人的に既視感があったのがミャンマーやスリランカのケース。 詳しくはリンク先の記事を見てもらうとして,私が連想したのは「アラブの春」だ。

2010年代当時を思い出してほしいが,「アラブの春」では Facebook や Twitter といった SNS の効果が大きく取り上げられ「技術は社会を変える」みたいなことをほざく輩まで現れた。 しかし,結果としてみれば「アラブの春」で比較的成功したと見られるのは最初のチュニジアの「ジャスミン革命」だけである。 その後に起こったことは,中東全体を混乱に陥れ,いわゆる「武装勢力」の活動を励起し,多数の難民を排出し,それを受け入れる欧州も疲弊し

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【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)
恵, 池内 (著)
新潮社 2016-05-27
単行本(ソフトカバー)
4106037866 (ASIN), 9784106037863 (EAN), 4106037866 (ISBN)
評価     

欧州および中東の近代および現代を「サイクス=ピコ協定」を特異点として網羅的に解説していいる。

reviewed by Spiegel on 2016-07-02 (powered by PA-APIv5)

で記述されるような状況を生み出した。 昨年の(まだ終わってないが)ロシアによるウクライナへの侵略もこれの延長線上にあると考えていいだろう。

記事に書かれたミャンマーやスリランカのケースも発端こそ真逆だが結果は同じく悲惨なものだったようで,こちらは Facebook をブロックする事態にまでなったらしい(まぁ,ブロックした理由はそれだけじゃないだろうが)。

ソーシャルメディアでは心温まる投稿や楽しい投稿にも共感が集まるが、利用者がそれよりも長時間とどまり、拡散する動機となるのは「怒り」というネガティブな感情を掻き立てる投稿である。その中でも人は「moral outrage(道徳的憤慨)」に強く惹きつけられる。

Facebookはそれを熟知しているので、そういったコンテンツがより多く出てくるようなアルゴリズムを作っているのだ。憤慨を引き起こすようなニュースや情報をクリックして読むと、アルゴリズムは同じようなコンテンツをどんどん見せるようになる。その中には偽情報や陰謀論も多いのだが、Facebookはそれらを排除することはない。利用者はクリックすることで、もっと極端なコンテンツを読むようになり、どんどん泥沼にはまりこんでいく。極端なコメントで怒りを煽る人は人気者になれるので、それを狙う人も出てくる。そして、同じ信念を持つ人とだけ繋がって、憤慨を募らせ、団結していく。そういう仕組みなのだ。

SNS サービスはユーザを「量」で評価する。 何故なら「量」で評価することによってお金に換算できるからだ。 お金は異なる価値を同一基準の評価に落とし込める優れた指標でもある(100,000円のイラストは200円の焼きそばパンの500倍の価値がある)。 営利 SNS サービスがユーザを「量」で評価し,その「商品価値」を高めようと努力するのは当然である,忌々しいことに。

こうなると「公益テクノロジー」みたいなことも真剣に考えないといけないよね。

UTF-8 や Go 言語で有名な Rob Pike 氏は最近 Mastodon サーバを引っ越した。

Mastodon はフォロワーごとサーバを移動することができる。 こういうのを見ると,ホンマに「離脱の自由」って大事なんだなぁと思うよ。

某マスク氏の失態のおかげで Twitter からのスイッチング・コストは下がりつつある。 “Rats desert a sinking ship” ってやつである。 これは今回の彼の最大の功績だろう(笑)

個人的には Twitter より Facebook のほうが深刻なんだけど。

「英雄は裁かれない」と言うが,晩節を汚すのも英雄や名君と呼ばれる人である。 Twitter は堕ちた英雄として沈むのか,それともここから名誉挽回するのか。 ある意味で楽しみな2023年である。

それにしても,そろそろ噂の「マストドン小説」は読んでおくべきだろうか。 近年は(仕事の本以外は)「乙女ゲーム転生」ものとか「悪役令嬢」ものとかの Web 小説にハマってて SF とかとんと読まなくなったんだよなぁ。

ブックマーク

参考図書

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ハロー・ワールド (講談社文庫)
藤井太洋 (著)
講談社 2021-03-12 (Release 2021-03-12)
Kindle版
B08XQ7LWKD (ASIN)

まだ読んでない。

reviewed by Spiegel on 2023-01-04 (powered by PA-APIv5)