「出雲国造の成立と出雲臣」を聴講する
今日は「島根の歴史文化講座 2024」の3回目「出雲国造の成立と出雲臣」を聴講しに行った。 その前に駅前の松江テルサの2階に移転した一福で腹ごしらえ。
さて行くか。
「出雲国造の成立と出雲臣」
今回の講演は講師の武廣亮平さんが今年の3月に出版された『古代出雲の氏族と社会』をベースにしたものだそうだ。
まず,記紀や出雲風土記などに見る古代出雲の首長を示す言葉として「出雲国造1」と「出雲臣」がある。 このうち「出雲国造」は役職名みたいなもので「出雲臣」は氏族名を指すものらしい。
ご先祖様はアメノホヒ(天菩比,天穂比など)とある2。 この神様,どうやら(神話的な意味での)出雲平定に大きく関わっているみたいで3,それ故に神話的・政治的に出雲臣あるいは出雲国造の祖先として結び付けられているというのも納得の話だ。 更に言うと,杵築大社(=出雲大社)と国作大神(=オオナモチまたはオオクニヌシ)が倭王権から見て出雲平定の証として機能し,出雲国造がそこの司祭的な役割を担っているというのも面白い。
以前にも「『東西出雲の王』を聴講する」で紹介したが,少なくとも古墳時代6世紀後半の出雲では東西にそれぞれ強力な首長が出現したことが分かっている。
しかし,史料に見る出雲臣は現在の松江市南部の意宇平野を中心とした氏族ではないかと考えられており4,7世紀中頃の評(郡)制下では「於友(=意宇)評督」の地位にあったことが分かっている5。 更に続日本紀には霊亀2年(716年)の記事として出雲臣果安(はたやす)が出雲国造として登場する。 少なくとも律令制下(8世紀〜)では「出雲国造=出雲臣」と見なされ,両者はセットになっているわけだ5。 このときの「出雲」は出雲臣の本拠地である意宇郡ではなく東西出雲全域を指しているらしい。
ここで疑問となるのは
- もう一方の出雲西部の勢力(神門臣?)はどうなったん?
- なんで「出雲」なの? 氏族の出身を指す「意宇」でもええんちゃうん? 「杵築」でも「神門」でもないんだよな
といったあたりか。 講演を聴くかぎり,これらに対する明確な解答(史料)はないらしい。
やっぱ買っとくか
今回の講演は記紀や出雲風土記などの史料をきちんと示しながら大昔からある膨大な出雲研究も踏まえた内容になっており,個人的にかなり面白かった。 興味本位で買うには躊躇するお値段だが,やっぱ『古代出雲の氏族と社会』は買っておくべきかなぁ…
参考
- 古代出雲の氏族と社会 (47) (同成社古代史選書 47)
- 武廣 亮平 (著)
- 同成社 2024-03-11
- 単行本
- 4886219454 (ASIN), 9784886219459 (EAN), 4886219454 (ISBN)
- 評価
「島根の歴史文化講座 2024」で講師をされた武廣亮平さんの著作。興味本位で買うには躊躇するお値段だし地元の県立図書館でも借りれるが,じっくり読みたいので買ってみた。著者の過去の論文を再構成した内容。記紀などの史料や過去の研究者の膨大な文献を整理した上で古代出雲についての考察を行う。
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島根の歴史文化講座の講師は皆さん出雲国造を「いずもこくぞう」と呼んでいて「最近は『こくぞう』が正式名なのか?」と思っていたが,そうではなく,正式には「くにのみやつこ」でいいらしく,音読みは業界隠語みたいなものらしい。そういや高校時代の日本史教師もやたら名称を音読みで呼んでたな。そういうもんなのかね? ↩︎
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アメノホヒの系譜については古事記および日本書紀の「神代」に記述があり,この中で「出雲国造」または「出雲臣」の名がはっきり示されている。 ↩︎
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アメノホヒと(神話的な意味での)出雲平定に関する話は延喜式の「出雲国造神賀詞」にて語られていて,この中で役職としての出雲国造と氏族としての出雲臣がはっきり書き分けられている。ただし,本当に出雲国造あるいは出雲臣のご先祖様が政治的・軍事的な意味で出雲平定を行ったかどうかは議論があるらしい。以前に紹介した「『東西出雲の王』を聴講する」でも書いたように,国造制下の6世紀後半には出雲を東西に二分する氏族勢力があったことが分かっており,役職としての出雲国造とこれら氏族勢力との関係ははっきりしていない。 ↩︎
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出雲臣と意宇郡の氏族勢力との関係を匂わせる史料はあるが,神門郡の勢力との関係を示す史料は見当たらない感じ。 ↩︎
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大化の改新以降の7世紀中頃の評(郡)制下では倭王権による中央集権化が進行する一方で例外となる「神郡」を設置し宗教特区のような運営を行っていたらしい。出雲/意宇も神郡のひとつ。神郡では郡内の税を神社経営に自由に使えるほか,郡司に親族の連任が許されていた。実際に出雲風土記には郡司の各役職で出雲臣の名が見える。神郡については過去記事「八雲立つ風土記の丘 遺跡めぐり(1)」でちょろんと言及している。 ↩︎ ↩︎