旧暦の閏月と旧暦2033年問題
閏月
今回は Bluesky の以下のポストを起点にしてみよう。
2025年の旧暦七夕(伝統的七夕)は8月29日。ここまで遅いのも珍しいと思ったら、今年は旧暦で閏月が入る年でした。旧暦6月と旧暦7月の間に閏6月が入る。なので旧暦7月の始まりが遅い。 www.nao.ac.jp/astro/sky/20...
— K.Fukuda (@kazufukuda.bsky.social) July 19, 2025 at 6:30 PM
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二十四節気は中気と節気の2つのグループに分けられる。 いわゆる旧暦では,朔(新月)から次の朔までの期間(朔望月)に含まれる中気によって月が決まる。
まずは2025年の二十四節気を以下に挙げてみよう。
日付 | 二十四節気 | 中気/節気 |
---|---|---|
2025年1月5日 | 小寒 | 節気 |
2025年1月20日 | 大寒 | 中気 |
2025年2月3日 | 立春 | 節気 |
2025年2月18日 | 雨水 | 中気 |
2025年3月5日 | 啓蟄 | 節気 |
2025年3月20日 | 春分 | 中気 |
2025年4月4日 | 清明 | 節気 |
2025年4月20日 | 穀雨 | 中気 |
2025年5月5日 | 立夏 | 節気 |
2025年5月21日 | 小満 | 中気 |
2025年6月5日 | 芒種 | 節気 |
2025年6月21日 | 夏至 | 中気 |
2025年7月7日 | 小暑 | 節気 |
2025年7月22日 | 大暑 | 中気 |
2025年8月7日 | 立秋 | 節気 |
2025年8月23日 | 処暑 | 中気 |
2025年9月7日 | 白露 | 節気 |
2025年9月23日 | 秋分 | 八月中気 |
2025年10月8日 | 寒露 | 節気 |
2025年10月23日 | 霜降 | 中気 |
2025年11月7日 | 立冬 | 節気 |
2025年11月22日 | 小雪 | 中気 |
2025年12月7日 | 大雪 | 節気 |
2025年12月22日 | 冬至 | 十一月中気 |
このうち中気に注目し,朔の情報と組み合わせてみる。
朔 | 中気 | 旧暦月 |
---|---|---|
2024年12月31日 | 大寒 2025年1月20日 | 十二月 |
2025年1月29日 | 雨水 2025年2月18日 | 一月 |
2025年2月28日 | 春分 2025年3月20日 | 二月 |
2025年3月29日 | 穀雨 2025年4月20日 | 三月 |
2025年4月28日 | 小満 2025年5月21日 | 四月 |
2025年5月27日 | 夏至 2025年6月21日 | 五月 |
2025年6月25日 | 大暑 2025年7月22日 | 六月 |
2025年7月25日 | 閏六月 | |
2025年8月23日 | 処暑 2025年8月23日 | 七月 |
2025年9月22日 | 秋分 (八月中気) 2025年9月23日 | 八月 |
2025年10月21日 | 霜降 2025年10月23日 | 九月 |
2025年11月20日 | 小雪 2025年11月22日 | 十月 |
2025年12月20日 | 冬至 (十一月中気) 2025年12月22日 | 十一月 |
朔望月が29.3~29.8日で変動するのに対し中気から中気の期間は29.5~31.5日で変動し,しかも冬より夏のほうが間隔が長い1。 このため冬の朔望月の期間に中気が2つ重なったり,上の表のように夏の朔望月の期間に中気を含まないことも起こる。 今年2025年の場合は中気を含まない月を「閏六月」とすることで調整する。
もう少し複雑なパターンを挙げてみよう。 1984年から1985年にかけての旧暦月を表にしてみる。
朔 中気1 中気2 旧暦月 1984/08/27 秋分( 9/23) 8月 1984/09/25 霜降(10/23) 9月 1984/10/24 小雪(11/22) 10月 1984/11/23 閏10月 1984/12/22 冬至(12/22) 大寒(1/20) 11月 1985/01/21 雨水( 2/19) 12月 1985/02/20 1月 1985/03/21 春分( 3/21) 2月
この表では中気のない月が2つ,中気が2つある月がひとつある。 まぁ! どうしましょう?
旧暦のベースになっているとされる天保暦には「冬至を含む月は十一月」というルールがある。 このため 1984-12-22 からの月を十一月とし,その前の 1984-11-23 からの月を「閏十月」としている。 以降はひとつずつ月をずらして全体で矛盾なくおさまったわけだ(中気のない 1985-02-20 からの月が閏月でないことに注目)。 めでたしめでたし。
旧暦2033年問題
これで困ったことになるのが2033年から2034年にかけての旧暦月の決定である。
朔 中気1 中気2 案1 案2 案3 2033/07/26 処暑( 8/23) 7月 7月 7月 2033/08/25 8月 閏 7月 8月 2033/09/23 秋分( 9/23) 9月 8月 9月 2033/10/23 霜降(10/23) 10月 9月 10月 2033/11/22 小雪(11/22) 冬至(12/21) 11月 10月 11月 2033/12/22 閏 11月 11月 12月 2034/01/20 大寒( 1/20) 雨水( 2/18) 12月 12月 1月 2034/02/19 1月 1月 閏 1月 2034/03/20 春分( 3/20) 2月 2月 2月
実は旧暦月決定のルールには「冬至を含む月は十一月」の他に「秋分を含む月は八月」というのもある。 しかし秋分を含む朔望月と冬至を含む朔望月の間には朔望月がひとつしかない。 つまり「冬至を含む月は十一月」と「秋分を含む月は八月」のルールのどちらかを諦めない限り旧暦月を決定できないのだ。 これを「旧暦2033年問題」と呼ぶ。
これに対して国立天文台は一応のアドバイスを示している。
ところで,天保暦よりも先に定気法を採用した中国の時憲暦ではどのようになっているのだろう.じつは,冬至を含む月から次に冬至を含む月までに13か月ある場合に,中気が入らない最初の月を閏月とする,と定められているだけなのだそうだ.極めてシンプルであり,これなら案1で確定する.むしろ天保暦のルールが過剰なのがいけないというわけだ.だからといって,すべて時憲暦ルールに合わせればよいということにはならないだろうが,古来,中国や日本の暦法では冬至を定めることが出発点だったことをふまえれば,冬至を優先するのは妥当な判断なのかもしれない.
とはいえ旧暦を管理しているのは国立天文台ではないし,そもそも旧暦を管理している主体など存在しないので(現行暦の暦象を基に天保暦のルールを無理くり合わせてそれっぽく見せてるだけ),まぁ,どうにもならないだろう。
伝統的七夕は旧暦とは(厳密には)関係ない
国立天文台によって「伝統的七夕」は以下のように定義されている。
二十四節気の処暑(しょしょ=太陽黄経が150度になる瞬間)を含む日かそれよりも前で、処暑に最も近い朔(さく=新月)の瞬間を含む日から数えて7日目が「伝統的七夕」の日です。
大抵の場合,処暑は旧暦七月の中気となるため,伝統的七夕は旧暦七月七日と実質的に同じになる。 とはいえ処暑と朔望月の関係だけで決定されているため厳密には旧暦とリンクしないし,もちろん閏月とも関係はない。 2025年の場合は処暑と朔が重なっているため 2025-08-29 とエラい後ろの方だが,そういうことなのである。
ブックマーク
参考図書
- 天文年鑑 2025年版
- 天文年鑑編集委員会 (編集)
- 誠文堂新光社 2024-12-05 (Release 2024-12-05)
- 単行本
- 4416723660 (ASIN), 9784416723661 (EAN), 4416723660 (ISBN)
- 評価
天文ファン必携。2025年版。これが届くと年末って感じ。
- 天体物理学
- Arnab Rai Choudhuri (著), 森 正樹 (翻訳)
- 森北出版 2019-05-28
- 単行本
- 4627275110 (ASIN), 9784627275119 (EAN), 4627275110 (ISBN)
- 評価
興味本位で買うにはちょっとビビる値段なので図書館で借りて読んでいたが,やっぱり手元に置いておきたいのでエイヤで買った。まえがきによると,この手のタイプの教科書はあまりないらしい。内容は非常に堅実で分かりやすい。理系の学部生レベルなら問題なく読めるかな。
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地球の公転軌道はわずかに楕円軌道であり,近日点を1月初旬,遠日点を7月初旬に通過する。二十四節気は太陽黄経を基準にしているため,近日点に近い冬場のほうが中気と中気の期間が短くなる。地球の公転軌道については拙文「地球が遠日点を通過する話」を参照のこと。 ↩︎