OpenSSH の認証鍵を GunPG で作成・管理する

今回は GnuPG で作成した鍵を OpenSSH の認証鍵として使う方法について覚え書きとして記しておく。 現時点で運用できている認証鍵を置き換えるメリットはないが,新たに鍵を作成する場合や今までの鍵を破棄して作り直す場合などの状況があれば検討してもいいだろう。

まず GnuPG で作成する鍵は機能別に以下の4種類に分類される(ひとつの鍵で複数の機能を持たせることもできる)。

機能 略称
署名(sign) S
証明(cert) C
認証(auth) A
暗号化(encr) E

このうち OpenSSH の認証鍵として使えるのは「認証」機能をもった鍵のみである。 認証機能は電子署名用の鍵であれば任意に付与することができるが,専用の副鍵を追加するのがセオリーらしい。

認証用の副鍵を追加する

まず以下の OpenPGP 鍵があるとする(主鍵には SC,副鍵には E の機能が付いてる点に注目)。

$ gpg --list-keys alice
pub   ed25519 2021-01-06 [SC] [有効期限: 2021-01-13]
      011C720B03D2E1D6BCFA98391DFF44901121B61D
uid           [  究極  ] Alice <alice@example.com>
sub   cv25519 2021-01-06 [E]

この鍵に認証用の副鍵を追加する。

いちばん簡単なのはコマンドラインで --quick-add-key を使う方法。 こんな感じに鍵指紋とアルゴリズム(または楕円曲線名)と機能と有効期限(0 なら無期限)を指定する。

$ gpg --quick-add-key 011C720B03D2E1D6BCFA98391DFF44901121B61D ed25519 auth 0

もうひとつは --edit コマンドを使う方法。 --expert オプションと一緒に使うと幸せになれる。

$ gpg --expert --edit-key alice
gpg (GnuPG) 2.2.26; Copyright (C) 2020 Free Software Foundation, Inc.
This is free software: you are free to change and redistribute it.
There is NO WARRANTY, to the extent permitted by law.

秘密鍵が利用できます。

sec  ed25519/1DFF44901121B61D
     作成: 2021-01-06  有効期限: 2021-01-13  利用法: SC  
     信用: 究極        有効性: 究極
ssb  cv25519/4FECD03BE5BE4454
     作成: 2021-01-06  有効期限: 無期限      利用法: E   
[  究極  ] (1). Alice <alice@example.com>

gpg> 

ここで addkey コマンドを入力する。

gpg> addkey
ご希望の鍵の種類を選択してください:
   (3) DSA (署名のみ)
   (4) RSA (署名のみ)
   (5) Elgamal (暗号化のみ)
   (6) RSA (暗号化のみ)
   (7) DSA (機能をあなた自身で設定)
   (8) RSA (機能をあなた自身で設定)
  (10) ECC (署名のみ)
  (11) ECC (機能をあなた自身で設定)
  (12) ECC (暗号化のみ)
  (13) 既存の鍵
  (14) カードに存在する鍵
あなたの選択は? 

今回は認証用の鍵の追加なので 7, 8, 11 のいずれかを選択する。 ここは個人的な好みで ECC 鍵を選択しよう。

あなたの選択は? 11

鍵ECDSA/EdDSAに認められた操作: Sign Authenticate 
現在の認められた操作: Sign 

   (S) 署名機能を反転する
   (A) 認証機能を反転する
   (Q) 完了

   あなたの選択は? 

現在は署名機能(Sign)のみ有効になっているが,欲しいのは認証機能のみなので SA を一回づつ入力する。

あなたの選択は? s

鍵ECDSA/EdDSAに認められた操作: Sign Authenticate 
現在の認められた操作: 

   (S) 署名機能を反転する
   (A) 認証機能を反転する
   (Q) 完了

あなたの選択は? a

鍵ECDSA/EdDSAに認められた操作: Sign Authenticate 
現在の認められた操作: Authenticate 

   (S) 署名機能を反転する
   (A) 認証機能を反転する
   (Q) 完了

あなたの選択は? 

これで認証機能(Authenticate)のみ有効になった。 Q を入力して次に進もう。

あなたの選択は? q
ご希望の楕円曲線を選択してください:
   (1) Curve 25519
   (3) NIST P-256
   (4) NIST P-384
   (5) NIST P-521
   (6) Brainpool P-256
   (7) Brainpool P-384
   (8) Brainpool P-512
   (9) secp256k1
あなたの選択は? 

OpenSSH の認証用には 1 から 5 の楕円曲線のいずれかを選択する。 個人的なお勧めは 1 の “Curve 25519” である。 理由は以下の記事を参考のこと。

では 1 を入力して先に進む。

あなたの選択は? 1
鍵の有効期限を指定してください。
         0 = 鍵は無期限
      <n>  = 鍵は n 日間で期限切れ
      <n>w = 鍵は n 週間で期限切れ
      <n>m = 鍵は n か月間で期限切れ
      <n>y = 鍵は n 年間で期限切れ
鍵の有効期間は? (0)0
鍵は無期限です

有効期限は意味がないので無期限(0)を選択する。 理由は後述するのでちょっと待ってね。

最終確認をして鍵を生成する。

これで正しいですか? (y/N) y
本当に作成しますか? (y/N) y         
たくさんのランダム・バイトの生成が必要です。キーボードを打つ、マウスを動か
す、ディスクにアクセスするなどの他の操作を素数生成の間に行うことで、乱数生
成器に十分なエントロピーを供給する機会を与えることができます。

sec  ed25519/1DFF44901121B61D
     作成: 2021-01-06  有効期限: 2021-01-13  利用法: SC  
     信用: 究極        有効性: 究極
ssb  cv25519/4FECD03BE5BE4454
     作成: 2021-01-06  有効期限: 無期限      利用法: E   
ssb  ed25519/230D446E390C3E49
     作成: 2021-01-06  有効期限: 無期限      利用法: A   
[  究極  ] (1). Alice <alice@example.com>

gpg> save

最後は save コマンドを入力して結果を鍵束に保存する。 これで

$ gpg --list-keys alice
pub   ed25519 2021-01-06 [SC] [有効期限: 2021-01-13]
      011C720B03D2E1D6BCFA98391DFF44901121B61D
uid           [  究極  ] Alice <alice@example.com>
sub   cv25519 2021-01-06 [E]
sub   ed25519 2021-01-06 [A]

認証用の鍵が追加できた。

OpenSSH フォーマットの公開鍵を出力する。

OpenSSH フォーマットの公開鍵は --export-ssh-key コマンドで出力できる。

$ gpg --export-ssh-key alice
ssh-ed25519 AAAAC3NzaC1lZDI1NTE5AAAAIFfjejx/Saej929myfZoBQAKgusPi2iiOxdZZfpCLxh5 openpgp:0x390C3E49

このテキストをホスト機の ~/.ssh/authorized_keys ファイルに追記すれば仕込みは完了である。 パーミッションの変更を忘れずに(笑)

この操作で分かると思うが OpenSSH フォーマットで出力する時点で OpenPGP 鍵の情報はほぼ脱落している。 だから「有効期限は意味がない」のよ。

ちなみにこの操作は公開鍵に対して行われる。 たとえば,認証用の鍵を付加した OpenPGP 公開鍵をサーバ管理者に渡せば,サーバ管理者は集めた OpenPGP 公開鍵に署名して完全性を確保した後, OpenSSH 認証用公開鍵を抽出して各ユーザのディレクトリにまとめてセットする,といったこともできるだろう。

ローカル側の設定 【2021-01-09 変更・追記あり】

念のためローカル側の設定についても記しておく。

ssh-agent を gpg-agent に置き換える

OpenSSH では ssh-agentGnuPGgpg-agent に置き換えることで鍵の管理を GnuPG 側に委譲できる。

Ubuntu の設定手順については以下の記事でまとめている。

Windows については,古い内容で恐縮だが,以下の記事を参考にして欲しい。

OpenSSH 認証鍵の登録

GnuPG の鍵束の鍵を OpenSSH の認証鍵として使うには ~/.gnupg/sshcontrol ファイルへの登録が必要である。 先ほど作成した鍵であれば,まず以下のコマンドで

$ gpg --list-keys --with-keygrip alice
pub   ed25519 2021-01-06 [SC] [有効期限: 2021-01-13]
      011C720B03D2E1D6BCFA98391DFF44901121B61D
      Keygrip = 97249ABEB2A2FD9E88F6723BB19D4F84B90E261A
uid           [  究極  ] Alice <alice@example.com>
sub   cv25519 2021-01-06 [E]
      Keygrip = 96CB831965E1A7EB4705577D6A7CB7F9E05C8192
sub   ed25519 2021-01-06 [A]
      Keygrip = F5C774B5B418B6E0B5B7942F93DE82BF2FEF4C8E

該当する鍵の keygrip 値を調べる。 今回の例なら “F5C774B5B418B6E0B5B7942F93DE82BF2FEF4C8E” が該当する keygrip 値である。 これを ~/.gnupg/sshcontrol ファイルに追記する。

$ echo F5C774B5B418B6E0B5B7942F93DE82BF2FEF4C8E 0 >> ~/.gnupg/sshcontrol

これで ssh-add -L コマンドでこの鍵の内容が表示されればOK。

ちなみに keygrip 値の後ろの 0 はキャッシュ期間(秒)を指すらしい。 0 より大きければ gpg-agent.conf ファイルの指定より優先されるってことかな。 また行頭に ! マークを付けると鍵の使用を無効化できる。

念のため sshcontrol ファイルも不用意に書き込みできないよう制限をかけておくとよいだろう。

ブックマーク

参考図書

photo
暗号化 プライバシーを救った反乱者たち
スティーブン・レビー (著), 斉藤 隆央 (翻訳)
紀伊國屋書店 2002-02-16
単行本
4314009071 (ASIN), 9784314009072 (EAN), 4314009071 (ISBN)
評価     

20世紀末,暗号技術の世界で何があったのか。知りたかったらこちらを読むべし!

reviewed by Spiegel on 2015-03-09 (powered by PA-APIv5)

photo
暗号技術入門 第3版 秘密の国のアリス
結城 浩 (著)
SBクリエイティブ 2015-08-25 (Release 2015-09-17)
Kindle版
B015643CPE (ASIN)
評価     

SHA-3 や Bitcoin/Blockchain など新しい知見や技術要素を大幅追加。暗号技術を使うだけならこれ1冊でとりあえず無問題。

reviewed by Spiegel on 2015-09-20 (powered by PA-APIv5)