「小さな数学者たちの対話の場」を読む

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さて,昨日の話の続き。

図書館で何を読んでたかというと

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トップランナーの図書館活用術 才能を引き出した情報空間 (ライブラリーぶっくす)
晋典, 岡部 (著)
勉誠出版 2017-07-31
単行本
458520055X (ASIN), 9784585200550 (EAN), 458520055X (ISBN)
評価     

大久保ゆうさんと結城浩さんへのインタビューはなかなか面白かった。インタビュイーによって感想が乱高下するが,そこがインタビュー集のいいところ(笑)

reviewed by Spiegel on 2022-10-02 (powered by PA-APIv5)

を読んでました。 「おまえ,その本買ってたんじゃねーの?」と思われるでしょうが,そのとーりッス。

いやね。 最近,余暇を上手く読書に振り分けられないっていうか,ラノベや漫画や Web 小説はスキマ時間で読めるんだけど「今日はこの本を読むぞ」っていうのが上手く捻出できなくて,捻出できてもつい他に目が行ってしまうというか…

で,考えてみたんだけど,自室って自分にとって興味あるものが(全部とは言わなくとも)揃ってるじゃないッスか。 でも,職場では周りに仕事に関するものしかない。 だから仕事に集中できてる? って考えると自宅でリモートワークって私みたいな落ち着きのない人間には無理なんじゃないか,と思えてきた(←言い訳)。

現代において最も価値が高いのは間違いなく「時間」なんだけど,その次か更にその次くらいに価値が高いのは「空間(affordance)」なんじゃないかと最近思うようになった。 仕事でも趣味でも,そこに集中できる時間と空間を持ってる(あるいは使える)っていうのはかなり贅沢なことなんじゃないだろうか。

というわけで,図書館に行くことによって「読書」のための時間と空間を確保できるし,眼の前に魅力的な書架があるのだから,既に持ってる本だろうが,その時に興味を引くものを手に取って読めばいいのである。 同じものを何度も読んで何が悪い(笑)

今回も前説が長くてすみません 🙇

教える側の眼差し

ようやく『トップランナーの図書館活用術』の感想であるが1,今回は個人的にもうひとりのファンである結城浩さんへのインタビューを紹介する。

実は結城浩さんは生物年齢が私より2歳上なだけのほぼ同世代らしいのだが,「数学ガール」シリーズでもデザパタ本とかの技術解説本でもそうだが,教える側の眼差しを感じる著作が多い。 なので私は,もう少し年上の方かと思っていた。 まぁ,精神年齢は私よりだいぶ目上の方だと今でも思っている(笑)

私が彼の作品について「結城浩さんの本はよく整備された遊歩道を散歩するような気楽さと安心感がある」という感想をよく抱くが,これってそういうことなのかな,と思う。

たとえば「ルビはえらい」でも

最近、学年によって習っている漢字だけを使い、それ以外はひらがなにする表記がありますよね。あれ、嫌いなんですよ。それだったら最初から難しい漢字を使って、ルビを振ったほうが絶対いい。大人になってから結局、漢字を見ることになるんですから。

とか書かれていて,教わる側の私から見ても「激しく同意」であった。

教わる側って後から「そうだったのか」ってなることが多いんだよね。 最近の結城浩さんの tweet にも

っていうのがあって「これ骨身にしみて思うようになったのは学校出てからなんだよなぁ」とか愚痴ってしまった。 ホンマ,もっと学校を使い倒せばよかったと思うよ。

後悔先に立たず
後悔あとを絶たず(笑)

私もそうだけど「数学ガール」シリーズを読んで「学校時代にこれがあれば」とか「学校時代に読んでおけば」となりがちなのは,作中で披露される知識以上に,そこに散りばめられている「教える側の眼差し」に反応してしまうからなんじゃないか,と思ったり。

制約が自由を生む

「『数学ガール』で図書館が舞台になったわけ」で,なかなか象徴的な話がある。

秩序を保っているのは、実はとても大事なことです。秩序があるからこそ、自由なことができる。だからみんなが好き勝手ワーワーできるのは、一見、自由なようだけど、実は自由じゃないんだと思います。数学の世界とか、瑞谷先生が支配している空間の内部にいることによって、むしろ逆に発想が自由になる。

私は自由と責任はコインの裏表の関係だと思っている。 人ひとりが無限の責任を背負えないように無限の自由もありえない。 でも,制約やルールを設けることで責任を有限にでき,その裏面の自由も確保できる。 だからこそルール・メイキングは重要なのである。 統制ではなく自由を得るために。

私がこの記事の前説で書いた「空間(affordance)」もこれに該当するのかな。 つか,今回これを図書館で読んでて「なんちうタイムリーな」とか思ったり(笑)

「対話」はポジション・トークでもマウンティングでもない

インタビュアーの岡部晋典さんが「結城さんは伝統的な図書館の枠組みを使いながら、従来の「みんなで勉強する」姿とは別の姿を描いてる気がするんです」と水を向けたのに対して「みんなで勉強するというのとは違っていて、『数学ガール』の世界で行われていることは「対話」だと思うんです」と返され,そこから「対話」に関する話が展開される。 「上手いなぁ」と思いながら読んでいた(笑)

結城浩さんの「対話」に関する考え方は,たとえば『数学ガールの誕生』や近年だと『数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話』あたりを読むと分かりやすい。

でも,まぁ,「対話」って存外むずかしいよね。 どうしても「黄色矮星人は2人いれば力比べを始める」という野尻抱介さんの名言を思い出してしまう。

だから対話に必要な条件は「愛」だと書いてあるのを見て,それはそうだろうけど,と考え込む。 これって人と接する限り終わらないテーマなんだろうな,という気がする。

ブックマーク

参考図書

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数学ガールの誕生 理想の数学対話を求めて
結城 浩 (著)
SBクリエイティブ 2013-09-13 (Release 2014-09-13)
Kindle版
B00NAQA33A (ASIN)
評価     

結城浩さんの講演集。こういう場所に立ち会える今の学生さんは羨ましい。

reviewed by Spiegel on 2013-09-21 (powered by PA-APIv5)

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数学ガールの秘密ノート/学ぶための対話
結城 浩 (著)
SBクリエイティブ 2019-11-22 (Release 2019-11-23)
Kindle版
B081RBRMFB (ASIN)
評価     

ノナちゃん登場。「僕」が大苦戦する回(笑)

reviewed by Spiegel on 2021-12-26 (powered by PA-APIv5)

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クリトン
原題: CRITO
プラトン , sogo (翻訳)
2000-12-20 (Release 2014-09-17)
青空文庫
4333 (図書カードNo.)
評価     

「ソクラテスの弁明」そのものには必ずしも賛同しないが,繰り広げられる対話は「個」と「公」の関係を考える上で面白い作品だと思う。

reviewed by Spiegel on 2020-05-11 (powered by aozorahack)


  1. 事前にこの本があるか図書館サイトで検索したが「トップランナーの図書館活用術」の検索結果を眺めても同名の本は見当たらず,しばらく考えて「才能を引き出した情報空間」のほうがメインタイトルだったことに気がついた。我ながらマヌケである(笑) 今更もう直さないけど。 ↩︎